【長くて短い。】

「ひかる君、お誕生日おめでとう」
「あ、ありがと///」
「これ、プレゼント。」
「えっ いいの?」
「うん。開けてみてっ」
ひそかに片想いをしていた女の子からもらった初めてのプレゼント。
可愛らしい、小さなピンク色の箱を開けると、中には…
「?!! ぎゃーーーっっ」
「あはははははははっ」
大っ嫌いな、クモ… の、おもちゃ。
校舎の影に隠れていた数人の女子が笑いながら姿を現した。
「超笑える〜〜っ」
「ぎゃーーー だって!!あははは」
「冗談だから、先生にチクるとかナシだからね。松山君。」


「…と、それ以来、誕生日プレゼントがトラウマだ。」
「マジか。」
「箱を開ける瞬間、あの時のクモのおもちゃを思い出してさ…
中身を疑い、プレゼントをくれた人間を疑い、結局人に開けさせるという事態に陥ってひとつもいい事がないので、それ以来プレゼントは物じゃない方が嬉しい。」
なるほど。
それで、「物はいらない」って言ったのか。




久しぶりに松山からメールがきた。
『明後日、仕事で東京へ行く。せっかくだから、2〜3日いる。』
……ってそんだけかよ!!ただの報告じゃねえか!!
こっちの予定を聞く訳でもなく、自分の行動予定を教える訳でもなく。
もちろん悔しいので、俺から確認なんかしない。
『了解。』
とだけ返したが、その返信はないまま。
で。
今朝いきなり見学者に紛れてチームの練習場に現れて、終わった頃に『近くのコンビニにいる。』とメールが来た。
まあ、なんか、そんな感じで、現在松山は俺の運転する、俺の車の助手席に収まっている。
それだけでも充分迷惑な話なのに「この前誕生日だったから祝えよ〜」って… 図々しい奴め。
しかも欲しいもん買ってやるって言ったら、物はいらない、と。
物じゃないモノをプレゼントするって、結構面倒だぞ?分かってんのか?

「で?」
「で????」
「お前がなぜ、プレゼントを物で欲しがらないかはよく分かった。じゃあ、どうするんだ?飯でも奢ればいいのか?」
「日向、なんか冷たい」
「ああ?」
てめーが物はいらないっつーから、飯でも奢りましょうかと提案してやったんじゃねえか!!なんなんだ!!
「…じゃあ、もう何もやらねえ」
「怒んなよ〜 冗談だろ〜」
「……」
「じゃ、ドライブしよ。このまま。海まで出て、浜焼きか海鮮丼。」
「…結局奢るんじゃねえか。」
「いや、ドライブメインだから。」
はあ…
昔っからこいつはこうだ。
思いつきで俺のことを振りまわす。
本人に悪気はないから、余計にタチが悪い。





「は〜〜w美味かったな〜」
「おう。」
とある港にある小さな食堂で飯を食った。
目的地を決めず、なんとなく海を目指して、なんだかんだ話をしながらドライブしてたらかなり遠くまで来ていて。
気付けば、昼飯なんだか夕飯なんだか、よく分からん時間に飯を食うはめになった。

港の、駐車場ではないが特に何もない広い場所に車を停めて一休み。
ちょうど夕日が沈む時間だ。
運転がなきゃ、たまには早い時間からビールの一杯でも飲みたかったが…
松山も、俺に遠慮せずに飲んでもいいって言ったのに、なんか変に気を使われて奴も結局飲まなかった。
「この後どうする?」
「日向は明日なんかあんの?」
「いや、休みだ。」
「俺は明日の夕方の飛行機で帰る予定。」
「おう。」
「じゃー さ。どっか、泊る とか。」
「え」
俺は思わず助手席に座る松山の方を見たが、奴はまっすぐ前を見たまま。
横顔が赤いような気がするが、照れているのか夕日のせいなのかは分からない。
「泊るって… どこに」
「…あったじゃん。ホテル。」
「お前… あれはラブホだぞ…」
確かに、ここに来るまでにラブホは何軒かあった。
海沿いの国道によくある景色だ。
「……松山」
また、「冗談だろ〜」なんてニヤニヤして言うのかと思ったが、松山は無言のまま、むしろ俺の答えを待っているようで。
俺は、心の中で『他にないから、そこに泊るってだけ』と言い訳しながら「じゃあ、行くか?」と答える。
松山の「おう」という小さな声が聞こえて、俺は再び車を発進させた。



俺たちは、仲は良い方だが別に付き合っているわけじゃない。
告白したことも、されたこともない。
俺も彼女がいた時期は当然あるし、松山も今はいないようだが、過去には多分いたと思う。
ただどこかで、まあ、お互い同じような気持ちなんじゃないかと、ぼんやりと思ったり…
友達以上の特別な感情があるような気はするけど、ハッキリさせるまでは敢えてしなかったり…
そうやって、気付いたらそれなりの歳を重ねてしまった。



モーテルを見つけて、空いている車庫に車を停める。
部屋の中に入ると、松山は「へえ」と言って辺りを見回した。
「俺、こういうとこ入るの初めて。」
「そうなのか?」
「うん。日向は?」
「…俺は、まあ、何回かあるけど。」
「へー。」
って、なんで俺、こんなこと言わされてんだ;;;
「だからって、俺童貞じゃねえから。」
「…別に疑ってねえだろ」
「はは。そっか。」
…あれ?やっぱり松山、そういうつもりじゃないのか?
本当にただ泊る目的で言っただけなのか?
ベッドに座って、テレビをつける奴の横顔を見つめる。
普段と変わらない態度に、安心したような、腹が立つような…
「日向。風呂入ってきていい?」
「…どーぞお先に。」
なんだか気が抜けて、俺はベッドにゴロンと寝転がった。

松山が風呂から出てきて、俺も風呂に入る頃にはすっかり平常心に戻っていた。
そんな気が… あるわけないか。
さっきは、そう、多分、海と夕日という特殊な雰囲気に惑わされただけに違いない。
Tシャツにボクサーパンツ姿でベッドに寝転がってテレビを見ている松山の後ろ姿も、完全に気が抜けているとしか思えなかった。
俺も暑くてまだパンツしか履いてなくて、そんな格好でも全く気にならず松山の隣に腰を下ろす。
「酒でも買ってくれば良かったな。」
そう言うと、松山はこちらを見ず、テレビを見たまま答えた。
「え?ああ。なんか、メニューあったから頼む?」
「いや、そこまででも…」
「そうか?」
「松山がなんか飲みたいなら頼んでもいい」
「俺は別にいらないけど」
「おう、そうか。」
「……」
「………」
う… 微妙な沈黙…
ついさっきまで俺超平常心とか思ってたのに、また変な緊張感が戻ってきたような気が…
俺に背を向けるようにして寝転がる松山の背中を見つめる。
白いTシャツ越しに透ける肩甲骨。
ボクサーパンツからすらりと伸びる脚。


…なあ、松山… 今本当にテレビ見てんのか?
見てるフリして、実は全神経、背後の俺に向いてたりしねえの?


手を伸ばし松山の肩にそっと触れると、あからさまにビクっと動いた。
「…松山?」
「……な んだよ」
「ちょっと、こっち向けよ」
「何で」
「いいから」
「嫌だ」
松山の上に覆い被さるように近づき、少し強引にこちらを向かせた。
「っ…?!!!」
松山の顔は、真っ赤だった。
目は少し潤んでいて、触れた身体は熱くて。
「…松山」
「……な に」
「え…と」
気の利いた言葉が出てこない。
だが自分自身を抑えることもできなくて、俺は、そのまま松山に覆い被さって唇を重ねた。
ちゅっ ちゅっ と水音をたて、松山の柔らかい唇を吸い、舌を絡め取る。
松山は抵抗する様子もなく、キスに応えてくれた。

長いキスの後ゆっくりと唇を離すと、松山の目はぎゅっと閉じられたままだった。
つけっぱなしのテレビの音が、急に近くに聞こえる。
手を伸ばしリモコンを掴むとテレビのスイッチをオフにした。
「ひゅ …が」
ようやく、恐る恐るといった感じで松山の目が開く。
「すまん… 我慢できなかった」
「…うん」
「いいか?」
「………なんだよ今更…」
その『今更』は、すでにこいつの腿に押し付けてしまっている、俺のガチガチの下半身のことを言っているのか、
それとも
これまでの中途半端な俺たちの関係のことを言っているのか…


「っ… んっ…///」
初めて抱く松山の体は当たり前だが男の体で。
慣れないとは思うが、嫌ではない。
それは、松山だからなんだろうが。
松山は、さっきから自分の手の甲を噛むようにしながら必死で声を堪えている。
自分のと、松山の… 二本の性器を一緒に握りこんで上下に動かすと、味わったことのない快感が体を走った。
「松山… 声、聞かせろよ」
「っ… 」
松山は小さく首を横に振る。
「イ きそ… まつ やまっ  イっていい?」
「…俺 も   んっ…」
先に松山がイって、俺も松山のイキ顔を見てイった。
二人分の精液で、松山の腹の上がドロドロになる。
「はあ… はあ…」
ティッシュを取って、腹の上を拭いてやった。
ああ… 気持ち良かった…
そんで、松山、めちゃめちゃ可愛かった…
正直、いくら松山とは言え男相手にエロいことできんのか?と思っていたが全然できるな、できちまうな。
もうここまできたらセックスもできるんだろうが… 風呂に入ってる時から薄々気づいていて先送りにしていたことを、今言わなければと思う。
「…松山」
「ん?」
「このままセックスしたいのは山々なんだが…」
「…おう」
「男同士のやり方って、お前知ってる?」
「……」
松山はじーーーーっと俺を見た。
何今更言ってんだ?って顔だろうなこれは。
まあ、俺もそう思う…
「知るわけねーだろ。日向こそ男子校だったんだから、その辺の知識あるんじゃねえの?」
「ない。お前以外興味なかったし。でもお前とこんなことになるとか、微塵も思ってなかったし。」
「じゃあ、調べる??」
そう言って、松山はテーブルに置いてあったスマホを手に取る。
「いや、それもどーなんだ… スマホ片手にヤんのか?」
「…んじゃあ、今日はここまでにするか。」
松山はスマホを再びテーブルに置くと、大きな欠伸をした。
「ふあああ… 一発抜いたら眠くなった。」
裸のまま、ごろんと仰向けに寝転がる。
「日向… 次、会う時までには、調べとけよ…」
「おう」
「……」
寝たし。
まあ、いいか。
「急ぐこた ねえよな…」
一人ごちて、掛け布団を引き寄せながら素っ裸で眠る松山の横に寝転がる。
それから、額にキスを落として耳元で囁いた。
「…好きだ」
「………… 順番 ちげーだろ…」
あれ?起きてた???
松山はうっすらと目を開いて、俺の方を見る。
「…俺も。… すき」
「……おう」
ずいぶん遠回りした割に、いきなりラブホでセックス一歩手前までしてからようやく告白とか、ホント、アホだな俺たち。
なんか悔しいからこいつが寝てる間にやり方調べて、朝早くから襲ってやろう…
誕生日だし。サプライズプレゼントってことで。
ナイスアイディアを思いついてニヤニヤしてたら、松山に「きもっ」と言われてしまった。

<完>


2016年の松山お誕生日記念です。
ロードムービー的な話にしたかったんだけどなあ。撃沈です。わは。
遅くなってごめんよまっつんっ!!


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