「残りの練習試合3つ、全部3点差以上で勝ったら俺の奢りで飲ませてやる。」
と、監督が太っ腹なことを言ったので、そんな機会を逃してたまるかと
いつも以上にやる気満々で臨んだ練習試合。
もちろん、全部3点差以上で勝ってやった。

「日向さーんvお疲れ様で〜す☆」
ビール瓶を片手に背後から現れたのは反町。
相変わらずマメな奴だ。
「おう」
「練習試合、全部ハットトリックって。日向さんどんだけ奢られたかったんですか〜っ」
笑いながらビールを注いでくる。
「監督が、大事な試合は日向に奢ってやるって言ったら勝てるなって言ってましたよ。」
「そう上手くいくか。」
「奢りとか無料とか、日向さん大好… いってぇ!!!」
反町がアホなことを言うので、もげるかっつー勢いで鼻を摘まんでやった。
「いてぇ〜っ ひゅーがしゃん ひどいっっ」
鼻をすりすりとさする反町の後ろから、「うおーいぃぃ」と顔を出したのは松山で。
「反町をいじめるな〜 暴力はんたーい」
って、お前が言うんじゃねえよ。
口より先に手足が出る奴が。
っつか松山、すっげー酔ってるな…。
「反町、ちょっとどいて〜」
「まっつん珍しいじゃん。日向さんの隣 陣取るなんて」
「いいの〜っっ」
めんどくせぇ… 酔っ払いの相手なんかしたくねえっつーの。
反町が注いでくれたビールを一気に飲み干すと、松山が嬉しそうに「いいね〜」と言った。
「いい飲みっぷりだぜ日向」
「何だよ」
「何が?」
「何か用かよ」
「用がなきゃ来ちゃダメなのかよ。」
…別に、いいけどよ…。
気味悪ぃな… とは口に出さなかったが。
「日向のハットトリック記念にー 鶏の唐揚げを頼むとしよー」
すんませーーーん!と店員を大声で呼ぶ松山に、何でだよ!とツッこむと
「ハットトリックだから、鶏だ。」
「…は???」
「トリック だから 鶏。    あ、えっとー。鶏の唐揚げお願いしまーす!!」
「…………」
ダジャレにもオヤジギャグにもなってねえわ!!!!!
なんつーか、もう面倒だしどーでも良くなった…
俺は無視して皿に残った大根サラダを一気に食い切った。
松山は今日の練習試合のことを一方的に色々話してきて、まあ、俺も、適当に話を聞いて。
コイツ、酔っぱらうと普段の5倍っくらいは喋るんだな…

「唐揚げお待ちどーさまでーす!」
店員さんが唐揚げを運んできた。
おお、美味そうだぜvv早速1つ頂こう、と思ったら、
「レモンかけるぞ〜」
と言いながら、松山は片手で握りつぶすように豪快に、唐揚げにレモンを絞っている。
って!!!!
「おいっ 俺は唐揚げにはレモンかけない派なんだ!!断ってからかけろよ!!」
「言っただろ?」
「言った時にはもうかけてたじゃねえか!!」
松山は「ひゅーが細かい」とか言って口を尖らせる。
くっそー… 俺は塩コショウその他を混ぜた俺様特製香辛料MIXをつけるか、
それがなければいっそ何もつけないのがいいんだ!!それなのに!!!!
「あれ?日向食わねーの?」
「…いらん。っつか、もう1つ注文する。」
「何で?」
「黙れ」
「まー いいけど。すんませーーーーん!!唐揚げもう1つ追加で〜」
もう少し文句を言いたいんだが、松山は反対側の隣にいる岬と喋り始めてしまった。

しばらくして、店員さんがまた唐揚げを持ってきてくれた… と思ったら
「レモンかけるぞ〜」
って、もうかけてるじゃねえかっっ さっきと同じじゃねえか〜っっ!!!!
「おいコラーーーーー!!!」
「うん?」
「てめっ… 何のためにもう1つ注文したと思ってんだ!!」
「え?もっと食いたかったからじゃねえの?」
くっそー松山… 俺は奴を無視して店員を呼び、更に「唐揚げもう1つ」と注文した。

が。
「レモンかけといたからなvvv」
「……」
俺が醤油を探している隙に、またも松山にやられていた…
「お前。わざとだな…」
「何が?」
「絶対わざとだ!!!許さねえ!!!」
「何だよ日向っっ」
松山の胸ぐらを掴んだところで、岬が間に入ってきて
「もー。やめてよ。小次郎もそんなことで怒らなくてもいいじゃん。」
もう1つ追加しよう、と岬は笑顔で言うが、『そんなこと』って何だ!『そんなこと』って!!
何回同じ間違いを繰り返せば分かるんだこのバカはよ!!!
「お前はトリ頭だ。」
「鶏の唐揚げだけに?」
「…んなことは言ってない」
トリづくしだな!!と、超笑顔で言われても困る…
そのうち若干半笑いの店員さん(もう連続4度目だからな…)が、また唐揚げを運んできたので
俺は自分で受け取って自分の目の前に置いた。
すると松山がすかさず
「レモン…」
「やっぱお前わざとだな!!!」
今度こそ絶対阻止してやる!!!
先に延びてきた右手をまず掴み、その後すぐに伸びてきた左手も掴んで
両方の手を掴んだまま、ぐいっと上に上げてやった
「どうだ!これで絞れないだろっ」
と言うと
「っ…///」
酔っぱらってほんのり赤い松山の顔が、見る見る間に真っ赤になっていく…
それで俺から目線を逸らせて
「ひゅーが… 手… 痛ぇよ…」
小声で呟いた。
「?!! なっ///」
「… ひゅーがぁ」
上目遣いでもう一度俺を見て…
その目にはうっすらと涙が溜まっている。
「っ… あ」
思わず、握っていた手を離してしまった。
「レモンかけようぜ〜っっ」
「ぬおおおお?!!!」
だ、だ、騙された…
松山はニヤ〜っと笑って言った。
「日向くんと手握って見つめ合っちゃった〜vvv」
「…… てめぇ」
「へっ  ばーか ばーか」
「……… 許さん…」

その後、松山と手も足も出まくりの喧嘩が始まったのは言うまでもない。


(完)



2013松コミ「松の宴」レポ 後半戦参照でした☆

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