気が付くと、そいつは俺の掌の上にいた。

「おたんじょーび おめでとー ひかる♪」
「・・・・・」

なんだ?これ?

そいつは人形みたいに小さくて、でもちゃんと生きてて、しかも日向だった。

「・・・・日向?」
「それは おおきいほうの こじくんです ぼくは ちいさいほうです」
「小さい方でも日向なんだろ?」
「みにこじって よんでもいいよ♪」

日向のくせに、やたらにこにこしている・・・。きしょくわりぃ・・・。


ミニコジはなぜか東邦のユニフォーム姿で、そしてなぜか顎からピンク色のリボンをかけて、
頭のてっぺんでちょうちょ結びしていた。

「その、リボンはなんだ?」
「ひかるへ ぷれぜんとです」
「お前がプレゼントなのか?」
「そーです ぼくを あげちゃいます♪」
ミニコジは「きゃっ」と声をあげて、俺の手の上で嬉しそうにジャンプする。

「・・・返品できねえかな。」
「へんぴん ふかですよ」
ってか、誰からのプレゼントなんだよ・・・。こんな嫌がらせをするのは、日向本人か?
それとも反町か若島津なのか?
なんにしろ迷惑だ・・・。

「ぼく ひかるのために なんでもするよ?ひかる なにしてほしい?」
ミニコジは俺の手から「うんしょ」とか言いながら、テーブルの上に降りた。
「じゃあ、飯作って。」
「なんで。」
「ぼく ほうちょうも おなべも おおきすぎてもてません それは おおきいほうに たのんでください」
「じゃあ、飲み物買ってきて。」
「それも できませーん そんな おもいもの もてませーん それも おおきいほうに たのんでください」
おめえ、なんもできねえじゃねえかよ・・・・。
「お前のその大きさでできることしか、できねえってこと?」           
「もちろんです」
・・・そんなもん、一体何ができるってんだ・・・・

俺が思わず大きくため息をつくと、ミニコジは急に悲しげ顔になった。
「ひかる がっかりした?ぼくのこと きらいになった?」
「え?!」
今にも泣き出しそうなミニコジ。
ちょ、ちょっと待て。それは反則だろう?!いくら日向だからって、俺が子供いじめてるみてえじゃねえか!!
「そ、そんなことない!」
「ほんと?じゃあ ひかる ぼくのこと すき?」 
「う・・・」
なんだそれはーーー!!!
「きらい?」
「き、きらいじゃねえよ!」
「じゃあ すき?」
「・・・・・」
こんなもん、絶対反則だ・・・。
「・・・・す」
「す?」
「すき・・・」
すき・・・チャイコフスキー ドストエフスキー ストラビンスキー・・・  ぬがーーーーー!!!!

ミニコジは一気に にぱーっと笑顔に戻った。
「よかった♪じゃあ ちゅーしても いいですか?」
「ああ?!」
調子に乗ってんじゃねえぞ!コラ!!って、うわー!!また泣きそうだし!!!

「だめですかー?」
だめだけど・・・
・・・・でも、まあ、こんなちっこいのとしたところで、何がなんだかわからんような気がしてきた。
「・・・わかったよ。」
俺はかがんで、ミニコジの前で目を閉じた。




ピリリリリ ピリリリリ ピリリリリ・・・・



ん・・・?
携帯が鳴ってんのか。
俺はベッドからテーブルに手を伸ばし、携帯をとった。

「もしもし?」
「よう。元気か?」
「・・・・・誰だ?」
「寝ぼけてんじゃねえぞ。」

日向だった。

「・・・・や、なんか、変な夢見てて・・・」
「夢?どんなだ?」
「・・・覚えてない。でも、なんか変な夢だった。」
「ふうん。」
「何だよ。何か用か?」
「用が無きゃダメか?」
・・・ダメじゃ、ねえけどさ・・・。
「誕生日、おめでとう。」
「・・・・・・」
「12時過ぎたろう?」
俺は部屋の壁掛け時計に目をやる。確かに12時をまわっていた。いつもより随分早く寝てたんだな・・・。
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
なんだかなあ、と電話の向こうで日向が小さく笑う。
「お前んちって、案外反町んちから近いのな。」
「ああ。・・・って、なんで知ってんだ?反町に聞いた?」

ピンポーン

ん?チャイム?
「ちょっと待て、日向。誰か来た。」
俺は携帯を持ったまま、玄関に向かった。
ガチャリ、と鍵をまわし、ドアを開くとそこには・・・
「よ。」
「・・・・・」
「閉めんな。」
なぜか日向。
しかも、顎からピンク色のリボンをかけて、頭のてっぺんでちょうちょ結びしている・・・

日向は無理くりドアを開けて、中に入ってきた。
「プレゼント。」
「いらねえっ 返品!!」
「返品不可です。」
靴を脱ぎ、勝手に部屋の中に入ってくる。
「なんなんだよ!いきなり!!ってか、お前イタリアじゃないのかよ!!!」
「帰ってきたに決まってるだろう。」
そんなもん。と、日向は言った。
日向はスポーツバッグを放り投げると、さっきまで俺が寝ていて、まだ生温かいだろうベッドにどっしりと座った。
しかもあいかわらずリボンはそのままだし。
「なんで・・・」
「誕生日だから。」
・・・・わけわかんねえ。
「それ・・・」
「・・・ああ。」
忘れてた。と、日向はようやくリボンをはずす。
「・・・どっからつけてきたんだ?」
「反町につけられたんだ。」
ってことは、反町んちから?いや、まあ歩いて10分だけどさ・・・
「途中で、誰かに見られなかったのか?」
「・・・・さっき、ここのエレベーターで女とすれ違ったな。」
お前・・・ 自分がどんだけ有名なのかわかってんのかよ・・・。
日向小次郎がリボンつけて歩いてたら、驚くどころの話じゃねえぞ・・・。
ってか、俺んち入るの見られてねえだろうなあ・・・。マンションに変な噂たったらどうしてくれんだ。

俺が思わずため息を漏らすと、日向は横目で俺を見て、ニヤリ、と笑いやがった。
それから持っていたリボンをくるくると指に巻きつけながら言った。
「あ、松山、いいこと思いついた。」
「あ?」
日向はちょいちょい、と小さく手招きをする。
なんとなく突っ立っていた俺は、日向に近づいた。

「ちょっと、手ぇ出してみ?」
「こうか?」
「両手。」
「ん?」
いきなり日向は俺の手を掴むと、リボンでぐるぐる巻きにしやがった!
「のわ!!何だよ!!」
「や、誕生日だし。」
「意味わか・・・」
「せいっ」
目の前の景色が、ぐるん、となって、気付けば天井が・・・。
そして俺は、あっという間にベッドの上で、日向の下になっていた・・・。

「お前の誕生日と俺達の再会とワールドカップ開幕と松コミを記念して」
「後半よくわかんねえぞ?」
「キスしてもいいか?」
「ああ?!調子にのってんじゃねえぞ!!コラ!!」
蹴ろうとした脚も簡単に掴まれて押さえ込まれ、縛られた手は頭の上に持っていかれる。
「・・・松山・・・」
う・・・ な、何だよ、その目は!その声は!・・・なんか、なんか反則だ!!
「松山」
「な・・・」
「ダメか?」
「・・・・・・」


だめだけど・・・。
・・・だめだけど・・・・。


「ダメに決まってんだろがーーーーーー!!!!!」

松山くんはJリーガーで東京暮らしの設定です。
二人は一応付き合っている・・・設定です。
でも、うちの松山さんは超ひねくれっ子なので。えへへ。 
しかし、こんな松山さんじゃ、ここまで辿りつくのにどれだけ苦労したのだろう・・・。
日向さん大変だなあ。

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