「な、反町。今日お前んち、遊びに行ってもいい?」
いきなりの松山からの申し出に、俺は文字通り、口から心臓が飛び出るかと思った。
「ももももも もちろんっ」
「あー。 ってか、泊ってもいいかな?」
「い… いいともーーーーー!!!!」
テンションMAXで腕を突きあげたら、松山が怪訝な顔でこちらを見ていた。
そりゃそーだ。
「反町なんか変。」

松山が関東のJリーグチーム(まだサテライトだけど)に入団して数カ月。
大学進学した俺の家とは、割と近い所に住んでいたりする。
たまに連絡取り合って、一緒に飯食ったり飲んだりはするけど、こんな事言われたのはもちろん初めてだ。

松山ああああ〜〜っっっ
お前、俺がどんな目でお前のこと見てるか、全っ然気付いてないだろーーーーっっ
いや、気付いてたら困るけど!!
「俺、コンビニ寄って買い物してくるからさ。あとで行くな。」
松山なりに気を使ってくれたんだろう。
突然人が来ても困るような部屋ではないけど、それでも、軽く掃除機かけるくらいはしたいし。
もちろん松山の買い物に付き合っても良かったんだけど、俺はありがたく気持ちを受け取る事にした。
「じゃあ。後で。って、松山、うち知ってた?」
「前通った時、教えてくれたじゃん。こっから近いだろ?」
「あ。うん。」
それをしっかり覚えていてくれたのが、すごく嬉しかった。
「インターホンで701って押せよ。」
「了解〜」
松山は手をひらひらと振りながら、俺に背を向けて歩いて行った。





駆け足で家に帰り、とりあえず掃除機をかけて…
お茶も飲みたいからお湯沸かしとこうか。
それから、風呂の掃除も先にしておきたいし。
あ。松山、ハブラシ持ってんのかな?コンビニで買ってくんのかな?
余分があるから買ってこなくていいって、連絡した方がいいのかな?
って!!!
「……///」
自分でもびっくりするくらい、動揺しているのがわかった。
こんなにも心が乱されることが、これまであっただろうか。
俺は深呼吸をして、ほっぺたをパチンっと叩いた。


それから、数十分経って。
「…遅い」
コンビニで何をそんなに時間がかかるってゆーんだよ!!
それとも迷ってるのか?
電話をかけた方がいいかな…と思ったところで、玄関のチャイムが鳴った。
…ん?ここの玄関???
下の玄関じゃなくて???
松山に暗証番号は教えていない。
不思議に思いながらもインターホンに出てみると、「遅くなってゴメン」と、松山の声。
とりあえず、ほっとした。
あれかな。たまたま誰か入ってきたところに、一緒に入ってきたのかな???
「おそかったじゃん。」
玄関を開けるとそこには松山… と?!!!!
「おす。」
手を挙げたのは日向さんで。隣には健ちゃんも…
「コンビニでバッタリ。」
健ちゃんが言う。
なるほどなるほど。この二人は圧力によって暗証番号を吐かされたから知ってるわ。
「お邪魔しまーす。」
松山が言いながら靴を脱ぐと、ぞろぞろと二人も後から続いてきた。
…っつか、健ちゃんが担いでいる、ものすごいデカいバッグの中身は何なんだ???
「ぅお!!!!」
いつの間にやら後ろからついてきていた人物が目に入って、思わず声が出た。
「何だい?人の顔を見て声をあげたりして。」
「みみみみ 三杉?!!いつの間に?!!」
「最初っからいただろう?」
日向さんと健ちゃんの後ろに隠れていて、全然見えなかった;;;


「コンビニでビールとつまみでも買っていこうと思ったら、3人が入ってきて」
松山はコンビニの袋から色々な物を取り出して、冷蔵庫に詰めていく。
「…なんで?日向さんと健ちゃんはわかるけど。なんで三杉???」
「さあ? 反町、鍋借りるなvvv」
「いいけど。」
キッチンのカウンター越しにリビングの方を見ると、
例のデカいバッグから何かを取り出し、組み立て始める3人が…
って?!!
「ちょっ ちょっと何?!何始まってんの?!!!」
慌ててリビングに戻る。
「流しそうめんだ。」
だ。じゃないでしょーーー!!!日向さん!!!
「外は暑いからな。」
健ちゃんがさらっと言う。いやいやいやいや。
「彼らが突然うちに電話をしてきて、流しそうめんセットはないのか?って言うんだよ。
 もちろん、あるんだけどね。」
三杉の話に、俺はようやく、なんでこの3人が一緒にいたのか理解した。
ってか、松山は気にならなかったのか?!!
どう考えても変なメンツじゃないか…

あっという間に竹製の流しそうめんセットが出来た。
松山が遅れてきた理由は
「松山ー。そうめん茹でたかー?」
そう。そうめんと麺つゆと薬味を買うために、スーパーまで足を延ばしていたから、だったわけだ。
「おう。出来たぜ。反町、器かりていいか?」
はいはい… もう好きにやってくれぃ…

最初は俺んちで何してくれてるんだ?!!って思ってたけど、実際やってみたら相当楽しくて。
良く考えてみると、俺、流しそうめん初体験だ。
三杉チョイスの薬味も超うまかったし、ビールも飲んで、夏気分を存分に味わった。
「あとは花火だな。」
健ちゃんが呟いた。
「おおいっっ 花火は絶対ダメだからな!!」
「大丈夫だ。ベランダでやる。」
「ベランダもダメだろ!!」
「これだ。」
目の前に差し出されたのは線香花火。
いやいやいやいや。線香花火だってダメだろ…
「水を張ったバケツの上なら大丈夫だろ。」
…大丈夫…だろうけどさ〜
「…もー」
俺があからさまに不機嫌な顔をすると、健ちゃんはニヤっと笑って、今度は俺に線香花火を押しつける。
「俺たちは帰る。邪魔したな。」
「え?」
健ちゃんはまたニヤっと笑って、日向さんの方を見た。
「キャプテン、帰りますよ。」
「おん?」
リビングのテーブルでまだビール片手にポテチをつまんでいる日向さんが振り向いた。
「僕も。明日は代表チームがらみの打ち合わせに出なきゃならないから。帰るよ。」
三杉はすでに帰り支度を整えている。
「ところで反町。これ、ここに置いて行っていいかい?」
「は?!!流しそうめんセットをか?!」
「近々またやろう。」
三杉が珍しく優しい笑顔を向けてきたので(三杉の笑顔は基本ビビる。)思わず頷いてしまった。

そうして、三人は帰って行った。


「松山。花火する?」
「え?ここで?」
「ベランダで。」
俺は悔しいかな健ちゃんのアドバイス通り、水を張ったバケツをベランダに出す。
ベランダ用のサンダルは一つしかないので、松山は自分の履いてきたサンダルを持ってきた。
俺はクローゼットの中に置いてあるダンボール箱の中からキャンドルを取り出し、
それに火を付けてベランダに持って行く。
「…なんか、すげーいい匂いするけど」
「アロマキャンドルだから。」
「反町、おしゃれな趣味持ってんな。」
「ぶはっ おしゃれって何だよっっ 違う違う。   景品で当たって、しまい込んであったんだ。」
昔彼女からプレゼントされました、とは言えなかった。(そういう物を花火用に使うな!って怒りそう;;)

線香花火の先に火をつける。
チリチリと、中の火薬が燃えているのが指の先に伝わる。
部屋の電気も消してしまったのでベランダは薄暗く、
じっと花火の先の火の玉を見つめる松山の横顔も見えづらい。
「あ。」
松山の火の玉が落ち、瞬間、じゅっ… とバケツの中で小さな音をたてた。
「ちぇーっ これ、火薬あんま入ってねーんじゃねーの?」
ただの紙縒りになってしまった線香花火を見ながら、松山は文句を言う。
「そんなわけないじゃん。松山がヘタクソなんだよ。」
と、言った途端に、俺のもポトンと落ちた。
「ほらみろ〜」
「じゃ、競争しようか?どっちが長くもつか。」
「おうよ。望むところだ。」
俺は松山に線香花火を渡す。
「反町、何か賭けようぜ。俺が勝ったら、冷蔵庫ん中に入ってた冷酒飲ませてv」
いやいや。別に賭けなくても飲んでいいって… 
まあ、確かに結構高いやつではあるけども。さすが松山、御目が高い。
俺は「いいよ」と答えた。
「反町は?勝ったら俺にどうして欲しい?」
「… じゃあ」
「?」
小さく息を吸って、俺は言った。
「ずっと、言いたかったことを、言わせて欲しい。」
「? なんだよ。気になる。今言えよ。」
「それじゃ賭けにならない。」
「えーーー。俺、勝っても負けても、すげー微妙な気持ちになんねえ?」
「言いだしっぺは松山だよ。」
いくよ、と、俺は花火の先を火に近付ける。松山も慌てて火を付けた。

水面に、二つの赤い玉が映っている。
この線香花火が今、俺の運命を握っていた。


(完?)



久しぶりに、反×松を書きたくなって書いてみました。
お泊まりの話を書こうと思ったのに、なんか違う方向へいってもたーーっ
終わろうか、続けようか、迷い中…


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