ちょっくらジョギングにでも出かけようか、と思って玄関口に向かうと、
アイツにばったり出くわしてしまった。
「あ。」
「お。」
別に何があるわけでもないんだが、なんとなくお互い気まずい顔をして。
…っつか、なんで気まずい顔すんだコラ。
合宿三日目。
今日は、確か…ええと、喧嘩はしてねえ、はずだよな??
自信はないが。多分。うん。
「日向、今から出かけるのか?」
先に話しかけてきたのは松山の方で。
「おん。ジョギング。お前は?」
「俺散歩。」
散歩ぉ?おじいちゃんか!!テメエは!!!
「一緒に行く?」
思いがけず、松山が妙なことを言いやがった。
先に靴を履き終えて、靴紐を結ぶために座る俺の顔を覗き込むようにかがむ。
「お前は散歩なんだろ?俺は走るっつってんだ。」
「いいじゃん。たまには歩こうぜ。」
「……」
俺の返事も聞かず、松山は先に玄関のドアを押し開ける。
ガラスのはめ込まれた大きな扉は、ギイと大げさな音を立てた。
なんだって俺が松山なんかとお散歩に出かけにゃならんのだ…と思っていたが
歩き始めると思いのほか気持ちが良くて、俺は悔しいがほんの少しだけ楽しくなってきた。
猛暑の夏が終わってようやく秋と思いきや、残暑厳しいばかりでちっとも秋の気配はなく
相変わらず夜も暑いが…それでも
こうして外に出てみると虫の音が響いて、空気も少しばかり涼しくなったような気がしなくもない。
おまけに今日は綺麗な満月で。
これで隣が松山でなきゃ(かわいい女子とかな。)最高なのに、と思う。
「おお、満月v」
松山が嬉しそうに言った。
合宿所のすぐ裏手にある土手はジョギングコースには最適で、
近所の人なのかジャージ姿のおっちゃんおばちゃんがよく走っている。
すれ違いざま「こんばんは〜」と声をかけてくれた。
「ふふふふ ふん ふん♪」
浮かれた鼻歌がすぐ横から聞こえてきた。
しばらく何も言わずに聞いていたが、全く何の歌だかわからなくて
「それ、何の歌だ?」
「あー。なんだったかな〜?♪月夜の晩の うしみつどきに ヤモリとバラとロウソクを…」
「…ヤモリ?」
「焼いて潰して粉にして スプーン一杯舐めるのさ〜♪あ、割と好きだったアニメの終わりの歌だ。」
ああ、あれか〜 と松山はうんうん頷いた。
「ヤモリとバラとロウソクが何だって?」
「だから、焼いて潰して粉にして、スプーン一杯舐めるのさって。」
「舐めて、どーなんだ。」
「…ええと、なんだっけ?」
変な歌…
だいたい、ロウソク焼いたって融けるだけで粉にはならんと思う…。
「あ。ホレ薬だ。」
「ホレ薬?」
「僕のことを好きに なるように〜♪ そんな歌。」
「ほー。」
「じゅ、じゅ、呪文、かわいいあの子に じゅ、じゅ、呪文♪」
懲りずに松山はその歌を歌い続ける。
「あれ?呪文ってなんだっけ??」
「俺に聞くな。」
なんのアニメか知らんが、何をそう必死に歌うことがあるんだ…
ふんふん歌いながら、突然松山は土手から河川敷の方へ降りる階段を下り始めた。
「おい。」
「ちょっと休憩〜」
コンクリートの階段を途中まで降りて、
そこからまた横の方に逸れて斜面になっている草っぱらに腰を下ろす。
仕方なく俺も階段を降り、松山の隣に腰を下ろした。
コイツは時々やたらガキっぽくなるからついていけない…
サッカーしてる時はクソ真面目なくせに、ホント、どーーーっでもいいことで怒りやがるし。
だからすぐ喧嘩になって三杉に怒られるんだコイツのせいで。
「月、本当に綺麗だな。」
ごろん、と仰向けに寝転がりながら、松山は言った。
「日向知ってる?ウミガメって満月の夜に卵産むんだぜ?」
「ふうん。」
「月っていいよな。生きてるうちに、月に旅行できるかな。」
松山は人差指と親指で円を作って、そこから月を覗き見るようにした。
「できるかもな。大金持ちになれば。」
「宇宙飛行士になれば、じゃなくて?」
「お前はプロサッカー選手になるんじゃないのか?」
俺がそう言うと、松山は笑って「そりゃそーだ。」と言った。
「人間の…」
「?」
なんだか、松山が松山らしくない言葉を発したので、ちょっと変な感じがした。
「人間の、な。身体って、70%は水だから…
潮の満ち引きが月の満ち欠けと関係あるみたいに、
人間にも影響するって、理科の先生が言ってた。」
「……ふうん」
「満月の夜はヒトを狂わせるって… 何かの本で読んだなあ。」
ぼんやりと、夜空にぷかんと浮いた月を眺めながら、松山は呟いた。
「ひゅーが」
指でちょいちょいと呼ばれて、俺は少しばかり顔を近づけた。
そしたら突然
「?!!!」
ぐいっとTシャツの襟首を掴まれて松山に…
「なっ なに…///」
「ホロレチュチュパレロ」
「っ… はっ???」
「呪文。思いだした。」
「????」
そう言うと松山は立ち上がって斜面を登り、土手をすたすたと歩き始める。
っつか、何なんだよ!!!
わけもわからず、俺も慌てて後を追った。
「おい、待て。」
「……」
「お前、何か言えよっ」
人の唇奪っておいて、ノーコメントはないだろうが!!
悔しいから実はファーストキスだってことは言わねえけどな!!!
「いや、ほら、満月はヒトを狂わせるって、そゆこと」
「そゆことじゃねえよ。」
やたら早足の松山の腕を掴んでようやく歩を止めた。
「だったら、満月だし、俺も狼男に変身して思いっきり襲ってやろか?」
冗談交じりに脅すつもりで言ったのに、松山のバカときたらきょとんとして
「え?今晩、俺、日向に襲われちゃうの??」
「なっ/// バカか!!そーゆー意味じゃねえ!!っつか逃げんなコラ!!」
俺の腕を振り払って猛ダッシュで逃げる松山。
くっそ… 完全にからかってやがんな、松山のヤロー…
「ホロレチュチュパレロ!!」
前を走る松山が、月に向かって叫んだ。
その変な呪文は、いつまでもいつまでも、俺の頭の中から消えることはなかった。
(完)
秋っぽい、短いお話を書いてみようかと。
そろそろ912ですしねvv
設定は中学生ですかね〜。
まだまだ子供っぽいお二人さんです。
しかも912なのに若干攻め松?淡い片想い松☆
時間があったら裏も書きたいと思います。
ちなみに歌はグ●ンゾートのEDです。
すごくかわいくて好きvvv
ところで二番の歌詞は「ワインと涙とロバの血」を混ぜ合わせるんですが
ヤモリとロバの血…どちらの難易度が高いんだろ???(笑)
大地×ラビの遠距離恋愛(月と地球だからね!)にきゅんとするあたいです。
(同じ名前でもうちの大地君の恋人は片山さんvv)