青い空に、長いホイッスルが響き渡って、

白いハチマキがグラウンドに落ちた。

 

―届かなかった。

手を伸ばせば、届いたかもしれないのに。

後、10cm、後、1cmが、届かなかった、夏。

だから、おれは。

 

 

『Reach for the moon!』

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・終わったな」

ジュニアユース大会が終わって、帰り支度をしていたら日向が声をかけてきた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」

「何だか、意外なんだけどよ」

後ろ向きのまま、スーツケースに荷物を詰めているおれに話しかける。

「・・・・・・・・・・何が?」

「ずっとライバルだって、思ってた奴らなのにな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

窓の下から聞こえる、翼や岬、若林たちの話し声。

多分、それを見ながら日向は話し続ける。

 

 

「味方になると、とんでもなく頼りになっちまうんだもんな。

まあ、どうあっても翼にだけは頼りたくねえんだけどよ」

元々多くない荷物。

目線を合わせない理由が無くなってしまって、おれは日向に向き合った。

「・・・・・・・・・・・来年は、借りを返してくれるんだろ?」

びっくりして、目を見つめ返してしまった。

そうして思う。

ああ、やっぱりおれは・・・・・・・・、と。

「・・・・・・・・・・無理かもしんねえな」

「・・・・・・・・・・・らしくねえ。ずいぶん気弱だな」

「何人かは、ふらのを離れちまう。サッカーも辞めちまう。

お前のとこみてえに、恵まれてはいないんでね」

「来年は無理でも、いつか出てくる気なんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・当たり前だろ?」

そう答えると、満足そうに笑った。

「まあ、どうせ来年出てくると思うぜ?

お前が大人しく観客席とかテレビとかで見てるとは思えねえからな」

また、後ろ向きになった奴に近づいてみる。

そして、背中に自分の額を付けてみた。

「松山??」

「・・・・・・・・・・・・・・・おれは・・・・・・・・・・・・・・・・・」

日向は無言でそのままでいた。

「おれは、努力した。努力して、努力して・・・・・・・・・。でも、

翼だってやっぱり努力してやがって・・・・・・・・・叶わなかった」

「松山」

「でも、おれは・・・・・・・・・・・・・

努力しても届かないことがあるなんて、まだ思いたくねえんだ。

いつになるかわからねえ。ずっと、先のことかもしれねえ。

でも、おれはいつか翼を倒すし、・・・・・・・・お前も倒す。

今回のことはいい経験になったし、いい仲間だって思ってる。

・・・・・・・・・・だけど、それとこれとは、別だ」

「・・・・・・・・・・・・ホントに、らしいな」

 

 

そう言って不敵に笑う日向に、胸が焦げるような気持ちになる。

多分、あの最初に対戦した時から感じていた想い。

魅かれて、焦がれて。でも、それこそ負けたみたいで認めたくなかった。

でも。

「だから・・・・・・・・・・手が届くものは・・・捕まえたいんだ・・・・・・」

そして、後ろ向きの奴に背中越しに抱きついてみた。

日向の体が、少し動いた。

「松山?」

「・・・・・・・・・・・・来年は、会えないかもしれない。

そうすると、今度はいつ会えるかわからねえ・・・・・・・・・・・・・

おれは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ここまで言うと日向が向き直って、また目と目があってしまった。

覚悟したはずなのに、いざ、面と向かってしまうと顔が赤らんでいくのがわかる。

「それは、どういう意味だ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・だ・・・・・・・・・・・・・からっ」

言いあぐねていると、強く抱きしめ返された。

「大切なんだ」

「え?」

「だから、必ず来年会おう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日向?」

 

 

テスト前なんかに部活が禁止になって、家にいると表で子供の遊ぶ声が聞こえてきた。

その時みたいに、仲間たちの声が外に響いていた。

自分だけ明るい世界から切り離されたみたいな、そんな錯覚。

 

 

 

「来年会って、それでもまだお前の気持ちが変わらなかったら、そうしたら・・・・・・」

「え?」

そう言って、ふわりと口づけられた。

「え??」

「こういう、意味だろ?お前が言うのは」

「っ・・・・・・・・・・・・・!」

びっくりして、思わず口元を押さえてしまう。

一世一代の告白を、簡単に見抜かれてしまった。

「おれは、まさかってずっと思ってたんだ」

もう、おれはその話し続ける顔を見つめるしかなくて。

「でも、反町の奴が、絶対そうだって言うから・・・・・・・・・・

おれも、そうだって、言うから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そう言って俯きながら頭をかく日向の顔も真っ赤だった。

「男同士なのに、そんなことねえってずっと言ってたんだけど。

この合宿で、その・・・・・・・・・・一緒に生活してから、なんていうか・・・・」

「日向・・・・・・・・・・・・・・・」

「お前が気になるんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おれも・・・」

 

 

お互い、らしくない。

 

 

「日向」

「だから、来年・・・来年が無理なら再来年・・・必ずやってこい」

また、正面から抱きしめられた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

おれは、何も言えなくて・・・・・・・・・・・。

「おれを、倒しにこい」

 

 

涙が出るくらい感情が高まったけど、必死の思いでそれを堪えた。

言葉は何一つ出てこなくて、強くその瞳を見つめて、ただ頷いていた。

 

 

言葉なんか、きっといらない。

きっと、それだけで分かり合えている。

何の根拠もないのに、強く、その時おれはそう思ったんだ。

 

 

手を伸ばしても届かなかった気持ちを知っている。

だから、手が届くものは必死に手を伸ばして捕まえたいんだ。

 



haruharu様から頂いた、5周年記念オメvSSでしたvvv
もおおおおおっっ なんですか?!素敵すぎやしませんか?!!!
松山の背中からの攻めvvvvv
胸ぎゅーーーーーーーーーーんっっ
って、宮迫さん並みにぎゅーーーーーーーーんっっ(古)
かわいくて爽やかで、本当に素敵なSSありがとうございました!!!!
幸せです〜(^^)

love-top