「あけましておめでとーござまーす」
聞き覚えのある声に、俺は徐々に現実に引き戻されていく。
そしてまた夢の中へ…
「起きろ!!」
うう… 大声を出すな松山め…
重たくてグルグルしてる脳みそに響くだろうが。
引きはがされた掛け布団を奪い取って頭から被ったが、また引きはがされて。
「元旦からダラダラすんな。」
「…うるせー。元旦だからダラダラすんだろ。」
松山のくせに偉そうな口きくんじゃねえよ。
…松山。
うん?
松山、だよな??
あれ???
「…何故にお前がここにいる」
「はあ?てめーが来いって言ったからだろうが」
「っつか、どうやって入った」
「鍵を開けてだ。」
ダウンジャケットにマフラーを巻いたままの松山は、ポケットをあさると俺の目の前に鍵を出した。
俺の住む都内のマンションの、俺の住むこの部屋の。
そしてここは俺の部屋で、いつものように自室のベッドに寝ている。
で、何故か松山がここにいる。
「なんで」
「だーかーらー 日向が俺に合鍵を渡して、うちに来い来い言ったんだろ?
でも俺ホテルとってあったし、荷物も置いたままだったから。
そしたら、じゃあ朝一で絶対来いって。」
「……」
ヤバイ… 全然記憶ない…
そう思った俺の頭の中を読んだかのように
「お前、全然覚えてないな」
「…そ、そんなことは」
「いや、絶対記憶とばしてる。」
…ハイ。その通りでございます…。
どうやって帰ってきたかも覚えてません。
恐すぎるぜ…
松山の大きなため息が聞こえて、なぜか頭をぐりぐりと撫でられた。
「日向、酔っても顔にあんまり出ないから分からねえ。」
「そうか?」
「少なくとも俺よりは飲んでなかったし。まさか記憶とばすなんて思わないだろ。」
「…すまん」
「話口調も普通だったしさー」
「松山」
「ん?」
「俺、なんかしたか?」
「………」
松山はじっと俺の顔を見て、またため息をついた。
…これは、俺は酔っぱらって記憶をとばしている間に何かやらかしたということでは…
コワイ。
事実を知るのがとてもコワイ…
「…な、なんかしたんだったら教えろ」
「別に」
「じゃ今のは何の間っ… いててて…」
大声出して飛び起きたら、頭に激痛が走った。
「二日酔いか?」
「…おそらく」
「水飲む?」
「ああ。すまん。冷蔵庫にミネラルウォーターが入ってるはずだ。」
松山はキッチンに向かい、ミネラルウォーターを出してきてくれて。
そればかりでなく、わざわざコンビニに二日酔いに効くドリンク剤まで買いに行ってくれた。
正直、その優しさがちょっとコワイ;;
コワイが今は、ありがたーく甘えさせてもらおうと素直に思うくらい辛いのも事実で。
昨日は大晦日で、せっかく20歳になったんだから忘年会しようぜ!!という突然の反町の誘いにも関わらず、
U−18で仲良くなったメンバーのそこそこの人数が集まった。
久しぶりの同窓会的なノリもあってか、地方からわざわざ来てくれた奴もいて。
もちろん松山は中でも一番遠くからの参加だった。
この年末に、飛行機とホテルの予約は大変だったろうなあ…なんて思っていたが、
どうやら三杉が動いたらしく、本人は特に苦労はしなかったらしいと、誰かが言っていたような気がする。
小一時間ほど経っただろうか。
リビングからは正月らしいお笑い番組の音声が聞こえてくる。
松山、ずっといたのか…
ドリンク剤が効いたのか少し調子が良くなったような気がして、俺はベッドから抜け出てリビングに向かった。
「おう。どうだ?治ったか?」
「…まあ。とりあえずシャワー浴びてくる。」
「うん。そしたら行くぞ?」
「…行く?どこへだ???」
「お前〜 それも覚えてねーのかよーーー」
今日何度目かの松山の大きなため息に、さすがに申し訳ない気持ちになった。
「悪ぃ。マジで全然覚えてない。」
「…神社」
「神社?」
「初詣、行くって」
「…ああ。なるほど」
「なるほどじゃねえよ。」
松山の冷たいツッコミがぐっさりと刺さった。
近所にある神社はそれなりに賑わっていたが、人がぎゅうぎゅうで動けないほどではなかった。
屋台も出てはいるものの、基本的にはここら辺に住んでる人しかお参りしには来ないだろう。
「松山。お前ここで良かったのか?」
「え?」
「もっと有名な… 明治神宮とか、そーゆーとこに行かなくて良かったかと思って。」
わざわざ北海道から来たのに、と言うと、松山は笑って
「俺人混み苦手だから。全然いい。」
と言った。
今日初めてこいつの笑った顔を見た気がする。
「初笑い」
「え?」
「なんでもねえ。」
笑えなかったのはてめーのせいだろ!!って、また怒られそうだぜ…
お参りをして、おみくじを引いたら二人とも大吉で。
「今年はいいことあるかなvv」
木の枝におみくじを結ぶ松山の横顔は笑顔だ。
「天気いいな。日向、この後まだ時間あるか?」
「ああ。実家帰るのは夜って言ってあるし」
「俺も飛行機夕方なんだ。な、初蹴りしようぜ初蹴り。」
言いながら、松山は携帯を取り出し「暇そうな奴誰だ」とか言いながら名前を探している。
「なあ、松山」
「んー?」
「いや、そのー… 俺がお前に合鍵を渡して、うちに来いって、言ったんだよな?」
「そーだよ」
「なんでそんなこと、言い出したんだ?俺は…」
「……」
松山はじーーーっと俺の顔を見つめた。
まあ、それは、そうだよな。
てめーが言った事を何で俺に聞くんだっちゅー話
「…好き って。」
「え?」
「好きだから、朝まで一緒にいたいって… 言った」
「?!!///」
「俺、ホテルとってあるし荷物置いたままだからって言ったら、
じゃあ、朝一で初詣行って、これからずっと一緒にいられますようにってお願いしようって…
それで、合鍵渡されて」
頭の上からドでかい石でも落っことされたかのような衝撃…
「嘘、だろ?」
「嘘じゃねーよ」
「マジか…」
「マジだ。でも」
松山は俺から目線を外し俯いた。
「…別に… 日向がそんなこと本気で言うなんて、思ってねえし」
「……」
「だから、もう気にしなくていい。」
そう言って、松山は誰かに電話をかけ始める。
ものすごく、悪い事をしてしまった気がした…
俺が本気で言ったとは思ってない、本当にそうなら、わざわざ朝一で俺を起こしに来ることもないのに。
一方的でも約束だからと生真面目に守ろうと思ったのか、それとも…
「反町は彼女と初詣行くんだって。」
「…」
「みんな忙しそうだな。諦めて帰るか。」
「別に、二人で初蹴りしたっていいじゃねえか」
「…いい けど」
なんとなく気まずそうな顔をして、松山はポケットに携帯を戻した。
それから、そのままポケットの中をごそごそすると
「これ、返すの忘れてた。」
返す、と突き出されたのは、昨日俺が渡したという合鍵… だったが。
「返さなくて、いいぞ」
「え?」
「持ってろよ。今日だけのために渡したわけじゃない… と思う。」
多分その時の俺は、と続けると、松山はまた俺の顔をじっと見て
「覚えてないくせに。適当言うな。」
ため息混じりに言いながら、顔を背ける。
「…まあ、でも、そう言うなら、預かっておく。」
「おう。こっち来た時は宿代わりに遠慮なく使えばいい。俺がいてもいなくても。」
「うん。そーする。」
とは言ったものの、松山が本当に連絡もなく勝手に俺んちを好き放題使うなんてことはないだろう。
そういうところは常識的な奴だから。
ボールを家に取りに戻ろうと、松山と肩を並べて歩く。
松山の冷え切った手が俺の手にぶつかり、俺はその手を掴んだ。
「やめろ」
「誰もいねーよ」
振り切ろうとするのを無理矢理押さえつけると、松山は諦めたのか大人しくなった。
「…なあ、ひゅーが」
「うん?」
「お前、昨夜俺がホテルに戻らずに、言われた通りお前んちに行ってたら… どうしたんだ?」
「…どうしたって…」
いまいち質問の意図が分からず黙ってしまう。
しばらくの沈黙が続いてから
「あ、やっぱいいわ。」
と松山が言った。
「何だ?」
「俺、一瞬コワイ妄想しかけちまった。」
「コワイ妄想?って、何だ??」
「なんでもねえよ。忘れろ。」
まあ、なんとなく、分かるような気はしたが…
それ以上ツッコむとうるさそうなので、とりあえず今はやめておこう。
今年は良い年になりそう… かな。
(完)
2013年のうちに、「雪」シリーズか久しぶりに「ネンマツコジ」を書こうと思ってましたが、
結局「アケマツコジ」になりました。(笑)
両想いのくせにずいぶん時間も経っちゃって、そこそこ大人になっちゃって、
今更どっちから言うんだよ… 言わなくてもいいような気もするし…
みたいな、微妙な感じ?
何はともあれ、2014年もよろしくお願いします!!