「おわーーーーっっ 広ぇ〜〜〜っっ」
「おい!走るなって。埃が舞うだろ。」
「わりー わりー 佐野って母ちゃんみてー。」
ひひひ、といたずらに笑って、新田は忍者みたいな足取りで広い部屋を縦断した。
俺と同じく今年から高校生だってーのに、相変わらず出会った頃の印象と変わらない。


がたがたと大げさな音を立てる雨戸を全開にすると、湿っぽかった部屋に風が通り、
太陽の光で反射した埃が全体を妙に白く見せる。
明るくなった広間は何十畳あるんだろう?
とにかくだだっ広い、その一言に尽きるといった感じで。



夏休みの一週間を使った短期合宿。
今回は普段の合宿とは違い選手同士の交流が主な目的だ。
当然、練習や試合もやるけれど、レクレーションも結構充実している(らしい)。
何より違うのは合宿場所。
いつもは宿泊機能のある研修施設で、狭い部屋に二人ずつ、
ご飯は食堂がお決まりなのだが、今回はなんとお寺。
ええと確か、日向さん達の学校の理事長の親戚がご住職で、
今は寺には住んでなくて、この時期は使わないからご厚意で貸してくれたとか、
何とか、誰か言ってた。(よくわかんないけど。)
炊事洗濯掃除、全部自分たちでやる。
部屋はこの大広間がひとつだけ。
合宿というよりは林間学校みたい。
そのせいか、みんないつもより若干緊張感に欠けるというか、
はしゃいじゃってる感が否めない。
新田は顕著だけど、俺ももちろん、ちょっと…いや、だいぶ、楽しみにしていた。
ただ…
(お寺かあ…)
うーむ。いっぱいいらっしゃるなあ。
はい。実は俺、見えるんです。その手の方々が。
さっきから忍者新田の後ろを真似しながら追いかけるお子ちゃまが三人見えてるし。
あと他にも興味本位で現れたらしき方々がちらほら。

曾祖父が霊媒師をしていた、
と母さんから聞いたことがあるのでこの体質は遺伝だと思われる。
ただ俺に関して言えば「見える」というだけで、それ以上何かしてあげることも、
何かされることもない。
もちろん、こちらが接触しなければ、という条件付きだけど。

あちこちでふわふわとこちらの様子を窺う幽霊さん達を気づかれないように
観察していると、後ろから声をかけられた。
「佐野。道具取りに行くから手伝って。」
「はい!」
嬉しくて、思わず大きな声で返事をしたら、松山さんはきょとんとして、
それから小さく笑って
「いい返事だな。」
と言ってくれた。
おっわー…
///
っつか、松山さんの笑顔、ホント、素敵過ぎデスからーーーっっ!!!
掃除道具の置いてある場所が見つからず、二人肩を並べて寺ん中うろうろしてる間中
俺はもう、なんとゆーか、ドキドキしまくりで、
少し高い位置にある松山さんの顔を何度も何度もチラ見して…
変な奴、とか、思われたかもしれない。


俺は、この(ヒト)に恋をしているのです。


変、かな?


いや、別に「恋」と「変」が似ているからではなくて。
自分の気持ちに気づいてから早二年。男が男を好きになるのは、
やっぱり変だろうか?と、一応人並みに考えてはみたものの、
まあ、好きなんだから仕方ないじゃん、と割とあっさり納得した。
俺って自分で思っている以上に自分に素直なのかもしれない。
はじめは新田の☆松山さん大好き☆病がうつったんだろうかとも思ったけど、
どうやら新田の「好き」は憧れとか尊敬とかの意味合いみたい。
それに生意気にも奴には彼女がいるみたいだし。
とりあえず新田がライバルでなくて良かったと心底思った。
色々な意味で、奴を敵に回したくはない。

「佐野はさぁ」
「はい?」
突然話しかけられたので思わず声がひっくり返りそうになった。
掃除道具を無事発見してみんなに配った後、
なんとなく流れで松山さんと玄関周りの掃除。
初日から、なんてラッキー続きなんだ。
「なんで髪の毛長いの?願かけ?」
「いえ。昔からずっとこのくらいの長さです。
母さん、女の子が欲しかったみたいで、
髪の毛切ってくれるんですけど何回切ってもこの長さにしちゃうんですよ。
で、俺も慣れたっていうか、短いと逆に気持ち悪いって言うか…」
ふうん、と言いながら、松山さんはまじまじと俺の髪を眺めた。
そして
「佐野って、顔もかわいいしさ。なんか女の子みてーだよな。」
そう言って、俺の髪を撫でた。
本当に、心臓が飛び出るかと思った…。

松山さんはみんなに好かれている。
先輩にも後輩にも同年代にも。
サッカーもそれ以外にもいつも真面目で一生懸命で。
優しくて時々厳しくて。
しっかりしていると思わせておいて、結構子供っぽかったり。
そんな性格も、性格のままにくるくる変わる表情も、どれもこれも魅力的。


だから。

だからわかるんだよ。わかるんだけどさ…

(おっさん誰よ…?)

合宿が始まって数日。いつの間にかいたこのおっさん。
角刈り頭の。
好きで着てるのか、職業柄なのかよくわかんないけど和装。
俺の目線よりだいぶ高い位置でふわふわ浮いてる。
で、いつも松山さんのこと追いかけてんの。
今も紅白試合中の松山さんを、
ベンチに並んで座る俺たちと一緒に並んで応援している。
俺は勝手におっさんを「寿し職人のおっさん」と命名した。

最初は松山さんの身内の人なのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
いつもちょっと離れた位置にいて、嬉しそうな顔で松山さんのこと見てる。
見守っているというよりはむしろ追っかけファン。
(でも風呂には現れないから偉いな。)
寿し職人のおっさんは、
俺が寿し職人のおっさんに気づいているってことは知らない。
気付かせないように、こっちが気をつけているからだ。
小学生の頃に一度、迷子になった不安のあまりお姉さんの霊に話しかけてしまい、
その後「好きなアイドルにバレンタインチョコを渡してくれ」だの
「握手会に参加しろ」だの酷い目にあってから、
絶対気づかれないようにしているのだ。



一週間は本当にあっという間に過ぎ去って。
残すは明日一日だけとなった今夜、
レクレーション担当いわくの「メインイベント」が行われた。



「はい、じゃー、順番にくじひいちゃって〜」
ありえない笑顔でそう言ったのは、
自ら率先してレクレーション担当を務める反町さんだ。
…嬉しそうだな、反町さん。
そう、「メインイベント」とは、夏の風物詩(?)「肝試し」。
ええ。夜に、寺で、墓で。
普段は怖いもの知らずの先輩方の面々も、さすがに少々こわばっている様子…
と思いきや、翼さんや三杉さんあたりは全くそんな感じはなし。
日向さんと若島津さんに至っては
当然というよりはむしろ若干めんどくせぇっくらいの勢いだし。
(あとで反町さんしめられたりしないだろうか…心配だ。)
二人一組で懐中電灯ひとつ持って、お墓の中を歩くこと数百メートル、
祠においてある飴を持って帰ってくるというシンプルな肝試しだけど、
この古寺はいかんせん雰囲気出すぎだよなぁ。
興味津々の幽霊さんがすでにいっぱい集まっちゃってますよ〜。

全員のくじ引きが終って、着々と二人組が出来ていく。
「5番の人〜」
反町さんの声に手を挙げたのは…
「げっ!!」
と、言ったのは松山さんで
「う。」
と言ったのは日向さんだった。
…っつか、またこの二人かよ。
仲いいんだか悪いんだかよくわかんないけど、喧嘩するくせに部屋一緒だったり、
バスでいつの間にやら隣同士で座ってたりするんだよなぁ。
って、俺、完全にヤキモチだな、コレ…。
「8番の人〜 あと一人誰??」
あ、俺だ!慌てて手を挙げる。もう一人は
「佐野か。」
三杉さんだった。心強いな〜とか思ってたら
「じゃあ、僕と松山が交代しよう。」
「へ?」
そう言って三杉さんは日向さんの方へ行ってしまい、
代わりに松山さんが俺の隣にきた。
「だ、そうだ。よろしく佐野。」
「あ、は、はい。」
「俺と日向だと墓石を破壊しそうだからって… 
お、このオヤジギャグいけてねえか?」

…墓石を破壊しそう… うまいかも。
ふふふ、と笑って松山さんの顔を見たら、
後ろで寿し職人のおっさんが腹かかえて大爆笑してやがった。

なにはともあれ
神様ありがとう!!!あ、寺だから仏様か!!
どっちでもいいや。
とにかく感謝しますっっ



「続いて松山&佐野チーム。いってらっしゃい!!」
相変わらずありえない笑顔の反町さんに送り出されて、
俺と松山さんは出発した。
懐中電灯は松山さんが持っている。
墓と墓の間の狭い通路をひたすら歩く。
俺も松山さんもTシャツ短パンサンダル姿。
あまり手入れの行き届いていない墓地は藪蚊も多そうで、
いくら虫よけスプレーしてきたからと言っても、
下ぐらいは長ズボンにしてくるんだったと後悔した。

「佐野、こういうの苦手?」
「そう、ですね。あんまり…」
普段から見えてるんだったら今更恐いも何もないだろ!
というツッコミも入りそうだが、見える分、
こういう処で本気で恐いものが見えちゃったらマジ嫌だし。
それ以前にだいたい、さっきから悲鳴が聞こえたり、
反町さんに「バカヤローっっ」と蹴りを入れている先輩方を見ていると、
たぶん何かあるということは予測がつく。
予測はつくけど、いつどの時点で何があるか分からないから、
それについても恐いと言えば恐い…。
「松山さんは平気ですか?」
「俺平気。霊感とか一切ねえし。」
懐中電灯をくるくる回しながら、本当に余裕そうな顔でそう言った。
そんな松山さんの横顔を眺めながら俺はふと思い立った。
…ちょっと待て。
これはチャンスなんじゃないだろうか?

「松山さん!」
「ん?」
「手、繋いでもらっても、いい、でしょうか…?」
思い切って言ってみた。
本当に、思い切ったな俺…。
言ってから急に恥ずかしくなって、俺は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「いいよ。」
「え?!」
「ほら。」
差し出された、松山さんの、手。
ゆっくりと自分の手を重ねると、ぎゅっと握られて、
まるで「大丈夫」というように笑顔を見せてくれた。

(ぎゃああああああああっっ///

心の叫び声デス…。
だいぶ恥ずかしかったけど、言ってみるもんだなあ。
ふいに視線を感じたと思ったら、寿し職人のおっさんだった。
悪いな、おっさん。




無事祠を発見し飴をひとつ掴んで、来た道をまた戻り始めた。
その間もずっと手は繋いだまま。
松山さんの手はあったかくて優しくて。
その掌から伝わってくる体温を、もっとたくさん、たくさん、
感じることが出来たらいいのに、と願ってしまう。
そんなの無理に決まってる。
それは分かっているけど…

「…松山さん」
「うん?」
「あの…」
俺は、何を言おうとしているんだろう?
頭よりも先に口が動いていた。
こんな機会、滅多にない。
最初で最後かもしれない。
そう思うと、今ここで、伝えなくちゃいけないような気がして…
「なに?」
「俺、松山さんのこと、ずっと」
松山さんの向こう側にいる寿し職人のおっさんが、
何か言いたげにじっとこちらを見ている。
「ずっと、何?」
繋いだ手をぎゅっと握りしめ、俺は勇気を振り絞った。
「ずっと、す」
「ばあああああああああああああ」
「ぎゃ!」
ドスっっ!!!

…ドスっ????




「ひでーよ松山… いててて」
「わ、わりぃ。つい…」
うずくまる石崎さんのお腹をさする松山さん。
とりあえずの無事を確認して、俺たちは少し先のゴールに早足で向かった。
(これだったのか。あの悲鳴の数々は…)

その時何が起こったか?

俺が勇気を振り絞って、松山さんに告白しようとしたまさにその時、
墓石の陰から白いシーツを被った石崎さんが「ばああああああ」と飛び出してきた。
びっくりした俺は思わず「ぎゃ!」とマヌケな声をあげて尻もちをついてしまった。
同時に「ドスっっ!!」というような鈍い音が…
見れば痛々しそうに腹を抱えてうずくまる石崎さんの姿。
どうやらほぼ反射的に、松山さんは利き足で(酷)蹴りを入れた、らしい。
護身術でも習ってるんですか?松山さん…
これだから日向さんと喧嘩になるんですね…。


結局、俺の愛の告白は未遂に終わってしまった。
残念だったような、少しほっとしたような…。


あの時、石崎さんが出てこなかったらどんな結末になっていただろう?
やっぱり困らせてしまっただろうか?
それとも…?
考えても仕方ないけど、もう、こんな機会もそうそうないだろうと思うと、
うう〜… 石崎さんめ… いや、反町さんか?

ボスンっっ

いきなり目の前が真っ白になったと思ったら
「佐野!なーにたそがれちゃってんだ?」
枕をぶつけてきたのは新田だった。
「っせーな。考え事してたんだよっ」
思いっきり投げ返したのに、ナイスキャッチされてしまった。
「っしゃー!!」
で、また投げ返されて
「おりゃーーーーっっ」
投げ返して
「わーい 俺も入れて〜」
翼さんが加わって
「誰や枕ぶつけたん!!」
早田さんが切れて…
そして大枕投げ大会が始まりました。
(当然最終的には三杉さんに怒られて終了した。)


肝試し→枕投げ大会 と、夏の風物詩を存分に楽しんで、
疲れ果てたのかみんな早々に寝に入ってしまった。

大広間に布団を敷きつめて寝るのも今日が最後。
結構楽しかったなあ…。
なかなか寝付けなくて隣に寝ている先輩とコソコソ喋ってみたり、
鼾がやかましい先輩の鼻を摘まんでみたり、
朝は三杉さんの中華鍋目覚ましで叩き起こされてみたり。
(本当にガンガン煩いんだよな。アレ。)
合宿所では味わえない醍醐味がいっぱいで。
いつも隣に寝る人が違うってゆーのも新鮮だった。
鼾のひどい人が隣にくるとつらいけど。


トイレから戻ってきたらすでに豆電だけにされていて、
さっきまで自分が確保していた寝床もどこだかわからなくなってしまった。
うーん。
どうしよう。
適当に空いてる所に寝るしかないか。
あんまり歩きまわって日向さんあたりの顔なんか踏んだ日には恐ろしい目を見るので
俺は近場で寝るスペースを探した。
うまいこと布団に潜り込んだつもりが思いのほか狭かった…。
誰だかわかんないけど余計狭くしちゃってごめんなさい。

さて明日も早いし寝ようかな、
と思ったその時、Tシャツの肩のあたりをクイクイ引っ張られた。
狭い!って文句言われるのかと覚悟して振り返ると

「…佐野?」
小さい声で俺の名前を呼んだのは松山さんで。
「は、はい。」
ち、近い…。
肝試しで手を繋いでもらった時は、もっともっと体温を感じたいなんて思ったけど、
いきなりこんなに近くで…息もかかりそうなくらい近くで、
俺は松山さんに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいにドキドキしてしまった。
「ご、ごめんなさい。狭、かった、ですよね?」
振り絞った声は自分でもわかるほど震えていた。
「ううん。」
薄暗がりの中、松山さんの目が俺を見ていた。
吸い込まれてしまいそうに黒くて大きな瞳。
思わず視線を下に逸らすと、今度はきれいに浮き出た鎖骨が目に入って、
余計恥ずかしくなってしまった。

「佐野」
もう一度、小さな声で松山さんが俺の名前を呼んだ。

そして


「っ…///
とんでもない出来事に思わず声をあげそうになった俺の唇の上に人差し指をすっと乗せ
「…おやすみ」
と、松山さんは言った。
え?え?

(えええええええええええ?!!)

いいいいい、いまのわっ 今のはなんなんですか?!!松山さん!!

すぐに背を向けてしまった松山さんの肩甲骨のあたりを見つめる。

重ねられた唇は、温かくて、柔らかくて。

たまらなく甘いファーストキス…



もう何がなんだかわけわからなくなって天井を仰ぎ見た瞬間、
(ぎゃあ!!!!)
目に入ったのは寿し職人のおっさんのどアップ。
危うく叫び声を上げそうになった。
いくらなんでも近いっておっさん…。
おっさんはしばらくじーっと俺の顔を見て、
なぜか親指をぐっとたててにんまり笑うと消えてしまった。

(…な、なんだったんだ??)
俺は当然、その夜は一睡もできなかった。

結局、翌日は松山さんとあいさつ以外交わすことなく帰路についた。


寿し職人のおっさんは、あれから一度も現れない。
お寺を去る時、新田にひっついていた子供らが寂しそうに見送ってくれた。
きっとあの寺からは離れられないんだろう。
色々なことを抱えたまま、俺は残りの夏休みを地元で過ごした。




夏休みも残りあとわずかな頃。
母さんが戸棚の整理をしていた。
居間でだらだらと宿題をこなしていたが目途も立ったので、
積み上げられたアルバムをひとつ机の上に広げた。
それは随分と古いものだったらしく、中はモノクロ写真ばかりが並んでいる。

「…あれ?」
目に入ったのは
「寿し職人?!!」
「え?」
思わず大声を出すと、母さんは訝しげな顔で横から覗き込んできた。
「うちの家系に寿し屋なんかいないでしょ。」
「あ、いや、違うんだ。この人って」
「ああ。お爺ちゃん。」
「?!お爺ちゃんて、母さんの?!」
「そう。だからあんたのひいお爺さん。ほら、霊媒師だった。」
おかげであたしもあんたも霊感体質、と迷惑そううな顔をして、
母さんは戸棚の整理に戻った。

あれは、ひいお爺さんだったのか。
じゃあ、俺のことを見守って??
その割には松山さんにやたらつきまとっていたけど…
(血は争えないってやつか??)


「ちょっと。電話出てくれない?」

カウンターにおいてある子機が鳴っていた。
思わず古めかしい写真に見入ってしまって全然気がつかなかったぜ…。
慌てて子機を掴んで通話ボタンを押す。

「はい、佐野です。」
「もしもし?あの…俺、ふらの高校の松山と言いますが」
「…松山、さん?」
「…佐野か?」
その声は妙に懐かしく耳に届いた。
聞きたいことも言いたいこともたくさんあったはずなのに、
いっぺんに頭が真っ白になってしまった。

「佐野?」
「あ、は、はい。すみません。」
「今たぶん近くなんだけど」
「え?」
「お前んちどこ?」
「……」

は?????

相変わらずとんでもなく突拍子のないことをしてくれる大好きな大好きな先輩に、
完全にノックアウトです。



「どこ行くの?」
「ちょっとそこまで!」
サンダルを足先にひっかけて、俺は猛ダッシュで玄関を飛び出した。
庭先に植えてある向日葵の大輪の花の向こう側に、久しぶりの顔があった。
寿し職人のおっさん改めひいお爺さんだ。

微笑みかけるひいお爺さんに、俺は笑顔でぐっと親指を立てた。


(完)


イラスト:タカムラケイコ様 (いつもありがとう!!!)



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