「よお!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
Tシャツ、短パン、ビーサン・・・はいいとして、浮き輪を腰につけ水中眼鏡を額に装着し、
この上ない笑顔で手をあげたのは他でもない、北の荒鷲 松山光である。
「・・・・・なんでてめえがここにいるんだよ・・・。」
そして大変不機嫌なお顔でそう言い放ったのは他でもない、猛虎 日向小次郎である。
「なんだ?俺がいちゃいけねえか?」
「いけねえとかそういう事じゃなくて、なんでいるんだって聞いてんだ。」
「泳ぎたいからだ。」
「・・・・・・・・・・・・」
はあ・・・と、大きくため息をつく日向。
いつもなら「バカか、てめえは!!」と、更に怒鳴るところなんだが、なんとゆーか・・・
この松山のマヌケな格好と笑顔に、すっかりそんな気も失くしてしまった。
日向、若島津、反町の3名は、朝も早よから電車をいくつか乗り継いでようやく最寄の駅にたどり着いた。
そこで待ち合わせしていたのは今回の計画の提案者である三杉・・・のはずが
このトンチンカンな松山が待っていたのである。
とにかくご機嫌でお出迎えした松山は三杉家の黒塗りの外車(運転手つき)に3人を乗せ、
すでに三杉が待っているというビーチへと向かった。
それにしても松山はもちろん、他の三人もTシャツ短パンかTシャツGパンにサンダル姿。
そんな中学生4人が明らかに似つかわしくない外車に次々と乗り込んで行ったから
駅では観光客の目を集めまくっていたことは言うまでもない。
「ビーチって、もしかして三杉んちのプライベートビーチとか?!」
窓を全開にし、爽やかな潮風に吹かれながら反町が尋ねる。
我が物顔で助手席に陣取る松山が、バックミラー越しに答えた。
「いや、そういうわけじゃないみたいけど、別荘のすぐ近くでかなりな穴場なんだぜっっ」
「って、松山、いつから来てるのさ?」
「おととい。」
「え?あ、そうだったんだ。」
「昨日まで南葛の奴らもいたんだけど帰っちゃった。」
えー、じゃあ俺ら南葛の奴らの代わりかよーっっ と反町は笑って言うが、
反対側の窓を同じく全開にし風に吹かれる日向は明らかに面白くなさそうな顔をしている。
「日向さん、不機嫌ですね。」
若島津が小声で言う。
「べっつに。」
「松山が浮かれているのが気に入りません?」
「・・・・・・」
横目でちらりと睨んで、ふん、と鼻を鳴らすと窓の外に目線を移してしまう。
若島津は気づかれない程度に思わずにやけてしまった。
「やあ。早かったね。」
ビーチで待っていた三杉は、水着に白いパーカーを羽織り、中坊のくせにサングラスをかけていた。
カラフルなパラソルの下には大きなクーラーボックスにバーベキューセット。
なんとも豪華である。
ビーチの砂はきめ細かく、海の水も青々としていた。
周りは岩や木々に囲まれ、わずかに緑の隙間から三杉家の別荘と思われる赤い屋根が見え隠れするだけで
他に人工物は見当たらなかった。
「おわーっ すっげーvvv」
反町がうきうきで大声をあげる。
「反町、早く泳ごうぜ!!」
短パンの下にすでに水着を履いていた松山は、いつの間にやら水着姿で海に向かって走り出している。
「松山!準備運動!!」
「はいはい。」
三杉の声にやったんだかやらないんだかわからない程度の体操をして、早々に松山は海に飛び込んでいった。
「誰も来ないから隠さずに着替えちゃっていいよ。」
「そんじゃ、遠慮なく〜☆」
反町もわさわさと豪快に着替え、松山の後を追う。
そんな二人の後姿を保護者のような目で見つめていた三杉を見て、
もしかして・・・と少々心配になった若島津が、若干言葉を選びながら尋ねた。
「三杉・・・もしかして入れないのか?」
「いや、入れるけど、あまり日焼けしたくないだけ。」
紫外線はお肌の天敵だからね、とサングラスを直しながら淳様は答えた。
そんだけかい・・・と、ツッコむ元気もなく、ふと横を見れば、
断りもなくクーラーボックスからコーラを取り出し、断りもなく肉を焼き始めるキャプテンの姿があった。
夕方近く、ようやく日差しも弱まりつつある頃。
海はなぜか無駄に体力を奪う。
それでなくても貸しきり状態のビーチで爽やかな風を感じながら、オイシイもんたらふく食ったら眠くなるのは当然で。
泳ぐのに飽きて岩場でヤドカリ探しに夢中の松山を放っておいて、他の4人はパラソルの下で昼寝をしていた。
「ひゅーがっ」
名前を呼ばれ、うっすらと目を開ける。
そこには肩にスポーツタオルをかけた松山が立っていて、こちらを覗き込んでいた。
「ひゅーがっ」
「・・・んだよ・・・」
「起きろよ。」
「まだ眠ぃ。寝かせろ。」
他3人が椅子に座ってうとうとしている中、日向は砂浜に敷いたシートの上に横になって本寝していた。
せっかく気持ちよく寝ていたというのに、再び夢の中に戻ろうとする日向の肩をつかんで、
松山はゆっさゆっさと身体を揺さぶって無理やり起こそうとする。
「てめぇ・・・」
「いいから、ちょっと起きて来いってば。」
「・・・・・」
松山をブン殴ってまた眠りに戻りたい衝動を抑え、仕方なく日向は身体を起こす。
ヤドカリ10匹つっかまえたーvvとか言ったら海に沈める・・・と思いながら
やけに嬉しそうな松山に手を引かれ、連れられるままに砂浜を走った。
「おい、どこまで行く気だ?!」
「もうちょっとー」
いくつかの岩場を越え、先ほどのビーチからはだいぶ遠のいたような気がする・・・
訳もわからず松山に付いてきてしまったことを日向は今更後悔してきた。
いい加減戻るぞ、と言おうとしたところで、ようやく松山の足が止まった。
「見ろよ。」
「・・・・・」
思わず日向は息を呑んだ。
それは不思議な光景だった。
少し離れたところに小さな島があって、海の中に人工物ではない一本の道が出来ている。
歩いてその島まで渡れるようだ。
「あれ、無人島かな?」
松山が振り返って言った。
「そりゃそうだろう。あんな小さい島に人が住むわけねえ。」
「な、日向、行ってみたくないか?」
好奇心でいっぱいという松山の顔。
日向は返事をしなかったが、松山は当然日向も来るだろうと言わんばかりにどんどんと歩き出した。
「なんか、海の上を歩いてるみてえだな!!」
嬉しそうに松山が言った。
「な、無人島に何があると思う?」
「何もねぇだろ。無人島なんだからよ。」
「なんだよ日向。お前ホント夢がないな。」
そんな憎まれ口を叩きながらも、やっぱり松山は嬉しそうである。
つられて日向の足取りも軽くなった。
「じゃあ、竜宮城。」
「竜宮城は海の中だろー」
「鬼の館。」
「浦島のあとは桃太郎かよ!!」
そんなくだらないやり取りをしているうちに、二人は島に辿り着いた。
砂浜はなく、砂利の浜辺が続いている。
しばらく歩くと岩場の間に道のようなものがあった。
「無人島じゃなかったのかな。」
まったく何の迷いも見せず、松山は道を進んで行く。
「無人島だけど、こうやって歩いて渡れるくらいだから人は入ってんだろ。」
後ろを行く日向が冷静に答えた。
道は上り坂になっていて、島の一番高いところまで続いているようだった。
上に行くほど緑が鬱蒼と生い茂るようになり、やがて木々の間に何かを見つける。
「あ、なんかある。」
「・・・鳥居か。」
「祠もある。」
二人は古い木製の鳥居をくぐり、少しだけ拓けたところにある祠の前に立った。
祠は石でできていて、海風のせいか少し風化している。
「すっげー古そう。」
「松山、触るなよ。祟られるぞ。」
「日向ってそーゆーとこ変に律儀だよな。」
松山はパンパンと手を打って、祠に向かって頭を下げた。
「東邦に勝てますように。」
「・・・・・・・・そうきたか。」
日向も松山と同じように手を打って頭を下げる。
「南葛に勝てますように。」
「ふらのって言え!!!」
しばらく島を探検してみたが、他には何も見当たらなかった。
「あー、綺麗な夕焼け・・・」
松山が赤く染まりつつある海を見てつぶやく。
「日が落ちる前に戻ろうぜ。」
今度は日向が先に立って歩き出した。
しばらくして二人は最初に来た浜辺に戻ってきた。
・・・・・そして
「え・・・」
愕然とした。
「何で・・・?確かにここだよな・・・」
あったはずの道が、無くなっていたのだ。
松山は辺りをきょろきょろと見渡す。
しかし何度見ても道はなく、何度見てもやはりこの場所しかなかった。
「・・・もしかして、潮が満ちて海に沈んだんじゃねえか?」
腕を組んで、慌てふためく松山を眺めがなら日向が言った。
「えええ?!!」
「他にねえだろ。」
「・・・・ご、ごめん、日向ぁ・・・・・俺、そんなこと思いつきもしなかった・・・。」
先ほどまで元気全開だった松山の顔が一気に曇る。
叱られた子供のように目に涙が溜まっていくのがわかった。
まったく、なんだかなあ・・・と思いながら、日向はため息をついた。
「ごめん、俺のせいで日向まで・・・」
「別に、干潮になりゃまた道できんだろーがよ。」
「そうだけど・・・」
「それまで待ってりゃいいだろ。」
日向はどすんと腰を下ろした。
「みんな、心配してるかな・・・」
「さしときゃいい。」
ためらいがちに松山も日向の隣に腰を下ろす。
夕日が、海を真っ赤に染めていた。
キラキラと反射する海面を見ていたら、なんだか不思議と落ち着いてくる。
「お前、変なときに頼りになんのな。」
「てめーがうろたえ過ぎなんだよ。」
「・・・なんか急に眠くなってきた。」
「昼寝しねえで遊び倒してたからだろ。」
「ちょっとだけ寝てもいい?」
「勝手にしろ。」
松山はころりと横になって、いくらもしないうちに眠りに落ちてしまった。
(裏館へ続く。)
続きは裏館です。ごめんなさい・・・
や、最初から裏館に置いても良かったんですけども。
中学生の設定で裏館・・・。ははは。
産休前に全部書ききれなかったらマジですみません!!!
どうしても書いてみたかった無人島。
よ●こ浜口さんの黄金●説参照。(笑)