【100】


「あのさあ日向。俺たちって、付き合ってるんだよな?」
「? 何を今更。」
「そか。うん。じゃあいい。」
俺は食器を洗い終えて、手を洗った。
日向は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、テレビがつけっぱなしのリビングへと戻って行く。
うん。そーだよな?付き合って るんだよな???
一応。
…一応???
自分で一言付けたしておいて、自分で疑問符をつけるってどーなんだ…

俺も缶ビールを取り出しリビングへと向かう。
ソファーを背もたれにして床に座る日向の横に腰を下ろし、奴の顔を見上げた。
ビールを飲みながらテレビを見て笑うその横顔は、この3ヶ月ほぼ毎日見ている。
「……」
ごつい肩に頭をあずけると、ほっぺたに体温を感じた。
「どうした松山。疲れてるのか?」
「…まあな」
「3連勝中だぞ?景気いいじゃねーか。」
「………」
……って、そゆことじゃねえよっっ
このクソ鈍感男が!!!!
全力で甘えてんだろうがっっ 察しろ!!!!
「おっと。俺、そろそろ帰らねーと。」
ビールを一気に飲み干して、日向は立ち上がった。
「悪い。明日の夜は元東邦組で飲み会があるんだ。遅くなるから、多分来れない。」
「…おう」
「じゃ、また。」
俺は顔を見ずに手だけをひらひらと振る。
日向はいつも通り、俺の部屋を後にした。
そして俺はいつも通り…
「はーーーーーーーー」
大きなため息をつくしか ない。




俺がこのマンションに引っ越してきたのは3ヶ月前。
地元のJリーグチームを離れ東京のチームに移籍することになったわけだが、それが日向の所属するチームだった。

さらにそこから遡ること1ヶ月ほど前。
移籍が正式に決まって、諸々の手続きをするために上京していたある日。
俺は日向への積年の恨み…じゃなく、積年の想いを清算しようと、奴を飯に誘った。
そしてその帰り道。
「俺、日向のこと、ずっと好きだった。」
「おう。そうか。俺もだ。」
……え?
「あ、あれだぞ?友達としてじゃなくて、恋愛対象としてだぞ?」
「ああ。」
「え?じゃあ、俺と、付き合ってくれるのか?」
「そうだな。そーゆことになるな。」
待て待て待て待て。
コンビニに付き合えっつってんじゃねえぞ?
相手は男だ、しかもこの俺 松山光だ。
「じゃあ、まあ、そーゆーことで。あ。終電やべえから帰るわ。じゃな。」
「お… おん」
日向は俺に背を向けると早足で地下鉄の駅へと続く階段を降りて行った。
それまで緊張と驚きのあまり遠ざかっていた街の喧騒が、急に耳に戻って来る。
ふわふわとした変な気持ちで、俺も別の駅へと向かったのだった。

その気持ちに気付いたのは、中学2年生の頃だったと思う。
他の友達が、あの娘が可愛いだの、この娘に恋しただの、誰と誰が付き合ってるらしいだのと盛り上がっている時、
俺はふいに、みんなが言う恋愛感情ってやつが、日向小次郎に向いていることに気づいた… 気づいてしまった…
それでまあ、モヤモヤした気持ちを長〜らく抱えていたんだけど、もう何だか疲れちまって、
思い切って告白して、フられてスッキリはいさよーなら、のつもりだったのに。
まさか、付き合うことになろうとは…

そんでもって、連絡を取るようになって、いざ東京へ引っ越すって時には「俺の住んでるマンションに空きがある」とか言って世話焼いてくれて。
練習や試合がある時は当然、休日も一緒に過ごすことが多いし、日々の夕食はだいたいどっちかの部屋で一緒に食べる。
作るのは日向、片付けは俺、買い物は出費含め順番。
これはもう、ほぼほぼ同棲してるって言っても過言ではないくらいなんだけど…

実は、未だにキスをしたことがない。
キスどころか、手を握ったことすらない。



「はあ…」
また思わずため息が漏れる。
さっきもそーだけど、告白した時もそうだった。
アイツ…
すっっっっげーーーーーーー 適当じゃね?!!!
好きだ→俺も好きだぞ 付き合ってくれ→おういいぞ 付き合ってるんだよな?→おう付き合ってるぞ
「って!!バカなのか?!!ふざっけんなっっ」
空になった缶を思くそ握りつぶして床に叩きつけた。
「……」
虚しい…。
それとも、あれか?俺がおかしいのか?男同士でいちゃこらして、チュッチュして、エロいことしたい〜wなんて、俺がキモイ奴なのか?!!
「だめだ。風呂入って寝よ…」
一人ごちて、俺は浴室へと向かった。




それから数日後、その日は俺が日向の部屋に来ていた。
いつも通り夕飯を一緒に食べて、なんとなくダラダラとした時間を過ごして。
「松山。そろそろ自分ち戻れよ。」
「……ん」
「明日は午前中から練習だぞ。」
「分かってるよ。」
日向は俺の部屋に泊ったことがない。
俺も、日向の部屋に泊ったことはない。
「なあ、今日、日向んち泊りたい。」
「…同じマンションなんだから、帰れよ。」
「なんで?」
「……」
日向は何も答えず、俺から目線を反らせる。
「なあ、日向?」
「…いいから。帰れって。」
「…………」
ああああーーーっ もうっっ なんなんだよ!!!
ついに怒りが頂点に達した俺は、久しぶりに日向の胸ぐらを掴んだ。
「てめえっ いい加減にしろ!!俺のこと、そーゆーつもりじゃないんだったらハッキリそう言えばいいだろ!!」
「まつや」
「俺はっ お前とキスもしたいしっ もっとそれ以上もっ したいって… 思ってて…」
あれ… もう、なんか、興奮しすぎて、何言ってんだか分からなくなってきたぞ…
「そっ それ以上ってのは、だから、ぶっちゃけヤりてぇってことで… そんで」
「松山、泣くなって…」
「るせーーーっ 泣いてねえ!!!」
言いながら、日向の体を突き離す。
自分から胸ぐら掴んどいて、突き離して、何やってんだ俺… くっそ…
確かに、気付かないうちに涙がボロボロ零れ落ちていた。
「ひゅーが… 引いた…?」
「引かない。  と、ゆーか、むしろ」
「?!!!」
腕を掴まれ引き寄せられたと思ったら、すごい力で抱きしめられた。
そんで、ブッチューーーーーーーーってキスされて。
え?え??ええええええーーーーーーーーーーーーー?!!!
「お前ぇ… せっかく我慢してたのに…」
「なっ なにを」
「もう止まらん。」
「?!///」
太股にゴリっと当たった日向のそれは、デカくて硬くて、なんつーか…  ヤバイ。
「ぎゃあっ」
ふわっと体が浮いたと思ったら、お姫様抱っこされてるし!!!
見上げた日向の顔は紅潮していて、興奮しすぎて今にも鼻血が出そうなくらいハアハアしている。
寝室に連れて行かれたと思ったら、少々乱暴にベッドに放り投げられた。
「全力で愛してるぜっっ 松山!!!」
「ひゅ、ひゅう… が???   あ?あ?あ???ああああああ〜〜〜〜//////」

忘れてた…
このバカには、0か100しかないってことを。

まあ、自分が撒いた種だし、諦めて存分に100を味わうとするか。

(完)



とりあえず書いてみよう!と思って書いたやつ。


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