「俺、日向のことが好きだ。」
「・・・・・・・」
何を言い出すかと思えば・・・・
「帰ってるんだったら連絡くらいくださいよ。」
と、若島津から珍しくそんな電話があって、
「飲み会しますからね〜vv」
と、反町からご機嫌な電話があった。
久しぶりの飲み会は東邦学園時代の同級生たちが集まってくれて、
だがその中に、なぜか、松山の姿があったのだ。
まあ別に何のことはない、ただ単にこっちでJリーグの試合があったからってだけなんだが。
そして元々、反町と飲む約束をしていたから、なんだが。
一次会の飲みが終わってしばらく居酒屋の前たむろっていたが、
そろそろ二次会の会場へ移動しようか・・・という空気になってきた頃。
それまで再会のあいさつ以外、他の奴らとばかり酒を酌み交わし、
俺とは一度も話をしなかった松山が突然近寄ってきて
「ちょっと話があるんだけど。」
と、言った。
話す機会ならいくらでもあっただろうに、何だって改めまして・・・なんだ??
若干疑わしく思いながら「何だ?」と返せば、「ここじゃちょっと・・・」ときたもんだ。
わけのわからんうちに松山は反町に何か言いに行って、すぐに戻ってきた。
「行こうぜ。」
「は?」
「二次会の会場聞いたし、後から行くって言っておいたから。」
「・・・いや、それはいいが。行くってどこへだよ。」
「どこだっていい。ちょっと歩こうって言ってんだよ。」
「?」
気づけば他の奴らはぞろぞろと同じ方向へと向かって歩き始めている。
そして俺は、反対方向へと歩き始めた松山を慌てて小走りで追いかけた。
「おい。どこまで行く気だ。」
「だから、別にどこだっていいんだってば。」
「どこだっていいってこたねえだろうがよ。」
相変わらず無駄に早足で歩き続ける松山の後ろをついて行く。
繁華街を抜け、大通り沿いを結構長い間歩いてきた気がする。
松山はどこだっていいというが、やはりそういうわけにもいかんだろうが・・・
「松山!いい加減にしろって!」
「・・・・・・」
俺の声にようやく歩を止める松山。
それから
「じゃあ、ここにする。」
「・・・・・・・・」
たまたまそこにあった児童公園に入っていったのだ。
「ほい。」
「・・・・・何だよ。」
「歩かせたお詫び。」
手渡されたのはコーラのペットボトル。
これまた「ちょっと。」とか言ってどこに行ったかと思ったら、コレを買いに行ってたのか。
松山はスポーツドリンクのペットボトルを持っている。
蓋をひねるとプシュっと聞きなれた音がして少しだけ泡立った。
そばにあったパンダの形をした石のイス(?)に跨ると、松山も隣のライオンに跨った。
「んで?話ってなんだ?」
コーラを一口飲み、松山の顔を見る。
「・・・・うん。」
松山もスポーツドリンクを一口飲む。だが俺の顔は見ない。
・・・・・気持ち悪ぃ。なんなんだ、この微妙な空気はよぅ・・・・。
「なんか、悩みか?」
「悩みっつーか、さあ・・・」
「なんだよ。こんな所までわざわざ来て話すような話なんだろ?」
「・・・うん。だから・・・」
ペットボトルを持ってない方の手で目の前のライオンちゃんの頭をぐりぐり撫でながら、
さっきからウジウジとらしくない態度を取り続ける松山。
だから、気持ち悪ぃんだって・・・この空気・・・
「おい、いい加減にしろ。悩みじゃなきゃなんだ?移籍先でも迷ってんのか?それとも」
「・・・・・」
「恋愛相談か?」
「あ、それ。」
「・・・・・・・・・・・」
半分冗談のつもりが、思わず固まっちまったじゃねえか・・・。
っつかな・・・
「俺にするのは間違ってるだろ。反町にしろ、反町に。」
ため息混じりにそう言うと、とんでもねえ答えが返ってきやがった。
「でも、俺の好きな人って、日向だから。」
「・・・・・・は?」
「俺、日向のことが好きだ。」
「・・・・・・・」
何を言い出すかと思えば・・・・
「・・・・・酔っ払ってんのか?」
「少しは酒まわってるけど、まともだ。」
「んじゃあ、熱でもあるのか?」
「健康だ。」
「んじゃあ」
「罰ゲームとかでもねえから。」
「・・・・そーかよ。」
・・・どうやら本気らしい。
言うこと言えてとりあえずスッキリしたのか、松山はハーっと大きくため息をついてスポーツドリンクを飲んだ。
梅雨特有の湿った風が吹く。
空を見上げれば、雲の笠をかぶった満月がぼんやりと見えた。
「それで?」
「何?」
「日向は?」
「・・・・・・・・」
無茶言うな・・・。
今すぐ何をどう考えてお返事しろってんだ大馬鹿野郎・・・
「なあ?」
「・・・・・・・ちょっと考えさせろ。」
「考えさせたら答え出るのか?」
「・・・・・知らん。」
俺はさっきの松山のように、目の前のパンダちゃんの頭をぐりぐりと撫で回した。
「・・・・・・とりあえず二次会行かねえか?」
「二次会終わった後なら答え出るのか?」
「・・・・・・・・・・知らん。」
ふと気づけば松山は俺の目の前に立っていた。
「行こうぜ、二次会。」
にいっと笑って、パンダちゃんの頭を撫でる俺の手を掴む。
心底認めたくはないが、俺はこいつに、ある意味適わんような気がする・・・・
そう思いながら、俺たちは手を繋いだまま公園を後にした。
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