全日本ジュニアユース合宿所 宿舎食堂 午後八時過ぎ。
中学生の松山少年は少々困っていた。
給茶機でいれたお茶をすすりながら、同じようにお茶をすする目の前の彼と、割と何を話して良いかわからない事に今更気づいたのだ。
(三杉とか日向の方がまだマシだったかも・・・)
本当にたまたま偶然居合わせただけなのだが、すでにちょっと後悔ぎみ・・・。
「どうかした?」
「え?い、いや・・・」
「俺の顔に何かついてる?」
「ううん。」
相手から一旦目線を逸らし、もう一度お茶をすする。
目の前にいるその相手とは・・・そう、
天下の大空翼である。
もちろん、嫌な奴ではない。
すごく尊敬しているし、いい奴だと思う。
でも、なんだろう・・・
そうだ。
(なんか、住んでる次元が違う・・・・。たぶん。)
松山はもう一度、翼の顔を見た。
大人数で一緒に話しているときは大丈夫だ。
でもこうして二人きりの状況になると、何を話して良いかわからない。
サッカーの話をすれば良いような気はするのだが、実際話し始めると置いてけぼりを喰らう事が多い。
結局、翼のような天才型と、自分のような努力型では違うってことだろうか?
それはサッカー以外の話でも同じようで、翼は感性で生きているタイプで、やっぱり話が噛み合わない気がしてしまう。
(ある意味、南葛の奴らって偉いのかも・・・)
「松山君はさあ、」
「え?!」
松山は思わずビクリ、と、してしまった。
「岬君のこと、好き?」
「あ、ああ。もちろん。」
「そうかー。そうだよね。」
なんだろう、急に・・・と怪しむ松山を他所に、翼は妙に納得してにっこりと笑顔を見せた。
「でも僕、松山君よりか、岬君のこと、ずっとずっと好きだと思うよ。」
「・・・・・・・・」
いきなり笑顔でそんなことを言い放たれ、松山は思わずムッとする。
確かに今や二人はゴールデンコンビとかなんとか言われてるかもしれないが、付き合いは俺の方が長いんだ!
お前に岬の何がわかるってんだ!
「・・・そんなの、わかんないだろ?」
「わかるよ。絶対そうだもん。」
岬のこととなると、殊更ムキになってしまう松山。
思わず本気モードに入ってしまう。
「なんでだよ!」
「別に。理由なんかないよ。ただそう思っただけ。」
「・・・・・」
松山はふんっと鼻をならし、腕を組んだ。
「じゃあ、勝負しようか?松山君。」
「勝負?」
「岬君に先にキスした方が勝ち。」
「はあ?!」
翼のとんでもトンチンカンな発言に、思わず松山は立ち上がる。
「なななななな何言ってんだ?!!」
「何が?」
「何がって、岬は女の子じゃないんだぜ?!」
「わかってるよ、そんなこと。」
「お前の好きって、そういう意味だったのか?!」
「え?松山君は違うの???」
純情少年松山があわあわしていると、ガラリ、と戸が開いて、当の本人岬太郎が入ってきた。
「あれー?なんだか珍しい二人が一緒だね。」
爽やかな風を纏っているような岬の笑顔。
「何話してたのー?」
「あのね、俺と松山君で勝負しようって。先に岬君にキ」
「どわああああああ!!!!」
松山は慌てて翼の口を手で塞いだ。
「もが・・・」
「なななな何でもねぇんだ。気にすんな、岬!!」
「?」
岬は首を傾げながら湯飲みにお茶を注いだ。
(やっぱりこいつはおかしい。宇宙人だ・・・・)
大きなため息をついて、松山は椅子に座り直した。
向かい側に座っている翼の隣に、岬が腰掛ける。
「何?教えてよ。」
「いいんだ。本当に何でもないから。あ、それよりこのお茶うまいよな。さすが静岡茶だ。給茶機すらあなどれないぜ。」
「じゃあ今度松山のところにお茶送ってあげるね。」
松山は我ながらうまくごまかしたぜ・・・などと思っているが、実際のところはあんまり必死な松山を岬が不憫に思っただけで・・・。
「あ、そう言えば、さっき松山のこと小次郎が探してたよ?」
「日向が?」
「なんか、歯磨き粉がどうのこうのって・・・」
「なんだよ、またそれかよ・・・」
はー、と、再び大きなため息をついて、松山は椅子の背にもたれかかる。
「何それ?」
「いや、俺が歯磨き粉忘れちまってさあ。たまたま日向のが置きっぱなしになってたから勝手に使ってたら・・・」
「一度怒られたんでしょ?何でやめないの?僕の貸してあげるのに。」
「日向の歯磨き粉、俺好みなんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
翼と岬が思わず顔を見合わせてしまったのは言うまでもなく。
「しょうがねえ。ちょっと行ってくるわ。」
「ええ?!やめなよー。またケンカになるよ?」
立ち上がった松山を翼が慌てて止めようとする。
「俺、今回三杉君と同室なんだから、後でグチられるの嫌なんだけど。」
「大丈夫だよ。三杉には気づかれねえようにするから。」
じゃあな、と、松山は出来もしないことをサラリと告げて去って行った。
「・・・・迷惑だなあ・・・」
「ってゆーか、絶対わざとだよね。松山。」
「それ以前に日向君も置いとかなきゃいいのにさ。それもわざとだよ。絶対。」
「結局仲いいんだよね。あの二人。」
「他人を巻き込むのはやめて欲しいんだけど。」
くすくす、と、二人は顔を見合わせて笑った。
「ねえ、ところでさっきの勝負がどうのって何?」
「ああ。あのね、俺と松山君、どっちが岬君のことをより好きかって。」
「?」
「それでね、先に岬君にキスした方が勝ちってことにしたんだ。」
「?!/// ちょっ・・・ 何それ?!」
岬は顔を真っ赤にした。
「僕に断りもなく、そんな勝負しないでよ!!」
「大丈夫。松山君は棄権したから、俺の不戦勝なの。」
カラカラと笑って言う翼に、岬は思わず脱力してしまう。
「もー。翼君て時々わけわかんない。」
「そうかな。」
「だいたい松山からかうなんて良くない。松山、単純なんだから。」
「・・・・岬君もハッキリ言うよね・・・。」
・・・恐るべし、ゴールデンコンビである・・・・。
「まあ、とにかくさ。不戦勝にしろ俺勝ったんだし。」
翼は岬の顔を覗き込んで言った。
「ご褒美に、キスしてもいい?」
「ええ?!///」
「誰も見てないんだし。」
「そ、そういうことじゃ・・・ちょ、ちょっと・・・翼君っ・・・///」
翼は容赦なく岬の顔に自分の顔を近づける・・・
チュっ
「・・・・・・・・/////」
えへへへ・・・と、この上なく嬉しそうな笑顔の翼。
岬は顔を真っ赤にして、今キスされた方のほっぺたをすりすりと手でこすった。
「・・・・・もう・・・」
「俺たちもそろそろ戻ろう。」
立ち上がる翼の背中を見ながら、やっぱり敵わないな・・・と苦笑いする岬太郎であった。
い、いかがでしたでしょうか?!初GCです。
この二人だと、ここら辺止まりが一番いいかなー・・・なんて思って。
これからもマツコジ以外もちょこちょこ書きたいなvv楽しいvv
そのうち書きそうなのは・・・源守・・・かな?(笑)