東邦学園高校に推薦で受かった俺が北海道から東京に越してきて、寮生活を始めて一ヶ月。
今日はゴールデンウィークの祝日だったが珍しく部活が休みだった。
二人部屋のルームメイトはそれほど遠くない実家に帰省中。
午前中、目覚まし時計をかけずに寝て起きたら、結構な時間になっていた。
でもいいんだ。
だって今日は
「休〜み〜 なんだからぁ〜〜〜♪」
と、某ネタの曲調にのせて機嫌良く独り言(歌?)を言っていたらドアがノックされた。
「はい」
「日向だけど」
「おう」
部屋に入ってきたのは日向だった。
奴とは食堂の借り事件から始まったものの、ジュニアユース時代にはやけに気が合って
まあまあ仲良くなって今に至る。
「松山暇だろ?」
「クソ忙しい。」
「…暇そうじゃねえか。」
「何?サッカーする?」
「え?ああ。それでもいいが…」
「なんだそれ?」
日向は何やら困ったような様子であちこちを見まわして、
「いやその、天気がいいから、だな」
「うん。サッカーするんだろ?」
「……まあ。そうだな。」
変な奴。
俺は「ちょっと待って」と言うと、パジャマ代わりのTシャツと短パンを脱ぎ捨て、
パンツ一枚の姿でクローゼットをあさり始めた。
「日向、その格好ってことは学校のグラウンドじゃなくて外行くんだろ?」
日向はジャージじゃなくて、GパンTシャツに濃いグレーの薄手のパーカーを羽織っている。
「お、おん」
「ん?どした?」
「いや、別に…」
なんだなんだ?さっきから変な奴。
「今日あったかいよな?」
「多分。」
「じゃ、俺も半袖にしよ〜」
お気に入りの半袖Tシャツを引っ張り出して、クロップドパンツ履いてシャツを羽織る。
「OK〜 行こうぜ〜」
「お、おう。」
ボールを手に取ると部屋を後にした。


学校の敷地内から外に出る。
世の中は楽しい楽しいゴールデンウィーク。
昔はゴールデンウィークって響きだけで心躍ったもんだけど、中学くらいからは大抵部活や試合だったしなあ。
それにゴールデンウィークなんか、どこ行ったって混んでるから、
人混み嫌い並ぶのもっと嫌いな俺にとっては観光地は地獄なんだろうな。
「日向、どこの公園行く?」
「公園… じゃなくて、その、デ…」
「で?」
「デー  … いや、あれだ。ハイキング を しないか?」
「ハイキングぅ?」
バイキングの間違いじゃねえのか?!と思ったけど、
日向は「今日はあったかくて天気もいいからハイキング日和なんだ!」と早口で言う。
「そこの裏山にハイキングコースがあって」
「へえ。ハイキングコースなんてあるんだ。知らなかった。」
「山の上に広場があんだ。…まあ、特に何があるわけでもないんだが。
 原っぱがあって、人もあんまりいなくて、意外と穴場、らしいぞ?」
「らしい?」
「と、若島津が言っていた。」
俺は行ったことはない、って!大丈夫だろうなあ?
あの若島津が言う事だから、間違いはないんだろうけど。
「なんで若島津は知ってるんだ?」
「毎朝、登っているらしい。」
「毎朝?!!」
相変わらず自分に厳しい男だぜ…

日向にくっついて歩いて行くと、山の入口に「ハイキングコース →」という看板があった。
おう。本当だ。全然知らなかった。
木製の階段になっていて、それなりにちゃんと整備されている道が続いている。
「なー。その広場までどれくらいかな?」
「いや、だから、俺は行ったことがないんだ。
 若島津が毎朝登るくらいだから、そんなに時間がかからないんじゃねえの?」
って、日向は言うけど、本当かなあ?
通常1時間はかかるところを、若島津が20分で行って帰ってきてるとか全然ありえるぞ?!!

とか思いながらも、日向とどーでもいい世間話をしながらてくてく登って行ったら
割とすぐに頂上の広場に着いた。
「おお〜」
思っていたよりも広くて、綺麗な緑色の原っぱが広がっている。
シロツメクサが咲いていたり、タンポポの綿毛がたくさんあったり、なんだかいい感じだ。
「うお〜っ 気持ちいい〜っっ」
俺は思わず持っていたボールを放り投げて、原っぱにごろんと仰向けに寝転がった。
青空が目に入って、真っ白い雲がゆっくりと流れていく。
爽やかな風に、暖かい日差し…
あ〜 すげ〜〜 幸せぇぇ〜〜
「ひゅーがー お前も寝っ転がってみろよ〜 すーげー気持ちいいぞ〜」
日向は返事をせず、黙って俺の横に寝転がった。
「ボールも蹴りたいけど、ずーーーっとこうしていたいなあ…」
大きく深呼吸をしてそう言うと、日向はぼそっと「俺もだ」と言った。
「次は若島津も反町も誘って、弁当持って来ようぜ〜」
「松山」
「ん?」
「大事な、 話をしてもいいか?」
「…大事?  なに?」
急に真剣な声で言われて、俺は少しドキッとした。
サ、サッカーの話、だよな???
サッカーの話でないとなると、俺はっ 俺は
「多分、気付いていたと思うが…」
気付いて…? いや、うんと、気付いて なかったわけじゃねえけど
「俺 お前のこと」
わけじゃねえけどっっ!!!
「っ///」
空が映っていたはずの目に、突然日向の顔が現れた。
「好きだ」
「っ…」
「俺と、付き合ってくれ」
そのまま、ぎゅっと抱きしめられて、どうしたらいいか分からなくて、頭が真っ白になって…
青い空と、日向のはねた髪の毛が目に映る。
爽やかな風と暖かい日差しはそのままに、その身体の重みと体温を全身で感じながら…
くそう…
悪く ないぞ。
「ひゅ が…」
「……」
「せ 背骨が、折れる だろが」
「あ。すまん。」
ようやく力が緩んで、俺は大きく息を吐いた。
日向が起き上がると、今度は空を遮るように奴の大きな背中が目に入る。
「だめ、か?」
「え… だめじゃ ねえけど…」
俺の答えに日向はびっくりしたように振り向いた。
俺ものそのそと身体を起こし、日向の隣に膝を抱えて座り直す。
「だって、お前だって気付いてただろ?…多分。」
さっき日向が俺に言ったのと同じように言い返す。
日向が、俺が気付いてると思っていたように、俺も日向は気付いていると思っていた。
明確にじゃなくても、まあ、なんとなく、OKなんだろうな、くらいな。
でなきゃ、男が男に告白なんか、なかなか出来るもんじゃない。
日向は俺をちらりと横目で見て、それから照れくさそうに笑った。

それは、光のどけき 春の日のできごと。

(完)

裏を書く気まんまんでしたが、表になってしまったです;;
ラブラブなマツコジを書きたくて、
ひさかたの 光のどけき 春の日に〜
という、句をタイトルにしてみたい!と思いまして。
本当はここから裏にしたかったんですが、これはこれで
裏は裏で書きます。


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