東京の夏はこれだから嫌だ。
ただでさえ人が多くて暑い気がするのに、むしむし、じめじめ・・・。やってらんねえ。

グラウンドの隅の欅の木の下に座りこみ、タオルを頭から被って、俺は思わず頭を垂れた。
自主トレ中だっつーのに情けない・・・。

ふいに首筋にひんやり冷たい金属の感触があって、思わず「ひゃっ」とマヌケな声をあげてしまった。
見上げれば、そんな俺の反応を楽しむように、にやにやとしているヤツの顔があった。

「よう。バテたか?」
「るせーな。」
「熱中症予防には、首の後ろを冷やすのがいいんだと。」
ほい、と、日向はコーラの缶を俺に寄こす。さっきの冷たい感触はコレだったのか。
「・・・何?」
「やる。」
やる。だと?!なんだ?!どうした?!日向!!暑さでおかしくなったか?!
俺がきょとんとした顔で見ていると、日向は怪訝な顔で言った。
「・・・別に毒は入ってねえぞ?」
「・・・・・・そんな心配はしてねえよ。」
何ズレたこと言ってやがんだ・・・。時々日向はおかしなことを言う。
「あ、睡眠薬入れれば良かったな。」
「あのな・・・」
「てめえが人に奢ることが驚きなんだよ。」
「当たったんだ。」
「あ?」
「だから、当たったんだよ。自販機で。」
ピコピコーンっと光ったんだ、と言いながら、日向は俺の横に腰を下ろした。
ああ、そういうことね・・・。

「運、使い果たしたんじゃねえの?一週間分くらい。」
「110円ごときで一週間はねえだろ?」
プシュっといい音がして、日向はコーラを口に運ぶ。俺も続いて蓋を開けた。
「っあー、うっめぇ〜・・・」
「お前、本当にコーラ好きだよな。そのうち骨溶けるぞ。」
「溶けたらそん時だ。」
「うまいけど、今はこう、スポーツドリンクかお茶かミネラルウォーターが良かったな。」
「じゃ、返せ。」
「断る。」

生ぬるい風が吹いて、欅の葉を揺らした。
俺はごろん、と寝転がって空を見上げる。
葉と葉の間から、抜けるような青空と、真っ白い雲が見えた。

「松山」
「あ?」
「俺、イタリア行くことにした。」

イタリア イクコトニシタ

俺は無意識に、日向の言葉を頭の中で繰り返す。

「そうか。」
少し頭を上げると、日向の、泥で汚れた白いTシャツを着た俺よりも大きな背中が見えた。
「一番最初に、お前に言おうと思って、」
「俺より先に言うべき人がいるだろうが。家族とか・・・」
「いや、お前だ。」
そう言って振り返り、俺の顔を見ると、にっと笑って見せた。
「お前が一番だ。」

こんな気持ち、なんて言うんだろう?
言葉で言い表せない、この・・・
喜ばしいとか、羨ましいとか、悔しいとかじゃなくて、
「寂しいか?」
「・・・・・・」
・・・・そうか。
『寂しい』のか。
そいつは意外だった。
「・・・・松山?」

転校することが決まって東京に旅立つ日、ふらののみんなが駅まで見送りに来てくれた。
小田がガキみてーに涙ぐみながら、「キャプテンがいなくなるのは寂しいです。」って言ってたっけ。
俺は、いつでも会えるだろ、と、笑って答えたのに。

・・・・そう言えば、いつだったか、こんな気持ちになったことがある。
そうだ。あれは小学生の時、岬が転校してしまう日だ・・・。
とても寂しかった。
見えなくなるまで、バスの後を追いかけたな・・・。


ーーーーーー 去る方と、去られる方には、思ったよりも温度差がある。


欅の葉が、風に揺れてサワサワと音を立てる。
日向の長く伸びた前髪が、俺の額に触れた。

合わせた唇は、ほんの少しコーラの味がした。

うわー。なんでしょ?これ・・・(恥)
もう、なんか笑ってしまひますね。
二人ともなんか変だよ〜っ って、私が書いたんですが・・・。ええ。
なんだかちょっと女々しくなっちゃってすみません。

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