「まっつやま〜vこれから一緒にお出かけしない?」
ホームルームも終わって帰り支度をしていると、後ろの扉から顔を覗かせた反町が声をかけてきた。
「は?部活は??」
「今日ナシだってさ。」
「まさか。」
「本当だって。昨日の雨でグラウンドは使えなくて、体育館もいっぱい。
ジムも今日は点検日で使えないという奇跡が起こりました☆」
マジでか…?
東邦学園に入学して以来、決まった休み以外に休みだったことなんて一度もないのに。
一度寮に帰ってから着替えをして、反町と二人ショッピングセンターに来た。
平日の夕方とあってかそれほど混んではおらず、
日曜日の人混みばかり見ている俺たちには何となく新鮮に思える。
「反町、何買いに来たんだ?」
「いや、別に。特に目的もなく。」
「…目的もなく??」
「そ。フラフラしたい気分だったからさ〜。あ、マック行こうぜマック。」
デパートを目的もなくフラフラする専業主婦みたいなことを言うな高校生が。
目的の物を買ったら他には見向きもせずにとっとと帰ってしまう俺にはイマイチ理解できない…
結構久しぶりなマックを堪能して、服を見ながら本屋にでも行ってみようかと移動していた時
「…あれ??」
反町が立ち止まった。
「何?」
「いや、あれって…」
反町が指さした方向は催事場。
一階の真ん中あたりは広くなっていて、季節ごとのイベントやバーゲンセール、
子供向けのキャラクターショーなんかもやっている。
看板には「服飾雑貨 大セール!!!」という文字。
鞄や靴や帽子が積まれたワゴンが並び、アクセサリーが所狭しと飾られている。
品物を手に取る奥様方に混じって、見覚えのあるジャージ姿が…
「…日向、さん?」
ええええええええ?!!!!
思わず目を疑ったが、それはもう、間違いなく日向で。
「わー。学校のジャージの上下だわ〜…」
抑揚のない感じで反町が言った。
「…っつか、何やってんだ日向さん。これっぽっちも関係なさそうな、興味もなさそうな場所で。」
とか言っているが、反町は日向に近づこうとはしない。
面白がっているのか、俺と同じに気味悪がっているのか…
ま、どちらにしろ俺もあまり近づきたくない。
ついでに言ってしまえば日向も、理由はわからないけど、こんなところ見られたくはないだろう多分。
しかも、だ。
「鞄か靴ならまだしも…」
「うん。アクセサリーにガンつけてるよね…あれ。」
くっくっく、と笑いを堪えながら反町が言う。
日向は何故かネックレス一本一本にガンつけ…いやいや、あれは品定め中なんじゃ???
そこにバリアがあるように、奴の周り半径1メートル以内には誰も入って来れないみたいだ。
「なんだろー。女の子にプレゼントでも買う気??」
「えー?!日向がか?!!」
「日向さん、結構モテるじゃん。」
…そこは、まあ、認めるけどさあ…
「でも、彼女いないだろ。」
「出来たのかもよ♪」
「っつかアイツ、女の子にプレゼント贈るようなタイプじゃねえと思う。」
「なんで松山、そんなに全力で否定すんの?」
「…………別に。」
もうそれ古いよ、とかツッこまれた。
…だって
そんなの、なんか、アイツらしくねえし、気持ち悪ぃし…
とにかく、気に入らない。
「あ。決まったみたいだよ。」
「……」
日向はようやく一つを手に取って店員さんに渡した。
あんなに思い悩んで…一体、誰に贈るつもりなんだろう…?
俺たちは結局日向に声をかけることはなく、寮へ帰った。
「ただいま。」
「おう。」
日向小次郎、松山光、と書かれた扉を開ける。
珍しく勉強机に向かう日向。
学校のジャージの上下、さっきと同じ格好だ。
「どっか行ってたのか?」
「え?」
「服が」
シャーペンで指さしてそう言う。
俺はお前みたいに、学校のジャージで外に出歩くような神経はしてねーんだよ、と心の中で思いながら
「ああ。反町とヨーカ…」
と答えて、しまった、と思ったがもう遅くて。
「ヨーカドーか?」
「あ、う、うん。」
「……」
日向は「そうか」と小さな声で言って、また机の上のノートに目線を戻してしまった。
それ以上は話が続かず…
俺は風呂の支度を始めた。
…何で???
俺も行ってたんだ、とか、会わなかったな、とか、言ってくれたっていいじゃねえか。
やっぱり見られたくなかったから?
知られたく なかったから??
煮え切らない胸の内。
何で俺がこんなに、もやもやしなくちゃならないんだ。
…腹立つ…
翌日。
「…え?お前、聞いたのか?」
「うん。」
「何で?!!」
「だって、気になるじゃーん。」
昼下がりの食堂の屋外テラスは太陽の光が降り注いでいて、この時期でもぽかぽかしていた。
カレーをがつがつ食べながら、反町は話を続ける。
「直ちゃんのプレゼントだったんだって。」
「…なお ちゃん??」
「直子ちゃん。日向さんの妹だよ。
なんか、誕生日忘れててすっげー怒られたみたいで。
バイト代入ったから、言われた通りにネックレス買ってあげることにしたんだってさ〜。」
相変わらず兄弟達には弱いよね…と、笑いながら言う。
「妹さんへのプレゼントにしても、ああいうところ見られるのやっぱり嫌だったみたいね。
超気まずそうな顔してたよ。」
っつか、妹かよ…
そーなのかよ…
バっカみてーーー!!!
「なーんだ。面白くもなんともねぇな。」
「って、松山、なにニヤニヤしてんの?」
「?!!し、してねーだろ!!ニヤニヤなんか!!」
「してるじゃん。鏡見してあげよか?」
俺は頬っぺたをギュっと抓って、それから目の前のお茶を一気に飲み干した。
「あっちっ!!!!」
「えー。お茶入れてからだいぶ時間経ってるのに。」
どんだけ猫舌よ…と今度は苦笑いされてしまった。
心の中のもやもやが無くなったら、
冬の晴れ渡った青い空が、急に目に眩しく映った。
…別に
日向が誰に何をあげようと、俺には全っ然関係ねーけどな!!!
(完)
ツンツン松山の巻でした☆
こないだヨーカドーにお買い物に行ったら、本当にこのような光景がありまして。(笑)
おばちゃん達に紛れて制服姿の高校生二人組がアクセサリーを見ておりました。
おうおう、なんか青春だのう…
彼女にプレゼントかね???
などと、心の中で思っていて、これが松山と反町だったらかわいいなあ…
いやいや、日向しゃんだったらおもろくね?!!
なんでもネタにする、りくこです。はい。