「で…?」
「どうしたらいいと思う?」
「………」
そう言って小首を傾げる大好きな幼馴染に、岬太郎は盛大にため息をついた。
「松山、なんでそれを僕に聞くわけ?」
「え?だって他に聞けそうな奴いねーし。」
何の迷いもなくすこんっと答えられて、岬はツッコむことすら忘れてしまった。
「…反町とか」
「アイツは日向と仲良しだからダメ。」
「じゃ、新田とか」
「年下にそんなこと聞けるかっ」
だからって、なんで僕なんだ…と思うが、松山の顔は真剣そのものである。
なんつーか、相談内容的には中学生レベルなわけだが、今松山の目の前にあるのは紛れもなく生中と枝豆。
もうそこそこ(十分?)いい大人だ。
「…じゃあ、三杉君に聞いてみようか。」
「三杉?」
あ。そこはいいんだ…基準がよくわからないな〜 と思いながら岬は続ける。
「三杉君だったら、僕よりはよっぽど役立つこと言ってくれると思うよ。」
「そうなのか?」
「だいたい、僕、松山と小次郎が付き合ってること自体本当は認めたくないし。」
「う。」
ジロリ、と睨むと、松山はわざとらしく目線を逸らす。
岬には言いにくかったのだろう、本人から直接話はなく、又聞き又聞き又聞き…くらいで耳に入ってきた。
(の割に、なんで僕にそーゆーこと聞くかな…)
携帯で三杉淳の名前を探しながら、再び盛大にため息をついた。


『日向とキスしてーんだけど。』


知りません。
勝手にしてください。

喉まで出かかった言葉を飲み込んだ岬である。
どういう経緯でそーゆーことになったのかは知らないけど(むしろ聞きたくない。)
とにかく二人は今、お付き合いをなさっている らしい。
それで、松山は日向とキスしたいのだが、どーにもそんな雰囲気にはならない らしい。
根本的に本当に付き合っているのか、松山が一方的に思っているだけじゃないのか、
もうそこまで疑ってしまいたくなるような発言ではあるのだが(だったら逆に嬉しいけど)
大好きなカワイイ幼馴染の頼みとあっては一肌脱ぐしかない。
応援したい気持ちとブチ壊したい気持ちの間で揺れる岬太郎デス。



「じゃあ、うちの別荘に来るかい?」
「何で?!!」
松山とサシで飲み中のところに呼び出されて合流した三杉淳の意味不明発言に、
岬には珍しく鋭いツッコミを入れた。
「だって、君らが会うのって、試合とか合宿とか、サッカーがらみの時だけなんだろ?」
「まあ今のところほとんどな。」
「そりゃ、サッカーで頭いっぱいなんだから、そんな雰囲気になりっこないじゃないか。
 なられたところで迷惑だし。」
「そうだな。いっそ付き合ってること忘れかけるからな。」
…やっぱり、松山が勝手に思ってるだけなんじゃないか???と思わず岬は疑いの目を向けてしまう。
「だから、サッカーと離れて、一泊旅行でもしたらいい。」
「なるほど。」
「伊豆高原にあるうちの別荘を提供しよう。」
「マジで?!」
満面の笑みで松山は身を乗り出す。
「もちろん。そのかわり、僕らも泊らせてもらうけど。ね。岬君」
「何で?!!」
そしてこれまた鋭いツッコミを入れざるを得ない岬であった。




(絶対このメンツは不自然だ…)
小次郎に企んでいることバレバレなんじゃないかな〜 と思いながらも、
この季節に外でBBQはなかなか素敵だvvと岬はがっつり旅行を楽しんでいたわけだが
「お。これもう焼けてるぞ。はい日向。」
「さんきゅー」
「こっちもいけるぞ。はい日向。」
「おう。」
日向に甲斐甲斐しくエサ…じゃない、肉を与え続ける松山。
(その甘やかし方は一体なんなんだーーーーーっっ)
思わず持っていた割り箸をボッキリ折りそうになってしまった…。

三杉家の別荘のテラスでするBBQは驚くほどゴージャスである。
準備はもちろん万端に整っており、どこからともなく食材が運ばれてきた。
幻の肉とか言われている葉山牛に、地元でとれた新鮮野菜、そしていかにも高そうなワイン。
BBQというよりは高級鉄板焼き店である。

食事もひとしきり済んで、なんとなくまったりタイムには入った頃。
「そうそう。裏にある小川でホタルが観れるよ。」
三杉がワイングラスを片手に言った。
「松山、日向と行ってくるといい。」
「え?」
「僕と岬君はもうちょっと飲んでるから。」
「あ。うん。じゃあ行こうぜ、日向。」
立ち去る二人を見送りながら、岬は三杉に目線を送る。
「怖いなー岬君。睨んじゃって。」
「…だって。」
「頼んだのは君じゃないか。キスさせてやりたいんだろ?」
「そーだけどーーーー」
ムッとした顔で残ったワインを飲み干す。
三杉はくすっと笑い、立ち上がった。
「さて。行ってみる?」
「え?」
「見物。」



月明かり以外の灯はない、薄暗闇の中を二人は並んで歩いていた。
じきにさらさらと耳に心地よい小川の音が聞こえてくる。
「…わぁ…」
松山は思わず声をあげて足を止めた。
小さな光がいくつも、光っては消え、また光る。
幻想的な景色が、そこには広がっていた。
「すごいな…」
「うん… 日向、ホタル見たことある?」
「あるにはあるが、こんなにたくさん見たのは初めてだ。」
「俺は本当に初めて見た…」
時間を忘れ、二人はしばしホタルに見入っていた。
一匹がふわりと空中を漂っていく。
松山はそれを目で追いかけると、ふいにじっと立ちつくしたままの日向の横顔が目に入った。
サッカーの時とはまた違う、真っ直ぐだが、どこか優しいその眼差し…
松山はホタルを驚かさないように、小さな声で話し始める。
「…日向」
「ん?」
「あの、さ… 手ぇ、繋いでも いい?」
「……」
日向は横目でちらっと松山を見て、左手の手の平をTシャツの裾でぎゅっぎゅと拭いてから松山の右手を握った。
大きくて、温かい、日向の手。
よく考えてみれば、キスどころか、こんな風に手を握るのも初めてだ…
サッカーしてる時はあれだけ体全体でぶつかり合ってるのに、
手と手が繋がっているだけでこんなにドキドキするものなのか。
日向の方を見ると、真っ直ぐに前を向いたまま。
「…ひゅーが」
小さな声で呼んでみる。
ん?と返事はするがこちらは見ない。
「なあ。なんでこっち見ねーの?」
「…いや」
「もしかして、緊張してる?」
「…し て ねえ。」
あれ?日向って実は意外と…
そう思ったら、何だか急に気持ちが楽になった。
ずっと、そっけない態度ばかり取られていたから、正直一方通行なのかと思っていた。
思わず、ふふふ、と笑いを零すと、日向は握っていた手をぎゅっとして言った。
「何、笑ってんだ?」
「なんか、良かったって、思って。」
「…何がだ?」
「……ひゅーが」
「?」
「キス しよっか」




「三杉君、悪趣味…」
「え?」
「こういうの、のぞきって言うと思う。」
「じゃあ岬君はやめておく?」
「いや。見るけど。」
結局見るんじゃない、と独り言のようにつぶやいて、三杉は音をたてないように少しだけ窓を開けた。
二階にあるこの部屋は物置として使われていて、一番奥の窓からは建物の裏側が見渡せる。
「お。発見。」
三杉が小声で言った。
「やっぱり悪趣味だよ絶対。」
「なんだかいい雰囲気だよ。」
「そー。」
「見ないの?」
「見たいような、見たくないような」
「複雑な親心?」
「誰が親なのさっ」
窓の横の壁にもたれるようにして背を向けた形の岬と、窓の隙間からまさに覗き見る三杉。
日本を代表するプロサッカー選手がこんなんでいいのだろうか…(いくない。)
「お。手なんか繋いじゃって。」
「え?!」
「いい感じだね。」
「ちょっちょっちょっ」
「なんだい岬君」
三杉を押しのけて岬は窓の外を覗き見た。



「……ひゅーが」
「?」
「キス しよっか」
その言葉に、日向の動きが止まる。
松山が返事を求めるように首を傾げるといきなり強く腕を引かれ、気づけば、日向の胸の中に収まっていた。
「ひゅ」
「松山…」
顔を上げると、少し緊張した様子の日向の顔がすぐそばにあった。
松山はゆっくりと目を閉じる…

と、その時

「ふにゃああああああああ ごおおおおおっっ」


「え?!何?!!」
声に振り返る松山。
だがそこには薄暗闇の中妙に無機質に見える別荘の建物があるばかりで。
「え?…猫????」
「にしちゃ、なんか、変な声じゃなかったか?」
正体のわからない鳴き声(?)に二人は思わず顔を見合わせる。
すると何だか急に照れくさくなって、それがやたら可笑しくなって、二人して吹き出して笑ってしまった。
「ははは… なんか、気ぃ抜けちまった。何だったんだよ今の。」
「…松山って意外と積極的だったんだな。」
「お前こそ意外とウブなんだな。」
「うるさい///」
「そろそろ戻るか?」
「だな。」

…結局二人のキスは叶わなかったが…

「日向っ」
「うん?」

キスなんかよりも、もっと、ずっと、日向に近付けたような気がした。




「ふにゃああああああああ ごおおおおおっっ」
「ふおっっ?! みさっくん?!」
とっさに三杉は岬の腕を掴み、窓の下に座らせる。
三杉には珍しく絵に描いたような慌てっぷり。
「なななななな何をしてくれてるんだい!!?岬君っっ」
小声で言って、当の岬の顔を覗きこむと、完っっ全に目が座っている。
「…絶対バレたと思うよ。今の…」
「あの二人なら大丈夫なんじゃない?」
抑揚のないトーンで割と酷いことを言い放つ岬に、さすがの三杉も背筋が凍りつく。
「まったく。岬君は結局どうしたいわけ?」
苦笑いしながら尋ねると、岬はチラリと横目で三杉を見て
「…よくわかんないよ。僕だって。」
「……」
「ただ」
「ただ?」
「…やっぱ小次郎だけには渡したくないんだよね。」
「結局そこなわけだ。」
やれやれ、日向も可哀そうに…
こんなややこしい小舅がひっついてたんじゃ大変だ…と思わず同情してしまった。
「さて。そろそろ戻ろうか。岬君。」
「え?」
「これ以上の覗き見はヤボってもんだよ。」
「…最初っから十分ヤボでしょ。」
ははは、と乾いた笑いを漏らして、三杉は立ち上がった。
「ところで、この別荘寝室が2つあって、一部屋にベッド2つずつなんだけど。」
岬の腕を引き、立ち上がらせながら三杉は続けた。
「どうする?松山と日向、同じ部屋にしてあげる?」
「断固阻止する。」
「…やっぱりね。」
さてと、僕はどっちの味方になるべきかな…
参謀三杉はしばし頭を悩ませた。


(完)

みゃあ様に押し付けのお礼の品でございました。
これまたお世話になりっぱなしで、無理矢理リクエストして頂きました。
リクエスト内容はブラック岬と貴公子ずん様がバカップルまつこじをいじり倒す。
もしくは超積極的な松山。
とのことでしたので、またもやくっつけてみましたーーーっっ
もちろん、返品可です;;>みゃあ様

積極的な松山を書くと、どうも子供っぽくなってしまいますね;;
個人的には子供っぽい松山も好きなんですが。
奥手な日向しゃんは若干きもちわるいです。(笑)

よいこのみなさんはのぞきはいけませんよ!!


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