「うおおお!!!!」

部屋の扉を開けた途端、びっくりして思わず柄にもなく奇声をあげてしまった・・・。
「な、何?健ちゃん変な声あげてさ〜」
「あ、なんだ、反町か・・・」
驚いた。本当に心底驚いた。
分かっていたつもりだったが、まさかこんなにも・・・
っつか、
「ああ!!日向さんてばなんでこんな時にいないんだ!!!」
「はあ?もう、さっきから何なの?」
反町は眉をひそめ、小首を傾げる。
ああ、その動きもなんかそれっぽいな・・・。
「これ、借りてたノート。さんきゅーねvvさっすが健ちゃんだね☆」
そんじゃ!と言って去ろうとする反町の腕を慌てて掴んで引き止める。
「お前、自分で気づいてないのか?」
「ほへ?」
「ちょっと来い。」
反町の手を引き、部屋の中に引きずり込む。
机の二段目の引き出しの中から手鏡を取り出し、それを反町の顔の前に突きつけた。

「前髪。どうした?」
「ああ。さっき長くて邪魔だと思ったから自分で切っちゃった。」
ちょっと切りすぎたかな〜 と、前髪を弄りながら目線を上にする。
だーかーらーっ
そういう動きもなんかすんげーそれっぽいんだって!!
って、俺がそう興奮してどうする・・・。
「お前、今、松山にしか見えん。」
「・・・・・・」
きょとん、とした顔で俺を見る松・・・じゃない、反町。
「またまたー。似てる似てるとは言われるけどさー。そうでもないでしょ。」
「いや、今のその前髪の長さ。やばいくらいに松山っぽい。もう動きも松山っぽい。」
「動きもって。」
「とにかく松山っぽい。」
真顔で言い張ると、反町は「それじゃ」と言って短い前髪を無理やりいつも通りの横分けに持っていく。
「これならどう?」
「あ、反町。」
「でもすぐ戻っちゃいそうだなあ。」
「固めたらいい。」
「っつかそこまでしなくちゃならないわけ?愛しのそりちゃんはどんな髪型でもそりちゃんでしょうが!!」
と、頬を膨らませて反町は怒るが俺的には本当に気味が悪いのでそうして欲しい・・・


「あれ?日向さんは?風呂?」
前髪をあれこれと弄りながら、鏡越しに反町が言った。
「グラウンドの片隅でこっそり自主トレ中。」
「げえ。せっかく部活休みなのに。ってか、日向さん余裕だね〜。明日からテストなのにさー。」
「最初っから捨ててるんだろ。」
「でも、赤点なんて取ったらやばいんじゃない?監督、部活出るな!とか言い出しそうじゃん。」
まったくだ・・・。
監督はサッカーさえちゃんとしてくれてりゃいいって発想なら楽なのに、
変なところで頭が固いというか、自分にも同じくらいの息子がいるからなのか・・・
妙に文武両道的な考えが強かったりする。
今のところ、俺が必死で尻を叩いて赤点だけは免れている日向さんだが、
いかんせん本人は少しもありがたいと思ってくれていない。
「そんでまた沖縄に逃亡しちゃったりして。」
「って、洒落にならないぞ、反町。」
「・・・・だよねえ。」
はっはっは、と他人事のように反町は笑った。
だがしかし、本当に笑い事じゃない。
前回の沖縄逃亡事件のとき、俺がどんだけ苦労したと思ってるんだ・・・。
あの人に勝手についてきたのは自分だが、それにしたってもう少しこっちのことも考えてもらいたい。
「言っておくが、FWのお前が苦労するのは目に見えている。」
「わ、わかってるよ。脅さないでよ健ちゃんっっ」

と、突然俺はとてもいいことを思いついた。
そう、マンガのように「ピコーン!!」と頭の上に電球が点ったのだ。
これはバレたら恐いが、うまくいけばあの日向さんも少しは勉強する気になるかもしれない素敵な計画では?!
「反町。日向さんが赤点を取るのは、当然お前も避けたいよな?」
「そりゃね。」
「じゃあ、ひとつ協力しろ。」
「協力??って???」


「ええええ?!!!やだよ!!バレるって!!絶対!!」
「日向さんが赤点とってもいいのか?!」
「それは嫌だけど!!バレた時にシメられるのも嫌だーーーーっっ」
「大丈夫。俺が守る。」
「カッコイイけど信用できない!」
「8割は確実と言われている俺の数学のヤマをこっそり教えてやってもいいぞ!!」
「う」
反町が固まる。
成績は上の中といったところの反町の唯一の苦手科目は数学。
どうだ!!
「・・・・・わ、わかったよ・・・」
しぶしぶ了解した反町は部屋を後にした。

グッドラック!!!



「おかえりなさい。」
数十分後、狐につままれたような顔をした日向さんが部屋に戻ってきた。
作戦成功、か?
「どうかしたんですか?」
「・・・・いや、何でもない。」
「化け物でも見たような顔ですね。」
思わずにやけてしまう顔を引き締めつつ、日向さんの顔を盗み見る。
「・・・・風呂、行ってくらぁ。」
「はいはい。」
着替えを掴んでフラフラと部屋を出て行く日向さん。
とりあえずバレてはいないんだろうな。
これで日向さんも少しは勉強してくれる気に・・・
「けーんちゃぁ〜ん」
今閉まったばかりの扉がそーっと開いたと思ったら、日向さんが去っていった方向を用心深く確認しながら
反町がこそこそ後ろ向きに入ってきた。
頭には土建屋の兄ちゃんのごとくタオルが巻かれている。
「よう。うまくやったみた」
「俺・・・俺・・・」
なぜか半泣きの反町・・・
もしやバレたのか?!!
「俺、ひゅ、ひゅーがしゃんに・・・」
「うん?」
「抱きしめられた上、危うく唇奪われそうになったんだけど!!!!」
「な、なにぃ?!!!」



<日向目線>
夕暮れ時のグラウンドに一人。
空は真っ赤に染まり、グラウンドにあるすべてのものも真っ赤に染めていた。
「日向っ」
呼ばれてボールを蹴る足を止め振り返る。
逆光の中のシルエットに目を凝らすと、そこにはジャージ姿の・・・松山が立っていた。
「・・・・松、山・・・?」
「おう。久しぶり。元気だったか?」
「・・・・・なんで」
「・・・・お前に、会いたかったから。」
「っ・・・」
まさか、そんな。
しかもそんな台詞・・・。
夢でも幻でもいい。
目の前の愛しい人を抱きしめずにはいられなかった。
「っ・・・」
「俺も、会いたかった。」
唇を合わせようとした瞬間、戸惑った顔で身体を押される。
「・・・すまん。」
「・・・・・・・・」
泣きそうな顔で突然松山は走り出す。
逆光で目がくらむ。
もう一度見たときにはそこに松山の姿はなかった。


<反町目線>
夕暮れのグラウンド。
計画を実行すべく、日向の姿を探す。
いたいた・・・
「日向っ」
得意の松山のモノマネで、日向を呼び捨てにしてみるのもたまにはいい。
振り返った日向は一瞬目を細め、それから驚いた顔でこちらを見る。
「・・・・松、山・・・?」
「おう。久しぶり元気だったか?」
お前、あいっかわらずサッカーしかしてないんだな。
ちゃんと勉強してるのか?明日からテストなんだろ?
赤点取って試合に出られませんでしたなんて、格好悪いことだけにはなんなよ。
じゃな!!!
で、走り去る。
反町は頭の中で復習した。
「・・・・・なんで」
えー?なんでって、まあとりあえず、ええと
「・・・・・お前に、会いたかったから。」
で、例の台詞を・・・・って、えええええええ?!!!
いきなり日向に抱きしめられた。
「俺も、会いたかった。」
はいいいいい?!!!
あろうことか、日向は遠慮なしに顔を近づけてくる。
こ、これわまさかっっ
思わず日向を突き放す。
じょ、冗談じゃない。
たとえ相手が日向さんだって、男とチューなんて勘弁してくれ!!!!!
猛ダーーーーーッシュ!!!!!



その日から前髪がある程度の長さになるまで、反町は前髪を上げたり横に分けたり固めたりと毎日苦労し、
俺はと言えば・・・・
松山の幻に夢見心地の日向さんの尻を叩いて勉強させるのに躍起になる日々がしばらく続いたのだった。

(完)


そりちゃんと松が似ているネタを使ってみよう!
と、思って書いてみました。
日向さんはわかしーの手の平の上・・・と思いきや、
意外と振り回されっぱなしのわかしーだったりするのもいいかな〜
なんて。
負けるな!わかしー!!!


top