「な。ひでーと思わねえ?」
「……」
思わず言葉を失った若林である。
猛暑の今年もようやく秋らしい涼さになってきた今日この頃。
若林家の庭の木々も少しずつ色づき、ティータイムを過ごすには気持ちの良いお天気だ。
庭に置かれた木製のテーブルに用意されたアフタヌーンティーセット。
ふかふかのクッションが背もたれに置かれた座り心地の良い椅子。
久しぶりの日本で過ごす休暇をゆっくり楽しもうと思っていたのに
嬉しいような… 若干迷惑のような… なにはともあれ突然の来客であった。
紅茶を一口飲んでため息をついて、あらためて松山に話しかける。
「っつか… なんでうち??」
「若林んちってすげーから一度行ってみた方がいいって、井沢が言うから。」
「うん… それはわかった。それはいいとしよう。でも、今回は別の目的があったんだろ?」
「そうだよ。日向のバカが大切な日を忘れなければ。」
「だからって、東京駅まで来て、なんで東海道新幹線に乗っちゃうんだって話だろ。」
「…だって…」


松山の話はこうだ。

松山と日向が付き合い始めて今日で丸々一年。
つまり、『付き合って一周年記念日vvv』なのだそうだ。
たまたま土曜日で高校が休みだったので、松山はびっくりさせてやろうと東京まで出てきた。
いっそいきなり東邦学園の寮の扉を叩いてやろうかとも思ったが、さすがにそれは…と思いとどまり
うずうずする気持ちを抑えながら、日向に一報入れることにしたのである。
『もしもし?日向?俺だけど。』
『おう。どうした?』
『今どこにいると思う?』
『?なんだ?どこかにいるのか??』
『うん。びっくりするぜ?お前。実はな』
『うあ!!スマン。松山。今ちょっと取り込み中で… 若島津ちょっと待て』
『あの、実は』
『ちょっ… わかしっ ぎゃ!!!』

プツっ ツーツーツー




「あのわけのわからん電話の切り方がやたら腹立つ…」
「…で?俺に電話して?」
「まさかいると思わなくてさ〜。こっちにいるんだったらこのタイミングを逃すまいと。」
「まあ、確かに。日向より俺の方が会える度としてはレアかもしれんが」
それにしたって、わざわざ記念日を祝おうと恋人に会いに来たはずが…
というか、それ以前にお前ら付き合っとったんかーーーい!!というツッコミを入れるタイミングも逃したが。
「でも、一周年の記念日は一回きりしかないんだぜ?いいのか?」
「…いいんだ。もう。」
がっかりしたような、拗ねたような、微妙な表情で松山は俯いてしまった。
…あれ???こいつ、超かわいくね????
若林ゲンゾーの頭の片隅に、ふいに浮かんだ言葉。
かわいい???
松山が???
いやしかし、これを『かわいい』以外の他の言葉で表現できようものか?いやできん!!
男、若林源三。心のままに動こうではないか。
「松山。」
「ん?」
「俺が日向の代わりに、今日一日そばにいてやろうか?」
「????」
「いや、日向の代わりなんて冗談じゃないな。俺はお前に日向以上のモノを与えてやれるぜ?」
「…わか ばやし???」
握ってきた手は世界で活躍するGKだけあって、大きくてゴツゴツしていて頼りがいがあって。
それは若林本人からにじみ出る人柄でもあり…
手と同じく、大きく頼りがいのある身体に包まれたら、何もかもをゆだねてしまいたくな…

バキーーーーーっっ

「いってーーーーー!!!」
激痛の走った後頭部を抑えつつ振り返ると、そこには拳を握りしめたままの
「岬vvvv」
「み、みみみみ、みさ  き、 さん。」
岬太郎が立っていた。
「あーーーーれーーーー???なにしてんのかなーーーー???若林君????」
ひいいいいいいいいい!!!!
若林の背筋はカチンコチンに凍りついた。
ちなみに若林×岬なのか、若林→岬(片想い)なのか、岬→若林(主従関係)なのかは想像にお任せシマス。
「岬!元気だったか?!!」
「もちろんvv松山も元気そうだね。」
すぐにアニメのようなメイド服を着たお手伝いさんが椅子を用意し、岬は松山と若林の間に陣取った。
「…え?俺は、俺が帰国したってメールしか送ってないはずだが?」
若林が首を傾げると
「松山からメールがきたの。ってゆーか、隠すつもりだったわけ?若林君?」
「だっ… ちっ 違うっっ」
「何焦ってるの?」
「あっ… あしぇってなんか いにゃいっっ」
と、思いっきりカミカミな感じで、若林は残った紅茶を一気飲みした。


「ところで松山、小次郎と付き合ってたの?」
正面からドスンとストレートパンチを喰らわす岬である。
「あれ?俺言ってなかった??」
「初耳ですけどー?」
じろり、と睨みつけてみるが、そんなことは松山には全く通じず。
むしろニコニコしながら「そうなんだ。今日で一周年なんだ〜」などと無邪気に答える。
やれやれ…という表情で、岬は若林をチラリと見やって続けた。
「一周年記念日に、こんなところで何してんのさ?」
こんなところとは何だーーー!!と、若林はあくまでも口には出さず、心の中で叫ぶ。
「だーかーらー。日向の奴がな。忘れてやがったんだよ。」
「一周年記念日を?」
「そう。ひどいだろ?」
「それはひどいね!!!!」
やたら同意する岬を後目に、若林は心の中で「なんで?」と思ったがこれまた口には出さずにいた。
それにしても、岬も松山も男のくせに、そういう記念日とか大事にするあたり女子っぽいな、と思う。
いや、そんなことより、岬にとっては日向と松山が付き合うことはもっと突っ込むべきところじゃないのか??
「ようし。僕が説教してあげるよ!」
「頼むぜ岬。お前の説教はおそらくかなり有効なはずだ。」
携帯を取り出し、日向に電話をかける岬。
しばらくすると日向が電話に出たようである。
「あ。もしもし?小次郎?大事な日に松山一人にして何してんのさ?え??今向かってる???」
耳を疑うような岬の言葉に松山が反応するが早いか、
どこからともなく現在電話中の日向が目の前に現れた。
「ええええ?!!!」
「日向!!!」
「小次郎?!!」
三人が声をあげると、かなり本気で走ってきたらしき日向はぜいぜいと息をしながら
「忘れてっ  ねえ ぞっっ 」
そう言って、松山の腕を掴んで立ち上がらせるといきなり抱きしめた。
「愛してるぜ!!松山!!」
「ひゅ」
「誕生日おめでとう!!!!」
「………」


バキーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ







「ばっかじゃないの?小次郎。」
「……」
「松山の誕生日、6月でしょ?」
「ああ。冷静に考えてみると、確かにそうだな…」
おかしいと思ったんだ… と日向はぼそりと言った。
「いてて…」
「ちょっと我慢して。」
日向の切れた唇の端に、岬が消毒液をつけてやる。
未だ怒り心頭の松山は、部屋の隅の方でこちらを睨みつけながら仁王立ち中。
そこにしばらく姿を消していた若林が戻ってきた。
「おい。とりあえず立て替えておいたぞ。」
「すまん。」
駅からタクシーに乗り込んだ日向は、その時点で一銭も持っていなかったらしい。
日向が来てからしばらくして、
おどおどしながらタクシーの運転手が「代金がまだ…」と若林家のチャイムを鳴らした。
運転手は『こんな豪邸に住んでおきながら代金払わねえのかよっ』と思ったに違いない。
「俺にまで恥をかかせるな。」
ため息まじりに若林が言った。
「お前、電車賃はどうしたんだ?」
新幹線乗ってきたんだろ?と尋ねると
「小泉さんに遭遇して理由を話したら回数券をくれた。」
…ああ、例のあの人か…。
若林はすぐに真っ白い帽子を被る小泉女史の顔が頭に浮かんだ。
「あの人、相変わらずお前には随分と甘いんだな。」
「小次郎って小泉さんの何なの〜?」
面白がって言う岬に、若林は「やめとけ。」と大人な態度をとる。
「おい。バカ。なんで今日が俺の誕生日なんだ。」
遠くから眺めていた松山が、ようやく口を開いた。
「若島津が」
「若島津ぅ?」
「お前との電話切れてから、そーいや松山、今日誕生日じゃなかったですか〜?って言うから。」
「ほう…」
また若島津か…
ただでさえ幼馴染で仲良しの二人にちょっとヤキモチなど妬いていたというのに…
「また若島津か」
「またって、なんだよ?」
「…なんでもねえよ。」
自分と小田や岬のことは棚の上の上の方に上げておいて、松山はチっと舌打ちをした。
そうだ。思い出した。
自分と電話してる最中でさえ、なんか、若島津といちゃこらしてるっぽかったな…
松山は口をへの字にして、ぷいっとそっぽを向いた。
「あれ?でもどうして松山が若林君のところにいるって知ったの??」
消毒液を薬箱にしまいながら、岬が尋ねた。
「松山からのメールで。」
「は???」
岬と若林が同時に松山の顔を見た。
松山は相変わらず口をへの字にしたままで。
「ほら。」
日向が見せたメールにはハッキリと
『若林んちに行く。バーカ。』
と、馬鹿はお前だろ?!と言いたくなるような文面…
若林は思わず大きなため息をついた。
「結局、俺はこのバカップルの痴話喧嘩に巻き込まれたってだけなんだな。」
「最初っからそうだよ若林君。」
岬は無表情でそう言って立ち上がった。
せっかくの休暇だったのに…と若林は肩を落とす。
「じゃ、僕そろそろ帰るね。」
「え?!!岬帰るのか?!!」
同時に言ったのは若林と松山で。
「えええっ せっかく会えたと思ったのにっっ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、松山。僕これから用事あるし。
 それに、もう小次郎に会えたんだからいいじゃない。」
じゃね、と言って部屋を出ようとする岬の腕を掴んだのは若林だった。
「ちょっ… 岬、ホントに帰るのか?!」
「帰るよ。あとよろしくね。」
「ええええっっ」
本気で勘弁してくれ!!という顔の若林の耳元に、岬は何か囁いた。



「仕方ない。今日はうちに泊って行け。そのかわりちゃんと仲直りするんだぞ。」
若林の言葉に、日向と松山は顔を見合わせた。
「え…?いいのか??」
「仕方ないだろ?日向はともかく、松山はこれから帰るのは無理だろうし。」
だいたい、お前ら宿泊する金なんてないんだろうが、と言うと
「それどころか帰りの電車賃もねえ。」
「日向… 自信満々に言うな…。」
無駄に偉そうにふんぞり返る日向に、若林は苦笑いした。
「そうだぞ!日向!!お前後からちゃんと若林に金返せよ!!」
「てめーが言うな!だいたい、てめーがわけのわからん行動をとりまくって
 挙句の果てに東京通り越して静岡まで行くってなんなんだ!!バカだろ!!」
「バカって言う奴がバカだ!!ばーか ばーか」
「なんだと?!!」
「っつか俺の誕生日も付き合って一周年記念日も忘れてたくせに!!」
いつも通りの掴みあいの喧嘩が始まり、若林家の高級な花瓶あたりがブチ割れそうになったところで
「お前らーーーーー!!!うちで喧嘩するんじゃない!!!!」
若林の一喝が入った。

この後二人がちゃんと仲直りできたかどうかは定かではないが、
結局飲食代も電車賃も航空費もなぜか全部若林持ちになったことは確かである。




(完)


ミナ様に捧ぐ「記念日ネタ」でした!!
ミナ様の素敵な記念日に、「マツコジの記念日ネタ」とのリクエストでございます☆
色々考えたのですが(ラブいやつとかエロいやつとか…)
最終的に「周りを巻き込みまくって、迷惑な喧嘩マツコジ、でも最終的にはラブいんだろ?!!」
みたいなのが、彼ららしくていいかな〜と。
マツコジ、源松、松岬、源岬、入り乱れvvv
源さんはみさっくんに何を耳打ちされたのかしら???うふふvvv
マツコジをちゃんと仲直りさせたあかつきには、みさっくんのご褒美があるらしいです。



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