開け放った窓からは、生ぬるい風しか入ってこない。
外はこれでもかっつーくらい蝉が鳴いている。
さっき松山が作ったカルピスの氷が溶けて、カラン、と涼しげな音が響いた。
小さなテーブルの上で、めずらしく生真面目にシャープペンを走らせる松山。
俯き加減のその睫毛が意外と長いんだなあ・・・なんて思って見つめていると、
視線に気付いた松山が向かい側に座っている俺の顔を見上げた。
「なんだよ。」
「別に。」
お前案外睫毛長ぇのな、なんてまさか言えるわけもなく、俺は再び数式の並んだノートに目線を戻した。
夏休みに入って二週間。
昨日から部活の練習も盆休みに入り、寮生は今日からほとんど自宅に帰省している。
俺と同室の若島津も、反町はじめ他のサッカー部員達もほぼ例外はない。
例外の俺はマヌケにも思いっきり試験の追試をくらい、明日の午前中にそれを受けなければ自宅に帰してもらえないのだ。
松山はと言えば・・・
同じ部活なのにいつ勉強なんかしてるのか(元が違うのか?)そつなく試験をこなす若島津と反町に対し、
俺と常にギリギリラインにぶら下がっている、ハズなのに。
今回はヤマが当たったとか大喜びしてやがった・・・。
つまり、追試はくらっていないのだ。
じゃあ、なんでまだ残ってるのか?
それが俺にもよくわからない・・・。
30分くらい前にカルピスの入ったグラス片手に突然部屋にやってきて、「小学生みたくねえ?」とか言いながら
部屋の片隅に置いてあった折りたたみ式の小さなテーブルを開いた。
で、今なぜかこうやって、俺と向かい合わせで自分の宿題をこなしている・・・のだ。
「おい。」
「うん?」
「帰らねえのか?」
「え?」
松山は顔を上げた。
「ふらのに帰らないのかって聞いてんだ。」
「帰るよ?」
当たり前だろ、という風に松山は答える。そしてまたすぐにノートに目線を戻す。
「飛行機とれなかったのか?」
「別にそーゆーわけでもねえけど。」
「またすぐに練習始まるぜ?」
「わかってるよ。ってか、日向ちゃんとやれよ。追々試になっても知らねーぞ。」
「・・・・」
なんか知らんが松山に怒られた・・・。
松山は額に滲む汗を拭うと、カルピスの残りを一気に飲み干した。
俺も氷がだいぶ溶けて味の薄まったカルピスで喉を潤し、再びノートに目線を戻す。
隣に置いた若島津の几帳面な文字の数式と見比べながら、暑さで殊更やる気の出ない頭を必死で回転させる。
「なあ。」
「あ?」
「日向、コレわかる?」
てめぇ、追試になった人間に聞くなよ・・・と思いながらも、一応松山のノートを覗き込んだ。
俺の持ったシャープペンが、松山の持つシャープペンに、こちん、とぶつかった。
思わず見上げると奴と目が合った。
けたたましい蝉の鳴き声に混じって、子供の笑い声が外から聞こえてくる。
しばらくは松山と二人きり。
ってか、追試まで落ちたらどうしてくれんだ・・・?
合わせた唇は、ほんの少しカルピスの味がした。
書いてみたかった松山くん東邦学園バージョンです。
なるほど、合宿じゃなくても会えるから幅が出ますね〜vv
遠距離は遠距離でいいですけど。
自分が夏好きなので、夏をテーマにしたお話はいっぱい書きたいです。
勉強会って楽しかったですよね!半分以上おしゃべりなんだけどね。(笑)