『月が真っ赤だね。』
電話に出た途端、突然そんなことを言われた。
『ね。松山。』
「なんだよ三杉」
『だから。今夜は皆既月食、ブラッドムーンなんだよ。
 こんな風に月が真っ赤な夜は、誰だって寂しがり屋さんになっちゃうよね。』
「俺はならねえよ。」
『松山も寂しくて、僕に電話をかけてきたんだろ?』
「かけてきたのはそっちだろが。」
『え?そうだった?』
笑って話を流される。
まったく…
いつだって三杉はこんな調子だ。
こんな調子で俺の事を振り回しまくってやがる。
『ま。いいじゃない。どっちでも。僕ら、恋人同士なんだし。』
「?!/// あのなっ 誰が、いつ、お前の恋人になったって」
『ん?何か言ったかな?』
聞こえた気がしたけど、気のせいだよねって!!!
言った!思いっきり言ってるだろ!!っつか、いつもいつも言いまくってるだろーーーっっ
「三杉… あのなあ」
『愛してる』
「っ…///」
『愛してるよ。松山。』
だから… なんでそーゆーことを恥ずかしげもなく言うんだ。
俺は、お前の恋人になった覚えもないし、そんな台詞を言われたところで返す言葉なんて…
『僕が黒いマントをつけたドラキュラだったら、君に噛みつきにいけるのに』
「…」
『窓を叩いたら開けてくれるかい?』
「…え?」
『必ず開けるんだよ?鳥に身を変えた僕かもしれないから。』

コツン

「?!!」
窓に何かが当たった音がした。
まさか…

コツン

もう一度。
「……」
『松山。窓を閉めないでくれたまえよ?』
俺は返事をせず、カーテンを開けると窓の外を見た。
「っ…」
そこにいたのは…
鳥ではなく、黒いマントをつけた三杉。
「…なんで」
『だって松山、僕にすごく会いたかっただろ?』
俺は電話を切ると、慌てて部屋を飛び出し階段を駆け降りる。

なんで?ここは俺の家で、北海道の富良野市だぞ?
なんで?三杉は東京にいるはずだろ?
なんで?……今、入院中… なんだろ…?

「っ… みすぎ」
「ハッピーハロウィン。松山。」
ひらり、とマントを翻し、優しく微笑む。
「どうして?入院中、だったんじゃないのか?」
「今朝、退院したんだ。」
「っ… だからって… だからって、無理するなよ!!
 いきなり、こんな、遠くまで来るなんて… 馬鹿だろ、お前…」
あまりに呆れて… 呆れるを通り越して、俺はつい怒ってしまった。
それなのに、三杉ときたらけろっとした顔で
「平気さ。僕はドラキュラだから、このマントでひとっ飛びだからね。」
なんて、くだらない事を言ってきて。
「……」
「うそうそ。うちのプライベートジェットでひとっ飛び、が本当。」
そう言いながら、三杉は両手を伸ばし、俺の顔を包み込んだ。
「僕はずっと、松山の事を考えていた。
 松山は?誰の事考えてた?…なんて、聞いちゃいけないよね。
 もちろん、僕らの愛の幸せについて考えてたんだろ?」
「っ… 俺は」
「聞くまでもないよね。大丈夫。松山は何も気にしないで、全てを僕に任せてくれたまえ。」
目が閉じて、ゆっくりと三杉の顔が近づいてくる。
まったく… 本当にどこからくるんだその自信は…
っつか、どこからどこまでが本気なんだ。
俺は近づいてきた三杉の顔を手で押さえた。
「ぶっ…」
「何度も言うけど、俺はお前とキスするような関係になった覚えはない。」
「そう。じゃ、これからなろうか。とりあえず、思ってたより寒いから、家の中に入れてくれるかな?」
病み上がりのくせに無理するからだっつーの。
寒い寒いと言いながら身体をマントで包むので、仕方なく「入れば」と言ってやった。
「飲み物はアールグレイね。レモンはひとつでいいよ。レアチーズケーキはあるかな?」
「麦茶とハッピーターンで我慢しろ。」
ハッピーターンて何だい?と首を傾げる三杉の背中を押す。
見上げれば夜空にはブラッドムーン。
真っ赤な月が、くだらないやりとりをする俺と三杉を静かに照らしていた。


(完)



昔ハマっていたアニメ、「魔神●雄伝 ワ●ル」のCD中の一曲がモチーフです。
この歌詞が超かわいくてwそして言い回しがなんか三杉先生っぽいんですよっ
気になる方は 「NO GIRL」 で歌詞検索してくださーい☆

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