「ひゅー… ぐぁっくしょーい!!!」
「……」
練習後の夕方、昼間は暖かいが日が落ちるこの時間は少しばかり冷える。
またこの季節がやってきたか…
そんなこんなで今年も声を大にして言いたいが、いくら好きな人でも顔面に唾を浴びたくはない。
花粉症ピークな松山はふがふがしながら「悪ぃ」と言った。
「お前のそれは治らないのか?」
「治せるものならとっくに治し… ぃくっしょい!」
「毎年のことなんだからよ、もうちょっと対策を練る事が出来るだろう?」
「それは、まあ、そうなんだけど… 今年は去年の2倍って話だろ? へっくしょんっ
んで、なんか知らねーけど、合宿で静岡来ると症状が酷くな… っくしょっ」
「ああ。そーいや、くるくるパーマ君が静岡は全国の中でも花粉の量が多いって言ってたぞ。」
「…くるくるパーマ君?来生のことか?」
「あいつ、そんなオシャレな苗字だったのか…」
知らんかった… 俺の中では、若林withくるくるパーマ君とロン毛とげっ歯類だからな。
「って!来生のことはどーでもいいんだよ!!
俺が言いたいのは、北海道ではそれほどでもない症状が静岡に来ると酷くなるから、
すぐに対応が出来ないんだってことだ!」
「ふーん」
「だがしかし!!今年の俺様は違うんだぜ!!見ろ!!!」
なぜか無駄に偉そうに、松山はポケットの中から小さな箱を取り出した。
んで、黄門様の印籠がごとくババーンっと俺に見せつけて
「よく効く薬!!!」
「…お前、もうちょっと言い方ねーのか…」
よく効く薬!って自慢げに言われましても。
「これをさっき飲んだから、もう大丈夫だ!!!」
わはははは!と豪快に高笑いした松山だったが、すぐに「しまった!目がかゆい!!」と騒ぎだした。
アホな奴…
その日の夜。
宿舎の食堂で全員揃っての夕飯後は就寝時間までは自由時間で。
風呂に入って部屋に戻る途中、テレビがある談話室に立ち寄った。
風呂上がりの何人かがテレビを見ていて、その中には松山の姿もある。
食堂と同じテーブルと椅子がいくつか並んでいて、松山は後ろの方で一人で座っていた。
(…松山?)
松山の様子がなんだかおかしい。
他の奴らはドラマに夢中で全然気付いていないようだ。
俺は談話室に入ると迷わず後ろの席に向かい、松山に声をかけた。
「松山?」
「…ん?」
ごしごしと目をこする松山の手を止める。
「あんまりこするな。」
「んー…」
「まだ目がかゆいのか?目薬は?」
「そうじゃ、なくて」
言いながら、また目をこする。
その仕草が妙に子供っぽくて、可愛くて。
「…眠い」
「……は?」
そう言うと松山はテーブルに突っ伏してしまった。
「おい」
「なんか、薬が効きすぎて… 眠い」
「こんなところで寝るな松」
「ひゅーが… 連れてって」
「へ?」
「部屋連れてって〜… よろしくぅ」
そのまま眠ってしまった。
「おいっ コラ起きろ!!」
「……」
「松山!!!」
必死で起こそうと大声を出したら、前の席でドラマに夢中だった三杉が恐い顔で近寄ってきて
「うるさいよ日向。聞こえないだろう?」
めっちゃ怒られるし…
「いや、松山が」
「寝ちゃったの?」
「花粉症の薬が効き過ぎたらしい。」
「今日は練習も厳しかったからね。疲れもあるんだろう。日向、同室だよね?あとよろしく。
くれぐれも静かにね。」
と言い放って、三杉はさっさと席に戻った。
マジかよ…
仕方なく、俺はどうにか松山を背負うと談話室を後にした。
「重い…」
いくら俺よりは身体が小さい松山と言えど、同い年のそこそこ筋肉のある男…
しかも眠ってしまって全体重を遠慮なくかけられてるから、すげーーーー重い!!!!
「っこらしょ」
どうにかドアを開けて中に入る。
足でドアを閉め、松山をベッドに寝かせようとしたら
「おわっ」
何かにつまづいて、よろめいてしまった。
「とととと…」
ドサっ
やっちまったぜ…
勢いのままベッドに辿りついたはいいが、背負った松山を身体を捻りながらベッドに降ろし…いや、落としつつ、
俺もやつの上に乗っかってしまった。
さすがに起きるだろうと思って、慌てて体を起こしながらベッドから降りたが、
(……あれ?)
全然起きてない!!!
むしろ熟睡!!!
すげーな松山。というか、良く効く薬。効き過ぎだろ…
カーテンが開けっ放しの部屋は外の明かりが射し込んでいて真っ暗ではなかった。
ベッドの傍らに跪き、松山の顔を覗きこむ。
あどけない子供のような寝顔。
さっき、眠そうに目をこすっていた表情を思い出した。
手を伸ばし、前髪をそっとどかしてみたが、やはり起きる様子はない。
「…襲っちまうぞ」
小さい声でそう言って、耳元にキスを落とす。
そのままベッドに上がり、松山の上に覆い被さった。
(本気で、襲ってしまいそうだ…)
薄く開いた唇に、触れるだけのキスをする。
首筋から鎖骨にかけて舌を這わせてみたが、本当に本当に、全く起きる気配はなくて。
(くそう…卑怯だ…)
起きられても困るが、抵抗されないのも困る…
こんな無防備な姿を晒されているというのに、なんだかんだ理性を捨てきれない自分が憎い。
「いっそ起きろよ…」
まあまあ大きな声で言ってみたり。
…ああ、まずいぞ松山…
目の前のご馳走を我慢させられたせいか、俺のアレが、ソレな感じになってきて、
無意識に… あくまでも無意識に、奴の太股に擦りつけていた。
(だだだだっ ダメだダメだダメだっっ///)
慌ててベッドから転げ落ちた。
ベッドに凭れかかり足を投げ出して座る。
俺の顔のすぐ左側に、ベッドに寝る松山の左手がちょうどあった。
(ああ… くそっ… 理性を失わなかった俺に感謝しやがれ。)
そんな事を思いながら、左手の指先にキスをする。
下へと手を伸ばしジャージの中に差し入れると、すっかり勃起してしまった自分のそれに触れた。
「ん…」
今、このどうしようもない欲望の塊を弄っているのは俺ではなく、目の前にある松山の指で、
唇や、その奥にある綺麗に並んだ歯列や赤くてやらしい舌先までも想像しながら…
「っ… んうっ…」
間違っても松山を起こさないよう息を詰めたまま、掌の中で射精した。
「…はあ はあ」
少し頭をあげて松山の顔を見たが、やっぱり熟睡したままだ。
起こさないように、起きないようにと思いながら、
心のどこかで起きることを望んでいる自分に気付いて自嘲する。
もう一度、奴の指先にキスをし、今度は軽く咥えて歯を立ててみたが、やはり起きなかった。
「起きろーーー ひゅーがっっ」
「ぐわああ!!!」
いきなり腹のあたりにすごい重みを感じたと思ったら、目の前に松山の顔があった。
「朝食、遅刻すんぞ」
「…どけ」
起きぬけだが、今俺は、松山に押し倒さ… いやいや、馬乗りになられている。
喜びたいところだが、これはただ単に重いだけだ。
松山はやたら爽やかな顔でご機嫌に「あいあいさ〜」とか言いながら俺から離れた。
「いやー。昨日は悪かったな。すっかり眠っちまって。」
「……おう」
「おかげで頭もスッキリ、薬が効いて鼻もスッキリだぜ!!」
「お前、あの薬やめとけよ。」
「ええ?!せっかく効いたのに!!」
「効き過ぎだ。」
「せっかくこんなにお鼻スッキリなのにぃ〜〜」
まあ、俺も別の意味でスッキリさせてもらったけどな。
「次あんな風に熟睡したら覚悟しとけよ。」
顔にイタズラ描きして、腹踊り出来るように腹にも顔を描いて… と言おうとしたら
「覚悟って、何?」
「っ…///」
ものっすごい顔を近づけてきて、にやーっと笑った。
「日向、俺が寝てる間に、本当は何してたんだ?」
「おまっ…///」
まさか起きて?!!!
「なんつって〜w ぶわっくしょーーーーいっっ」
「ぬわあああ!!!」
再び顔に思いくそ唾をぶっかけられた…
「あり?薬切れたか?」
「松山… てめえ…」
「やっぱ薬飲んでいいか?」
「飲め飲め!!!良く効く薬とやらを飲みまくって、永遠に熟睡しちまえ!!!」
「いって!何すんだコノヤローー!!」
「効き足は禁止だっつってんだろーが!!」
三杉先生が怒鳴りこんでくるまであと10秒。
そんな春です。
ハルルルル…
(完)
裏に置くつもりが、たいしたことなかったので表で。
今年はまだ、まともなマツコジを書いていないのでは…?
花粉症の話を書いていたのに、一昨日雪が降りました!
5分間くらいね!!(笑)