*この作品は「ABC」「ABCのおまけ」とリンクしております。
 が、読まなくても全然OKです。気になる方だけチラリと読んでみてくださいまし。


「いいかあ?新田ぁ。ようく聞け。
 アルファベットの「 I 」の前には「H」があるんだ。男なら、迷わずドーンといけ!!!」
若林の大声が、珍しく修哲トリオと酒を酌み交わす俺の耳に届いた。
「ああ。始まった、始まった。」
缶ビール片手に来生が苦笑いで言う。
「若林さん、酔っ払うと必ず他人の恋愛話を聞きたがって、そんで説教するんだよな。」
「今回の生贄は新田か・・・。」
滝と井沢が気の毒そうに新田を見やる。
そして三人は口々に、自分の時はどうだったこうだったと語り出した。
「なあ、あの、アルファベットの・・・ってやつ。あれ何だ?」
俺も確か、前に言われたことがある。
いつだったかの合宿の時。
なんか妙に残る言葉で覚えていたんだけど、結局意味はわからずじまいで。
「ああ。あれ?「 I 」の前には「H」がある・・・だろ?」
「つまりー、愛の前にはエッチがある。エッチの後に愛が生まれることもあるのよんってこと。」
「早い話が、好きならとりあえず押し倒しちまえってわけ。」
それも必ず言うんだよなー、と三人がステレオで返してきた。
…なるほど。そういう意味だったのか。
全然わかってなかったんだな。俺。
っつか、なんで若林の奴、俺なんかにそんなこと言ったんだろ。
…まあ、今更どーでもいいんだけど。

ここは静岡県内の某所にある若林んちの豪邸。
そう。まさに「豪邸」だ。
こんな、マンガみてーな豪邸があるんだな…って感心するくらいの見事な豪邸っぷりに、
修哲トリオが若林に「さん」付けするのもちょっと納得、とか思ったりして。
(日向が「さん」付けされてんのは意味わかんねーけど。)
合宿所からそう遠くないここで「祝賀会」をしているのは他でもない。
飲みたいから、の一言に尽きる。
だって、俺達高校生だから居酒屋行くわけにはいかないし。
(居酒屋でなくても飲んだらダメだろう、というツッコミはとりあえず無視します。)
全体的には洋館なんだけど、この部屋は純和風。
なんつーか、旅館の大広間ですか??みたいな。
何十畳もあるだだっ広い部屋は襖で半分仕切ってあって、向こう側には布団が敷きつめてある。
すでに眠気と酒に負けた連中が何人か転がっている状態だった。

ドスン、と大げさな音を立てて、誰かが横に座った。
「松山ーっっ 飲んでるかーーーっっ」
…若林…
しかもなんか知んねーけど上半身裸だ…。
「お、おう。」
「飲め飲め。」
そう言って若林が俺のグラスになみなみと注いだのは芋焼酎。
「いや、俺、今日本酒飲んでんだけど…」
「気にするな!!」
わっはっは、と無駄に豪快に笑う。
…九州男児??いやいや、生粋の静岡っ子のはず…
ふと気付くとさっきまで一緒に飲んでいたはずの修哲トリオいなくなってるし。
これは…新田に飽きて次のターゲットを俺にしたってことだろうか…?
「で?松山は最近どうなんだよ?」
「最近って」
「彼女とかできたのか?」
やっぱりだ。
俺はこれからありもしねえ恋愛話を探られて、意味のない説教を受けるに違いない。
開始1分で早速面倒くさくなるってどうなんだ。
「言っとくけど、俺の話なんて全然面白くねえぞ。」
「そんなことはない。俺は誰のどんな恋愛話だってノリノリで聞けるぞ!!」
例え石崎だろうとだ!!と、自信満々に失礼なことをぶちかます若林。
少し離れた所にいた石崎が「呼んだか?」と返事をしたが、見事にスルーされた。
「好きな子くらいはいるんだろ?」
「…いねえよ。」
「嘘つくな。」
「いねえったらいねえ!!」
「それはない。絶対いる。誰だ?俺の知ってる奴か?」
「俺が知ってて、お前も知ってる奴って言ったらヤローだけじゃねえか!!!」
「なぁるほど。まあ、そういうこともある。」
「…あのなぁ」
…こいつ、鋭い…
あんまり喋ると墓穴掘りそうだからと思って黙っていると、
持っていた芋焼酎を瓶ごと呷って畳の上にドンっと置いた。
「いいかあ?松山。アルファベットの「 I 」の前には「H」があるんだ。」
「はいはい。」
「まあ、色々問題はあるだろうが、なんとかなる、なんとか。」
「何がだよ。」
「というわけでだ。この俺様が練習台になってやろう。」
「は?!!」
「任せておけ!!オールOKだ!!!」
「何が?!!」
ぎゃーーーーーっっ!!!
突然押し倒されて、目の前のかなり近い位置に若林の顔があった。
肩口をがっちり掴まれて、太股のあたりに乗っかられて。
体格差もあり、パワーの違いもあり、まったくもってびくともしない。
「若林っっ」
「大丈夫。アルファベットの「 I 」の前には」
「「H」があるんだろ!!わかったよ!!のけっっ」
「恐がることはない。」
「恐い!!めちゃめちゃ恐いから!!!」
だ、誰か助けてーーーーーっっ!!!
心の中でそう叫ぶも、もう8割方諦めたその時

ゴンっっ

鈍い音がして、今度は全身に重みを感じた。
「無事か?」
「…ひゅ、ひゅーが…」
片手にビール瓶を持った日向が立っていた。
ゴンって、お前…殴ったな、瓶で…
いくらなんでも、なんつーことを…
どっこらしょーと、日向は俺の上から若林をどかしてくれた。
死体のようにゴロンと転がる若林。
「…だ、大丈夫か?若林…」
「こんくらいじゃ死なん。」
ビール瓶で肩をトントン叩きながら日向は言った。
そして若島津を呼びつけると、若林は隣の部屋へと運ばれていったのだった。

「…さんきゅー。」
「貸し1な。」
「う。」
ニヤリ、と笑う。
相変わらずムカつく奴…

若林の無事を祈りつつ、思わず緩むほっぺたを自分で抓る俺だった。



******若林の酔っ払い傾向******

・芋焼酎大好き
・無理やり恋愛話を聞いては説教したがる
・「アルファベットの「 I 」の前には「H」がある。」が口癖
・やたら豪快になる
・暑いのか気づくと上半身裸になっている
・パワーがあるので割と危険

泥酔シリーズ若林編でした。
っつーか、マツコジでした。(笑)
あかんがなーーーーっっ
しかし珍しく松山→日向だったりvv
裏の「蜜ノ味」に続いちゃったりvvv
(でも昔々の作品なので、読み直したら恥ずかしかったです。)
若林さんはとにかく豪快になって欲しいですvv
昔の豪遊する俳優さんみたいに。
高級クラブで豪快に酒を飲み、みんな奢っちゃう!!って感じ☆
でも素面の時はお金持ちの割に金銭感覚ちゃんとしてて節約家です。(笑)
それで後から請求書見て「俺何してんだ…」って反省する、そんな若林さんです。

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