「…クリスマス寒波?なんだその素敵な響きは!!!!」
食堂で朝飯を食っていると、誰かがそう叫んだ。
どうやら声は、テレビ前を陣取っている南葛組から聞こえてきたっぽい。
俺の席からテレビは遠いけど、朝のニュースのお天気コーナーのようだ。
かわいいお天気お姉さんが右手に雪だるまのイラスト、左手に雲と風のイラストを持って何か喋っている。
「松山!クリスマス寒波って何だ?!!」
「ぅおっ」
いきなり後ろから言われて、びっくりして持っていた味噌汁を落としそうになった。
振り向けばそこには井沢、来生、滝の南葛三羽ガラス。
「いや、何で俺に聞くんだ…?」
「松山は冬のスペシャリストだろ?」
「誰がだ!」
っつか、冬のスペシャリストって何だ?!意味分かんねーしっっ
「クリスマス寒波って、すごくね?」
来生がわくわくした目で俺に尋ねる。
「だから、俺、お天気おねーさんじゃねえから。聞かれても知らないから。」
思わずため息をつくと、横に座っていた岬がくすくすと笑っていた。
岬は南葛だけど、飯の時は大抵俺と一緒にいる。(自慢。)
それから、俺の向かい側に座っている三杉がいつの間にやらスマホを手にして
「クリスマス時期にやって来る、日本に強い寒気をもたらす寒波のこと。
冬型の気圧配置が続くのが特徴。大雪、吹雪、暴風による大きな影響が心配されることも。
だ、そうだよ。」
おお。さすが三杉せんせー。
でもって、三羽ガラスときたら
「大雪!!吹雪!!!ウェルカムっ クリスマス寒波!!!」
って、また訳の分からん盛り上がり方してるし。
こいつら、本当に雪の恐ろしさを知らなさすぎる…
「馬鹿だよねえ。」
岬が笑いながら言った。
「ま、怒らないでやってよ松山。僕も静岡に住んでみて、雪に憧れる気持ちはよく分かるんだ。
雪国の人たちからしたら、ふざけんな!って話だろうけど。」
「別に、俺、怒ってねえけど。」
「そう?」
怒ってないけど、理解も出来ない。
雪降らないってありがたいじゃん。
好きなだけ外でボール蹴れるし、危なくないし、雪かきしなくていいし、市の財政圧迫されないし。(←?)
窓の外を見れば、今日も静岡は良い天気。
もう年末だというのに、今日なんか特に気温が高い日だったみたいで
外でちょっと身体を動かしたら汗をかくくらいの陽気だ。
布団干したら気持ち良さそうだな…
なんて、ほわんとした気分になりながらも、そう言えば昨日小田と電話をしていて
あいつが『こっちは大雪だぞ〜』って言ってたのを思い出して、ちょっとだけ雪が恋しくなった。
…って、まあ、数日後には帰るんだけどな。
「ところでさ〜 松山」
「うん?」
岬が急須でお茶を注ぎながら尋ねてくる。
「小次郎とはうまくいってるの?」
「げほっ げほげほっ」
俺もお茶を注いでもらおうと、まだ湯呑みに残ってたお茶を一気に飲み干そうとしたら思いっきりむせた…
なんつー質問をぶっ込んでくるんだ!!!岬!!!
「やめろよっ ここでそーゆー話っ」
「他でならいいの?」
「…困るけど」
「ならいいじゃん。誰も聞いてないし」
確かに、向かい側の三杉は佐野と話し込んでるし、俺の隣も岬の隣も空席だけど。
「そ、それなりに、な。」
「ふうん。良かったね。」
「…岬、全然心がこもってねえな。」
「こめてないもん。」
よく分からないけど、岬は俺と日向がそーゆー関係なのを良く思っていないらしい。
そうなる以前は面白がっていた割には、だ。
ちょうど一年前の今頃、ちょうどこの食堂で日向とちょっといちゃこらしていたら(『やっぱり雪』参照。)
とってもとっても運悪く岬に見られた…
で、バレた。
「ご馳走様でした。松山、僕先に戻るよ。」
「あ、うん。」
岬はトレーを持って行ってしまった。
祝って欲しいとは言わないけど、岬にはわかってもらいたかったんだけどな…
ふう、とため息をつくと、向かい側にいた三杉がいつの間にやらこっちを見ていて
「松山も苦労するね。」
と言われた。
…あれ?聞いてた???
合宿の最終日はクリスマスイブで、みんなそれぞれ予定もあるだろうと配慮された…か、どうかは知らないけど、
とにかく午前中の練習だけで終わることになっていたが、
帰り支度ができたら一度玄関口に集合するように三杉に言われていた。
「はーい。みんな揃ってる〜?じゃ、行くよ。」
「???」
行くってどこへ???
全員が同じことを思ったに違いない。
何が何やら、とりあえず三杉の後ろをぞろぞろぞろぞろついて行くと…
「ゆ… 雪だ!!!!」
「雪だ雪だ!!!!」
わああああっ と歓声をあげて、みんなが白い雪の山に走って行った。
グラウンドの横にある、ちょっとした広場(っつっても、特に何があるわけでもない)に何故か突然雪の山。
ずっと天気も良かったはずだし、この程度の気温じゃ雪が降るはずない。
「三杉、これは」
「僕からみんなにクリスマスプレゼントだよ。今朝トラックで、山の方から持ってきてもらったんだ。」
…さすが三杉。(の財力。)
でも、これって
「…ほぼ南葛組のためのプレゼントじゃ…」
「そんなことないよ。みんな喜んでるだろ?」
確かに。
なぜに秋田の立花兄弟があんなにはしゃいでんだ…
俺には分からないぜ。
雪を存分に楽しみ倒すみんなを見ている方が面白くて、離れたところで見守っていたら
「松山」
「日向?」
いきなり日向に手を引かれ、広場の片隅に数本生えてる木の後ろに連れて行かれた。
「松山」
「うん?」
「クリスマス、だろ?」
「イブな。」
「おう、クリスマスイブだろ?」
「そうだな。」
「また、しばらく会えなくなるな。」
「ああ。」
「で、俺は、その、あれなんだが、反町の奴が松山みたいなタイプは確認しねーと殴るかもしれないとか言うから」
「…日向、さっきからお前、話が繋がってねえぞ」
「……」
日向は目を泳がせて、うー、とか、あー、とか言って。
「キスしたい。」
「……… は ?!!」
「だから、キスしてーんだけど、してもいいか?」
「…… お ///」
「嫌、なら いい ですが」
なんか急に敬語になって、日向は俺から目線を逸らした。
反町がどーとか言ってたのは、そういう事かとやっと俺も理解して。
…日向のくせに… 気ぃ使うとか、やめろよ… 調子狂う…
「…いい けど」
「え?!」
「いいよ///」
思い切ってそう答えたら、日向は自分から言ったくせにものすごいびっくりした顔で俺を見た。
恥ずかしくて、いっそ早く終わらせてしまいたいくらい照れくさくてどーしよーもなくて…
俺は急かすように、目を閉じ少し上を向いた。
両肩にそっと手を乗せられる。
日向の、やたら荒い息遣いが、近くに聞こえた。
「冷て!!!!」
?!! 何???
日向の声に目を開ける。
「不純同性交友は禁止でーーーーーーす。」
「岬… てめえ…」
日向の後頭部は雪まみれになっていた。
どうやら岬に雪をぶつけられたっぽい。
「雪合戦始まるよ!全員強制参加だからね。早く来ないと、三杉君に告げ口しちゃうよ〜」
「待てコラ!!!岬ーーーーー!!!!」
許さーーーーん!!と、日向は岬を追いかけて行った。
やれやれ…
今年の冬の合宿も、雪と日向に振り回されまくりだな。
…あと岬、な。
(完)
今年は「雪に憧れる」シリーズを無理矢理書いてみました。
なにげにこれも、一年単位の連載ですね。
年齢設定はしてませんけども。
ここまでくると、雪がどうとかじゃなく、ただのマツコジだよね…
いや、しかしまあ、雪のたくさん降る地域のみなさまには
本当にスミマセン…って感じのお話で、いつも本当にスミマセン;;;
クリスマス寒波にときめく静岡市(平野部)民は私だけではあるまいよ…