日向に会うのは少し久しぶりだった。
スペインで活躍していた日向も30歳を過ぎて、次のシーズンからJリーグに復帰する。
しかも、俺と同じチームに。
代表の時は同じチームだったけど、それは『日本』っていう、大きな括りだったからなぁ。
いつもいつも同じメンバーってわけじゃなかったし。
ううん… 嬉しいような、嬉しくないような。
複雑な乙女心〜って、誰が乙女じゃーーーー!!!と自分ツッコミ。はい。

行きつけのカフェ…もとい。そこまでオシャレじゃない喫茶店の特等席。
一番奥の、窓からさして手入れも行き届いていない感じの庭が見える場所でアイツを待つ。
客は俺以外にはカウンターで遅めの昼飯なのかカレー食ってるサラリーマンしかいない。
俺も何か注文しようかな… 腹減ってきた。
…てか、おせぇ!!!!
待ち合わせの時刻から、もう30分近く経ってるぞ!!!
「……」
手持無沙汰なのもあって、俺はテーブルの脇に立ててあるメニューを開いた。

「すまん。」
「……おう。遅かったな。」
日向はコートを脱いで椅子にかけた。
「お前、なんて分かりづらい場所に呼びつけやがんだ。」
マスターに気を使っているのか、小声でそう言いながら椅子に腰をかける。
「分かりづらい場所の方が目立たなくていいだろ。」
だいたい、日向なんかただでさえデカイし、
いよいよ日本に戻って来るぞ〜っつー記事があちこちに載ってるんだから。
「それに、ここ、俺の行きつけだし。」
「サラリーマンのおっさんの憩いの場だろうが。」
日向は俺からメニューを取り上げ、じっと見つめる。
「松山、何か頼んだのか?」
「いや。これから。」
「…何頼む?」
「生姜焼き定食。」
「がっつり食う気だな…」
そう言って、日向はまたメニューをじっと見て。
「…生姜焼き定食旨そうだな。」
「お前も頼めばいいじゃん。」
「同じもん頼んだら、同じ味しか楽しめないだろうが。」
って、俺から貰うの前提かよ!!
こいつ、海外であんだけ活躍して、日本に帰ってくるんだってこんなに大騒ぎになってるっつーのに。
思わず吹き出したら、日向が俺を睨んできた。
「何笑ってんだ」
「いや、お前変わんねーなと思って。」
「何がだ」
「何って。全部。」
「………」
日向は何か言いたげだったが、またメニューに目線を戻した。
「よし。俺はオムカレーにする。」
妙に真面目な顔でそう言う日向に俺はまた吹き出しそうになりながら、手を上げてマスターを呼んだ。


料理が運ばれてくるまで、うちのチームの話なんかをして。
それから、日向のスペイン生活の話を聞いて。
そのうち料理が運ばれてきて、俺たちはそれぞれ食べ始めた。
「お。うめーなオムカレー。」
「だろ?ここ、料理全部うまいんだぜ?」
だから俺のお気に入り♪と言うと、日向は黙って俺の生姜焼きにスプーンを伸ばしてきた。
「断ってから貰えよ。」
「細けーこと言うな。…くそ。食べづらい。」
当たり前だろスプーンなんだから!!
だからって、俺は『あーん♪』とか絶対やんねーからな!!!
とか思ってるうちに、日向は器用にスプーンで生姜焼きを奪っていった。
「食うか?」
「…おう。」
そして俺も、箸で必死にオムカレーを食ったわけなんだけども。
「……」
思えば、こいつとも長い付き合いだな…。
出会いは小学生で、しかもとても最悪だったけど。
お互い、すっかりいい歳になっちまったもんだぜ。
「?どうした?松山」
「いや、お前とも長い付き合いだな〜と思って。」
「まあな。」
「いい歳になったよな…」
思わずしみじみと言ったら、日向が「じじむさい」と笑って言った。
その顔を見ていたら…
ふと、ずっと、気になっていたことを… 聞きたくなって…
「…なあ日向」
「うん?」
「お前って、結婚しないの?」
「…… あー。どうだろうな。今のところそんな予定も相手もいねーけど。
 っつか、俺はむしろお前に聞きたかったが?」
「え?」
日向が、俺に対してそんなこと考えてると思わなかったから…
俺は正直びっくりしてしまった。
「で?どーなんだ?そんな話出すってことは、実は俺、結婚するんだ〜とか言うか?」
「んなわけねーだろ。」
「なんだ。つまらん。」
本当につまらなさそうな顔で言って、日向はコップの水を一口飲んだ。
結婚なんて、現実味がなさすぎて… 
でも、俺が日向に対して思っていたのと同じでやっぱり、この歳になればそういうのは気になることで。
周りからも、とにかく言われることで。
「… 俺、結婚しないと思う。」
そう言うと、日向は「なんでだ?」と聞いてきた。
「…ま、色々だけど。あんまり、束縛されるのとか好きじゃないから、かな。」
回答に困って、ありきたりな返事をした。
日向は「ふうん」と言って続ける。
「俺もだな。」
「?」
「俺も基本、自由にしてたいな。
 それに、料理も掃除も洗濯も出来るから、別に嫁さんがいなくても生きていけると思う。」
その答えに、何故か俺は、心の中でほっとして。
残りのご飯の上に生姜焼きをのっけて、豪快にかっこんだ。
「んじゃ、俺も日向も、一生独身だな。んで、じーさんになってもサッカーやってんだ。」
「疲れたら縁側で茶飲んでな。」
「って、どんだけ狭い場所でサッカーしてんだよ!!庭かよ!!」
思わず二人して大笑いする。
「そーいや富良野の友達が、将来老人ホームを経営するっつってたから、そこに入れてもらおうぜ。」
「それいいな。」
笑いながら、俺たちは顔を見合わせる。
日向にとっては冗談なんだろうけど…
俺は、本当にそうなったらいいのにと、ちょっとだけ、考えてしまった。

ふいに人の気配を感じたら、そこにマスターが立っていた。
「どうぞ。」
コーヒーをふたつ置いて、食い終わった皿を下げてくれる。
けど。
「あの、頼んでませんけど。」
「サービスです。」
マスターは微笑んで去って行った。
日向は置かれたコーヒーをじっと見て
「俺の人徳だな。」
なんて言う。
「何言ってんだよ。後でサインの一枚でも置いてけよ。」
「おう。」
嬉しげにコーヒーを飲む日向を見ながら、
50年後、本当にまた、こうして二人でお茶でも飲む日が来たらいいのにな…
なんて、考えたことは、日向には絶対に言えない。
「何見てんだ」
「アホ面してんなーって思って。」
「誰がだ誰が」
ま。50年後どころか、数ヵ月後からコーヒーでも茶でも一緒に飲むくらい近くにいることになるんだけども。
にやけそうになるのを抑えつつ、俺もコーヒーを口に運んだ。


(完)


サボりまくった上、単品でスミマセン。
連載も頑張ります〜
結婚話〜老人ホームの元ネタは、いつものごとく中途さんです。
ラジオでの会話vv
おーまーえーらーーーーっっvvvv
いいよいいよ。二人とも独身で一緒に老人ホーム入りぃさ。


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