「Ordinary Operetta」
 
 
「ふいー・・・あっちぃ〜・・・」
午後の練習が終わり、タオルで流れ落ちる汗を松山が拭う。
この後、どうせ水飲み場で水のかけっこがあるだろうし、シャワールームに直行だから、
あんまり意味がない行為だが。
「今日の夕飯、何だっけ?」
「あれだろ。鶏の丸焼き〜♪」
「ローストチキンって言えよー」
「あー、腹減ったー」
色々なことを口にしながらシャワールームへと消えていく仲間たちの背中を見ながら松山も足を向けようとした。
「・・・あれ?」
ロッカーに入れておいたはずの着替えがなくなってるのに気が付き、首を傾げる。
昼飯が終わった後、新しい下着とジャージを入れたはずだけど?と記憶を遡って。
もう一度ロッカーの中を確認してみたが、着替え一式が見当たらない。部屋に置いてきたか?
いや、でも持ってきてここに入れたよな?と、松山が更に首を傾げていると。
「どうしたの?」
背中をぽん、と叩いて反町が不思議そうな顔をしていた。
それはそうだろう。ロッカーの前に立ち竦んだまま、首を傾げる角度が増していくのだから。
「いや・・・着替えが」
「着替え?」
「ねーんだよな」
「は?ない?・・・えー!?」
いきなりの大音量で反町が疑問符を飛ばすもんだから、松山は勿論、
他のメンバーもついつい耳を押さえたりする。
「何?」
「どした?」
耳を押さえながらも、何があったのか聞いてくるのも凄い。
「大変っ!!」
「だからー。何が?」
「松山の着替えがないんだって!!」
「・・・は?」
「泥棒、ってことか?」
「問題はそこじゃないんだよっ!!」
びし!と泥棒発言をした誰か(スイマセン)を指差す反町。
「ま・つ・や・まの、き・が・え!!」
と言った後、反町は「きー!!」と地団太を踏んで。
「俺の松山の下着を盗むなんてどこのどいつだーっ!!」
という台詞がロッカールームに木霊した。
(いや、「俺の」って・・・)
と思ったのが数名いたとか。
「馬鹿!下着だけじゃねーんだから、そういう風に言うなよ!」
慌てたのは被害にあった松山本人。こんな大騒ぎになるとは思ってなかったので、
思わず反町の腹目掛けて一発。
「・・・まつやまあ・・・」
「ご、ごめんっ!」
利き足は反則だよ〜、と嘆きつつも反町は犯人を捜さないと〜とか呟いている。
「別に、他にも着替えはあるし」
「駄目っ!下着って、新しいやつじゃなかったでしょ!」
「な!何で知ってるんだよ!?」
「今頃松山の下着があんなことやこんなことに・・・っ!!」
「変な想像するな!」
最悪、とか最低、とか罵詈雑言の嵐である。
そりゃ下着を盗んだのだから(正確には着替え一式)犯人は変態さんなのだろうけれど、
松山好き好き光線出しまくりの自分のことは棚に上げておく反町だった。



「あ〜、さっぱりした〜♪」
シャワーで汚れを落とし、実は合宿初日に配給されていたプラクティスジャージ
(恥ずかしいのと、まだ自分はそんなレベルではないと袋に入れたまま保管しておいた)を着た松山は、
ご機嫌な状態で食堂へ向かったのだったが。
「あ、来た来た」
「ご苦労さーん」
仲間の意味深な言葉に、また小首を傾げる。
「何がご苦労様だって?」
「ほら。あれあれ」
そう指差された方向を見ると。
何故か豪華にセッティングが施されている一角が。
「・・・あー・・・」
がっくり、というのではなく、またか、といった感じで今度は肩を落とす松山。
その背中やら肩を叩いていく仲間が、
今日の夕食を取りに列に並ぶのを何とも言えない気持ちで見送っている・・・
のは当人しか知らないかもしれない。
「松山くん」
ふいに優しい声をかけられたのだが、振り向くのが怖いのは気の所為だろうか。
「・・・三杉」
「今日の夕食はスペイン料理にしてみたよ」
そう言って、三杉が楽しそうに笑うのを見て。松山は視線を何となくセッティング済みのテーブルに向けてみた。
松山の好物とも言えるフライドチキン(味付けはスペイン風)を始め。
どこで手に入れたのか知らないが、ハモン・イベリコ。
メインはパエリアだろうか。海老やら名前も知らない貝類が乗ったサフラン色のご飯。
それから、日本でもよく見るポテトサラダ。
デザートなんだろうか。某テーマパークでよくみかけるチュロスと、クレマカタラーナ。
美味しければ何でも食べる松山だが、ちょっとこれは・・・カロリーオーバーしてるのではないだろうか。
ピッチャーに揺れるスライスレモン入りの飲み物は、まさか・・・。
「これ、酒だろ!」
「アルコールは入れてないから大丈夫だよ」
「そういう問題か!?」
「サングリアだよ。アルコール抜きでも作れるんだって」
「いや!だからー!」
そう抗議したとこおで、松山の願いが叶う筈もなく。
「美味しいよ?」
そう言ってパエリアが乗ったスプーンを鼻先へ突き付けられたら・・・逃げられない。
はい、あーんvと言われて、更に逃げ場がなくなり。仕方なく口を大きく開けて、スプーンの中身を食べると。
「・・・美味い」
「だろう?」
にこにこと笑顔を絶やさない三杉が、椅子に座れと要求してくるのに従ってしまうのは、
食欲旺盛な自分の所為なんだろうか。
「おかわりもあるからね」
嬉しそうに笑う三杉につられてサングリア(アルコール無し)を口に含めば、爽やかだけど奥深い・・・のだろうか。
フルーツの良い匂いと香りと味がした。



「・・・という訳」
配給されてから着ていないプラクティスジャージに袖を通した理由と。
腹がいっぱいで動けない、みたいな理由を言ったら、渋柿を潰したような顔で日向は松山を見た。
なんつーか・・・こう・・・。アプローチされているのが分かってないのか?
ってことは、俺のアプローチも分かってないんだろうな・・・と哀愁を背負ってみたり。
「どうかしたか?」
「いや。なんでもねえ」
ベッドの上にごろん、と寝転がったまま視線を元に戻す日向に、松山がきょとんとした表情を作る。
「で?」
「うん?」
「着替えは見付かったのか?」
「それがさー。まだなんだよな。つか、俺の着替えなんて盗んだって、面白くも何ともねえだろ〜」
普通の白Tシャツ(辛うじてアディ○スだったが)に、これまた何の変哲もないハーフパンツ(これもア○ィダス)。
そして、色気も何もないグレーのボクサーパンツ。
「でも、どこいっちゃったのかなー?」
ま、いいけどと呟く松山の方を向かず、日向は心の中で「この鈍感・・・」と思っていた。
松山は無意識なんだろうけれど、着替え一式をぐちゃぐちゃに丸めてロッカーに入れるのが常だったりする。
つまり、下着や靴下なんかも一緒にぐっちゃぐちゃ状態。
それを解いて、下着だけ盗むのは・・・至難の業だろう。
(ったく・・・誰だよ、盗んだ奴・・・)
見当がつかないが、自分以外にも松山のことを狙っている奴がいるから、
その中の誰か・・・ということなんだろうが。
「なあ、日向」
「あ?」
「ちょっとさ・・・ボール蹴りにいかねえ?」
食い過ぎちゃったから動かねえと、とか言いながら、何となく恥ずかしそうな・・・のは何故?
「別に構わんぞ」
「やった!ほら、早く早くっ!」
「分かったから引っ張るな!」
と言いながらも、腕を柔らかい手で?まれてせがまれるのは・・・悪くないかもな、と日向が思ったとか何とか。
しかし、そう世の中は甘くなく。
「日向さん!抜け駆けはなしですよっ!」
「松山くん。練習後の飲み物は何がいい?」
「おい!邪魔するな!」
目立たないように、とグラウンドの隅でボールを蹴っていたというのに・・・何処から湧いて出たのか、
反町と三杉がやってきて、松山に・・・あわよくば触ろうとしたりするもんだから、
日向の機嫌が段々悪くなっていく。
「ちょ、おい。3人とも」
「頬が汚れているよ?」
「あ、サンキュ」
「松山あああ!!三杉なんかに触らせないでよっ!」
「なんかって・・・ひどい言い草だね。明日のメニュー、追加してあげようか?」
「そうやってすぐ俺だけ悪者扱いすんの、やめてくんない!?」
「お前等うるせえぞ」
「日向さんだって本当は触りたいんでしょ!?」
「なっ///」
「おや?赤くなったね」
「だだだ、誰がこんな奴にっ!!」
「こんな奴だとー?(怒)」
「い、今のは言葉のあやっつーか、なんつーか!」
「言い訳無用ですよ!」
「そうそう。松山くん、肩も汚れてるよ?」
「だー!!気安く触んないでよね!」
「反町、危ねーから急に引っ張るなよな〜」
「ごめーんv」
「・・・いい加減にしろよ、本当に・・・」


グラウンドにいる3人で、
頭上に段々怒りマークが増えていく松山の体をあっちこっちへ引っ張りながら言い合いしている様子に、
合宿所にいる仲間たちは苦笑しつつも面白がっていた。
「こんなんでヨーロッパとか行って大丈夫なんか?」
「俺に聞くなよ」
「つーかさ、松山って誰が好きなんだろうな?」
「さあ?」
「松山さえはっきりすれば、こんなことにはならねえのになー」
「だよなー」
「早く誰かとくっついちゃえばいいのなー」
「だよなー」
「あ。日向が殴られた」
「おー。飛んだなー」
「ってことは・・・日向はなしかな?」
「あれじゃね?喧嘩するほど仲がいいとか」
「本命はやっぱ日向?」
「対抗は三杉か?」
「じゃあ、大穴は反町かな?」
「かもなー」
なんて、無責任発言が続いてたりする。




ところで、下着(だから、着替え一式)を盗んだ犯人は、合宿所に入り込んだ近所のわんちゃんだったらしい。
このわんちゃん、実は松山だけに物凄く懐いている。

・・・大穴はわんちゃんだったりして・・・?





ミナ様ありがとうございました!!!
「日向、反町、三杉で松山を取り合うお話vvv」という無茶ぶり…;;
あたしこんな無茶ぶりばっかりしてたら誰もリクエスト受け付けてもらえなくなるかも!!!
スミマセン…
でもさすがミナさんvv素敵なお話ありがとうございました!!
個人的には御馳走で手懐けようとする淳様が好きです。うふふ。
そしてわんちゃんの正体はおそらくジョンでしょうな。(笑)

ちなみになんでこのリクエストにしたかというと…
「美●ですね」にハマっていたからーーーっっ(爆)
テ●ョン→日向
シ●→三杉
ジェ●ミ→反町
って感じです。

出番が少なくてもジェ●ミさんが一番好きvv
反町ポジションの子に目がないvvvv

love-top