「恋に落ちるとき」

頼りがいがある奴。キャプテンシーもあるし、精神的支柱。
そう思ってた。あの時までは。

松山が東邦に編入してきたのは高2のとき。
噂では「ウチの戦力を完璧にするにはどうしても必要なのよ!」
と半ば強引に引き抜いたとか。(誰とは言わんが某女史)
2トップの日向さんと俺。GKの健ちゃんは良いがMFとDFが決め手にかけるらしい。両方できて俺らと同レベル。当然の人選だろうけど。

女史に見込まれ逃れようも無く、松山はチームメイトになった。
ウチの環境は学生サッカーとしちゃ最高だし、特待生扱いだから、ま、悪い話じゃないよね。
でも。それだけで編入する奴じゃないと思っていたから本当の理由に気付いたとき、至極納得したもんだ。

松山の瞳はいつもあの人を映していた。その瞳に捕らえた途端、すごく嬉しそうに笑うんだ。子供みたいに。
日向さんと健ちゃんが話しているとチョット不機嫌になる。それってヤキモチだよね。
たぶん、中学の頃から。松山は日向さんに恋してた。
だから東邦に来た。

そして・・・。


委員会で部活に遅れた俺はいつもより静かな部の空気に違和感を感じた。
松山がいない。毎日の日向さんと松山のケンカがないから静かなのか。
健ちゃんや他の奴らに聞いても知らない、と言う。
そして何故か日向さんからは(話かけんじゃねぇ!)オーラが出ていて。
・・・なんかあったかも?

「反町、いいか?」
寮に戻ってから健ちゃんが俺の部屋に来るなんて珍しい。
俺の同室者が他の部活なので遠慮しているらしい。それでも来たって事は。
「いいよ。なんかあった?」
「松山、見たか?」
「いや。まだもどってないの?」
「・・・。」
「?」
「失恋。」
「はぁ?」
「松山、キャプテンに勢い余って告ったんだが。」
「勢い・・・。」
「ん。俺と話しているところに突っ掛かって来てな。」
ケンカになってその勢いでつい好きだ、と言ってしまったらしい。
トホホ・・・。松山よ。バカな子か、お前は。
「で、振られたんだ。」
「ああ。キャプテンはノンケだから考えらんねぇだろうし。」
「まあ、そうだろ、普通。仕方ないんじゃね?」
「つーことで、探して来い。」
「なんで俺・・・」
「へんな誤解をしているから。」
「あ〜、日向さんと健ちゃんが幼馴染以上のカ・ン・ケ・イvって?」
ギロリと睨まれ身の危険を感じたので素直に探しに出た。
松山の事も心配だしね。

たぶん、あそこだろうと寮の裏庭に行くとやっぱり居た。
体育座りをして俯いているから顔は見えないけど。
背後から近づき声を掛けた。
「ひっかるくぅ〜んv」
驚いてこちらを見上げた奴を見てこっちが驚いてしまった。
大きな瞳には涙が溢れ、いつもの強い光は無かった。
切なくて壊れそうで。
「反町・・・。」
あわてて涙を拭おうと袖口で目元を擦りながら松山が言う。
俺は気付かない振りがいいのかな。
「そろそろ戻らないとヤバイよ?」
「・・・うん。」
そういう松山はまだ涙声で。
弾かれるように、自分でも分らないまま、おれは松山を抱きしめていた。
松山は一瞬身体をビクッとさせたが、驚いた事に俺に縋り付き
しゃくりあげはじめた。・・・俺、寝た子を起こしたかも?

「お、俺、わかってたけど!でも、それでも・・・!」
後は言葉にならず、でも必死に堪えようとするため益々俺のTシャツを
強く握り締める。肩がじんわりと濡れていく感触がした。

ずっと抑えていた気持ちをどうにもできなくて。
でも涙と一緒に流してしまえばいい。
泣き止む頃には前を向ける位には気持ちに整理をつけるのだろう。
俺でイイなら付き合ってやるよ。
Tシャツが涙と鼻水でグショグショだけど、松山なら、いいさ。

「・・・ごめん。ありがと、反町。もう、平気だから。」
まだ涙声だけど、無理に笑おうとする。
「そう?ところで、シャツ、グショグショなんだけど?」
わざとからかう様に言うと真っ赤になって慌てて。
「あ!ご、ごめん!俺、あの!」
ああ、可愛いなあ。何でこんなに可愛く見えるんだろ?
「いいよ、別に。ん、でも・・・」
「?」
俺は隙をついてチュッと涙で晴れた目元にキスをした。
「これでチャラ。」
「〜〜〜///!!」
言葉が出ない松山の手を引いて寮内に向かう。
松山をチラと見るとまだ真っ赤だ。ああ、俺ってずるい奴みたいじゃん。
失恋で弱っているところに付け込んで。
でも、初めて見た松山の泣き顔。いつもの頼れる奴じゃなくて。
可愛くて、頼りなくて。
付き合ってきたオンナノコたちの涙は結構見てるけど、
こんなにドキドキした事なかった。どこかうんざりして見ていた。

これは、たぶん。こんな事ってあるんだ。

「そ、反町!手ェ離せよ!」
バツ悪そうに松山が言う。
「やーだ。離さない。」
「見られたら変に思われるだろ!」
「いいじゃん。見せびらかせば。俺たちラブラブで〜すv」
「なっ!」
足を止めて急に向き直った俺に、松山が一瞬怯んだ。
ズイ、と顔を寄せもう一度目元にキスをする。
「俺、オマエのこと、好きになっちゃったみたい。」
「え・・・。」
「そうゆう事でよろしく!」
またしても真っ赤になる松山。なんか可哀相になってきた。
「別に今返事しろとは言わないよ。でも俺のこと、好きになるよ。」
「・・・なんでだよ。」
「だって俺、イイ男だし?俺が松山を好きだから!」
再度顔を寄せ「ね?」と言うと松山はプッと吹きだした。
「敵わねぇな、反町には。」
「笑うなよ、俺本気と書いてマジですよ?惚れるまでアタックすっから覚悟しといてよ〜。」
「ストーカーかよ!俺は簡単には落ちねぇよ。」
「いいねぇ、その強気なトコ。落とし甲斐があるね。」


俺は泣き顔にやられたけど、松山には向日葵みたいな笑顔のほうが似合う。
だから、俺を好きになれよ。
日向さんへの想いが友情に変わっていくまで、ゆっくりでいいから。笑っていてくれれば、それだけで。


突然松山の腹の虫がぐぅ〜となった。
「///な、泣いたから腹減っちまったんだよ!」
「行こうぜ、飯食いそびれるぞ。」
そういうオレの腹の虫もつられてなった。
「今日の定食何?俺カレーが食いたい!」
「なんだっけなぁ?とにかくハラヘッタ!!」

明日からのアタックに備えてガッツリ食うぜ!と言ったら
ディフェンスに備え俺も食うぞ!と返された。
そうして俺たちはじゃれあいながら食堂へと急いだんだ。

end


みゃあさま、ありがとうございました!!
松山を振るとは何事か日向ーーーーっっ(笑)
いいのよ、いいのよ反町。思いっきり甘やかしてあげてぇ〜〜
そして泣きはらす松山に萌えvvvですvv

素敵な反×松小説、本当にありがとうございました(^^)

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