「あ、松山だ」
「松山ーーっっ」
「をーーーっっ 元気だったか〜！！！」
会場に一歩足を踏み入れると、いきなりいろんな奴にからまれてしまった。
・・・あれ？みなさんすでに出来上がっていらっしゃる・・・？
中の方まで進んでいく気にもならず、俺は出入り口付近になんとなし腰を下ろした。
だいぶでろんでろんの新田に抱きつかれながら辺りを見回す。
ちょっと久しぶりの奴からだいぶ懐かしい顔ぶれまで、その数５０人・・・いや、もっといるか？？
日向の海外移籍が決まったのは新聞やニュースで報じられたが、
本人から直接聞いたのはそれよりも前で、
激励送別会を大々的に執り行うぞぉ！！という連絡がきたのは一週間くらい前だったか
反町からのメールだった。
たまたま特に何の予定も入ってなくて、すんなりと飛行機のチケットも取れた。
飛行機に乗り込んで、よっしゃ一路東京だーｖｖと浮かれ気分も束の間、
エンジントラブルだか何とかトラブルだかでしばらく待たされるハメになって。
ようやく東京に着いたら、今度は思いっきり電車乗り間違えるし。
折角久しぶりの東京だし、少し早めに行ってその辺ふらふらしようと思っていたのに、
結局到着したのは予定よりもだいぶ遅れて宴会にも遅刻してしまった。
ううん・・・。
なんかものっすごい乗り遅れた感だ・・・。
駆けつけ一杯で生中を飲み干してはみたものの全然ノリについていけていない。
とりあえず食え食え、と、どこからともなく集められる料理は微妙に食べ残しっぽいし。
時々掴んでしまうフェイク（中身が入っていない）に若干イラっとしながら、枝豆を口に運んだ。
本日主役の日向は・・・
まさに「本日の主役」と書いたパーティーグッズのたすきをかけて、
真ん中のテーブルのお誕生日席に陣取っていた。
せっかく遥々来たんだから、ちょっと癪だがとりあえずあいさつ・・・なんて思ったんだけど、
（基本的にはそのために来たわけだし。）隣には若島津が陣取っていて。
なんつーか・・・
・・・・・二人の世界？ですか？？？
日本酒を酌み交わしながら、ずいぶんと楽しげに話しこんでいる。
日向って、あんな顔もするんだな・・・
若島津は幼馴染だと聞いた。
小学生の頃からずっと一緒で、中学も高校も寮だったからそれこそ寝食共にしていて。
だからこそ許し合える何かが二人にはあって、だからこそ離れる前に話したいことが山ほどあって。
ああ、なんか、俺、あそこには入れないんだなぁ・・・と思ったら、やけに虚しい気持ちになってきた。
なんだろ？コレ。
嫉妬ってやつか？？？
・・・・・ぜんっぜん認めたくねぇんだけど、たぶん、そうだ。
ちょうど運ばれてきたライムチューハイを掴んで呷った。
俺にだって幼馴染はいるし・・・っつか、ふらのの全員幼馴染みたいなもんだし・・・
日向にだってそういう人間がいるのは当たり前なんだけど。
「どしたの？？？」
寄ってきたのは反町だった。
「別に。」
「なんか元気ないじゃーん。」
カツン、と反町は自分の持っていたグラスを俺のグラスにあてて乾杯した。
「折角遠くから来たんだからさー。もっと楽しんだら？」
「や、思いっきし出遅れてノリについていけてないだけ。」
と素直に言ったら、はははは、と乾いた笑いで返される。
「そりゃそーだ。まっつん来るの遅いんだもん。」
「俺のせいじゃねえ。（半分は）」
「まーさ、とりあえず本日の主役と話してきたらどうよ？そのために来たんじゃないの？」
「・・・・・」
そんなこたーわかってら。
それが出来ないからここで人の食べ残しを食べてるっつーの！
冷めきった揚げだし豆腐をもさもさ食べていると、いきなり反町に腕を掴まれぐいぐい引っ張られた。
「ちょっ な、なんだよ！！」
「行きづらそうだから連れてってやろうと思って。」
「は？！」
はいはいちょっとごめんなさいよ〜 と人と人との間を掻き分けるように進んでいく反町。
「わ！危ねっ おい離せってば！」
右手に箸を持ったまま、連行されていく俺。
酔っ払った誰かに悪戯に足を引っ張られながら、目的地はおそらくお誕生日席のアイツ・・・・ら。
「はい、とーちゃくぅ〜」
「・・・・・・・」
ふ〜たりのために〜♪状態の日向と若島津の間に無理くり割って入るように座らされる。
うーわー ・・・最悪・・・
「日向さん、まっつん連行してきまっした！！」
「・・・・頼んだか？俺。」
あーあー悪かったな。頼まれてもいねえのにわざわざ来て。
あからさまにむっとした顔をしていると、日向が少し驚いた顔をして言った。
「なんだ？らしくねぇな。長旅でお疲れか？」
でかい手で頭を掴まれ、ぐりぐりされる。
「冗談だ、冗談。んな泣きそうな顔すんなって。」
「誰が泣きそうなんだよ！！」
頭の上に置かれた手の甲を思いっきり抓ってやった。
いででででっ と日向は手を離し「調子出て何よりだ。」と笑って言った。
「まあ飲めよ。」
いつもはクールな日向も、今日ばかりはずいぶんと機嫌が良さそうに見える。
「・・・おう。」
持っていた猪口を手渡され、なみなみと日本酒を注がれる。
それを一気に飲み干して、とりあえずちょっと落ち着いた。
「・・・・おめでと。」
「おう。一足先に行ってるぜ。」
「お前んっとにむかつくな。」
ようやくいつもの調子が戻ってきて、日向とも喧嘩交じりの会話を楽しめそうな気がしてきた矢先。
突然後ろから首を掴まれて仰向けに倒されたと思ったら、目の前には逆さ若島津の超どアップーー？！
「おいコラ松山コノヤロウ。」
「は？」
「お前、俺と日向さんが楽しくお話しているというのに邪魔しやがったな。」
・・・・楽しくお話ぃ？？？
「あ、わ、わり。邪魔するつもりじゃ」
「そんなことする奴は・・・」
少し離れたところから、「すまん、松山。がんばれ！」という日向の声が聞こえた。
そして
「アイ・ウォン・ちゅーーーーーーーーーーｖｖｖｖ」
ぎゃああああああああああ！！！！
苦しい！！苦しいぃぃぃっっ！！
がっつり唇を塞がれた俺は息もできず、当然若島津の馬鹿力から逃れることもできず、
ただただ手足をジタバタさせていた。
「うわ！！健ちゃんのスイッチが入った！！日向さんどんだけ飲ませたんすか！！」
「やばっ キス大魔王降臨してんぞ！！」
東邦の誰かが叫んでいる。
っつか、助けろ！！わかってて真っ先に逃げやがったな日向！！ぶっ殺す！！！
ようやく解放され、ぜぇぜぇ息をしながら辺りを見回すと、阿鼻叫喚の地獄絵図状態・・・。
「アイ・ウォン・ちゅーーーーーーーｖｖｖｖ」
「どわああああ！！やめんかーーーー！！！」
次の犠牲者は逃げ遅れた早田だ・・・。（ナムアミダブツ）
「大丈夫だった？まっつん。」
ホフク前進で近付いてきたのは反町だった。
「大丈夫じゃねえ！！なんだありゃ・・・」
「いやー。健ちゃんねえ。結構酒強い方なんだけど、
ある時点でリミッター外れてキス魔になるんだよねえ。」
はははは、と、これまた乾いた笑いを零す。
しかも顔色一つ変えずに襲い掛かってくるから超コワイの、と付け加える。
「だいたい日向のヤロウ、飲ますだけ飲ませて逃げやがって・・・」
「まあまあ。日向さんも悪気はなかったんだよ。それに」
「それに？」
「これまでの一番の犠牲者は日向さんなんだからさー。」
大目に見てやってよ、そう言われてなんだかやけに納得してしまった。
「寂しいのかねえ・・・」
隠れるように二人して畳にうつ伏せになっていると、ふと隣の反町がつぶやいた。
さっきまでみんな本気で逃げていたのに、いつの間にかこの状況を面白がり始めている。
ジャンケンで負けた奴が犠牲になることになったらしい。
「へ？」
「健ちゃん。日向さんがイタリア行っちゃうのが。」
「・・・ふうん。」
「まっつんは？」
「何？」
「まっつんは日向さん行っちゃうと寂しい？」
「・・・・悔しい。」
「そりゃそーだ。」
やけに嬉しそうに笑う反町。
なんだか妙にくすぐったい気持ちで、
「アイ・ウォン・ちゅーーーｖｖｖ」と叫んではキスする若島津を遠くから見守った。
＊＊＊＊＊＊ わかしの酔っ払い傾向 ＊＊＊＊＊＊
・基本酒は強い
・突然キス魔になり、「アイ・ウォン・ちゅーーーーｖｖｖ」と追いかけてくる
・顔には全く出ない
・寂しがり屋になるらしい
本当はもっと短いつもりだったんですが、長くなってしまいました。
っつか主役が松山に・・・
っつかマツコジメインに？！！
おかしいな。（笑）
今後も基本松山目線で、泥酔シリーズ続けます。