「うおーいっ 松山こっちこっち〜!!!」
加藤がブンブンと手を振っているのが見えた。
俺も軽く手を上げ、調理場から顔を覗かせた大将に「お久しぶりです。」と挨拶をすると
店の奥へと進んで行った。
奥の座敷席にはいつものメンツが顔を並べている。
年末恒例の忘年会だけは基本優先事項で、俺もこの日には必ず北海道へ帰るようにしていた。
「おっそいぞ、松山っ」
「わりぃ小田。姉ちゃんに車出せって頼まれちゃってさ」
靴を脱いで、すでにぎゅうぎゅうな靴箱に押し込む。
「日向ももう来てるぜ?」
「おお。そっかそっか。ごめんな日向待たせちまっ」
て?
…ん????
今、日向っつったか???
「…日向????」
「日向だろ。」
そう言って小田が指さした方向を見ると…
ぎゃーーーーーーーっっっ!!!
「おう。おせーぞ松山。」
焼き鳥片手にみんなの輪の中にいたのは確かに日向…
え?え?なんで???なんで???全然意味わかんねーんだけど!!!!
「?松山が連れてきたんじゃないの?」
小田の言葉に俺は首が取れそうなほど横に振った。
「なんでいるんだ?!!」
「いやいや、それはこっちが聞きたいから松山。」
っつか、本人に聞けば?と小田に押され、みんなの力で日向の隣に座らされてしまった。
…お前ら… こんな時まで心1つにならなくてもいいんだぞ…?チームふらの。
「遅いぞ。」
「黙れっ てめー何しにきやがった!!」
「何って、忘年会。」
「ふざけんな!!何でてめーが俺の忘年会に顔を出すんだって聞いてんだ!!」
気がつけば周りのみんながニヤニヤしながらこっちを見ている。
これが噂の…とか言うな!!
面白がってる場合じゃねえっての!!!
「ちょうど休みがお前とかぶったから、だな。」
「っつか、なんで俺の忘年会の予定を把握して…」
「なんでって、そらお前、カレンダーにでっかく『忘年会!!』って…
時間と店と店の電話番号まで、きっちり書いてただろ?」
「?!!/// ばっ… だっ だからってっ そのっ…」
自分の顔が、一気に熱くなるのがわかった…
ああああああああああ//////
そら、俺たちは、その… 東京で一緒に住んでるけどっっ
それは、そーゆーことわっ みんなにはもちろん全然 話してないことであるからして だなっっ
「え?日向、松山の家とか行くんだ。」
「というか、一緒に住んでるからな。」
さらっと答える日向…
ぎゃあああああああ!!!!!!!!
「いや!それは、その…///」
「あれだ。ルームシェアってやつ。チームは違うが同じ関東だしな。」
へえ…と納得するチームふらの。
良かった… みんなとっても素直な子たちで!!
ついでに関東地方のことをよくわかってなくて!!!
「お前ら、なんだかんだ言ってもやっぱり仲いいんだな。」
金田がやけに納得したように言った。
「そ、そ、そうなんだ!俺たち、実は仲良しなんだ!」
ははは、と乾いた笑いを漏らすと、日向はわざとらしく俺の肩を抱いてきて
「喧嘩するほど仲がいいと言う見本みたいなものだからな。」
「っ… だ、だよな!!」
にやーーーーーっと笑う日向に、俺は後で覚えてやがれ…と睨みをきかせた。
二次会のカラオケに移動したが、もちろん日向もついてきた。
なんだかんだで日向は楽しそうで、一方俺はすんげーやりづらくって。
「松山。」
「小田…」
「なんかおとなしーじゃん。いつもはもっと飲むくせに。」
便所で手を洗っていたら小田が入ってきた。
「飲みたいけどさ〜 なんかアイツがいると…」
「ふーん。そんなもん?ハメはずすとこ見られたくないみたいな??」
「…どうかな。そうかも。」
水を流す音が聞こえて、小田は笑いながらこちらに歩いてきた。
それから手を洗って
「あ。俺ハンカチ忘れた。」
「ほい。」
持っていたハンカチを差し出したら思わぬツッコミが入った。
「…ちゃんとアイロンかかってんじゃん。」
「え?」
「これって松山じゃないだろ。日向?」
にやにや笑いながらハンカチを返される。
…う…、鋭い;;;
「本当に仲いいんだな。」
日向オカンみて〜 と言いながら、小田はドアを開けた。
部屋に戻ると、ちょうど日向が歌うところだった。
…っつか、俺、日向の歌声なんか聞いたことねえなあ…
何歌うんだろ??と思っていたら
「日向意外なもん歌うな!!!!」
「妹が大ファンなんだ。」
全員から総ツッコミを受けていたのは、某超人気アイドルグループの歌。
1オクターブ低い音で歌ってるし!!
しかも結構上手いし!!!
伝えたくて伝わらなくて 時には素直になれずに
泣いた季節を超えた僕らは 今とても輝いてるよ
それぞれ描く幸せのカタチは重なり 今大きな愛になる
ずっと二人で生きて行こう
百年先も愛を誓うよ 君は僕のすべてさ
信じている ただ信じてる 同じトキを刻む人へ
どんな君もどんな僕でも ひとつひとつが愛しい
君がいれば何もいらない きっと幸せにするから
間奏で、日向がこっちを見て微笑んだ気がした…
…ば… ばっかじゃねえの…///
雨の中で君を待ってた 優しさの意味さえ知らず
すれ違いに傷ついた夜 それでもここまで来たんだ
かけがえのない出会いは奇跡をつないでく 思い出重なり合う
始まりの歌 鳴り響いて
どんなときも支えてくれた 笑い泣いた仲間へ
心こめてただひとつだけ贈る言葉はありがとう
百年先も 愛を誓うよ 君は僕のすべてさ
愛してる ただ愛してる 同じ明日約束しよう
世界中にただ一人だけ 僕はきみを選んだ
君といればどんな未来もずっと
輝いているから
「いい歌だったろ?」
帰り道、隣を歩く日向が言った。
「お前が歌うアイドルのラブソングほど気味の悪いもんはねえよっっ」
「松山は歌い方が豪快だな。」
「悪かったな、へたくそで…」
「そんなことは言ってない。」
なんだかむず痒くて、俺は日向の顔を見れないまま夜道を歩き続けた。
「…日向、今晩泊るところは?」
「松山を家まで送り届けてから考える。」
「……別に、うち泊ってもいいけど。」
勇気を出して言ってみたら、日向は笑って
「嬉しいが、ただでさえ勝手に来たんだから、これ以上は世話をかけられない。」
いきなり押しかけたら、お前は良くても家族に悪いだろ、と今更なことを言ってきやがった。
「……んじゃあ、俺も家帰るの明日でいいよ。」
「え?」
「あの、え、駅の南側とか行けば… あるから。」
ラブホとか… と言ったら、いきなり日向がばっとこっちを見て
「マジか?」
「…俺の地元なのに、放って帰るわけには行かないだろ。」
言った後に、日向と一緒にラブホ入るとことか出るとことか、誰かに見られたらホント終わりだ…
と後悔したのも確かなんだけど。
でも日向の方はすっかりその気で、たまには家じゃないとこもいい♪とか盛り上がってるし。
「ところで、お前、なんで来たの?」
「………」
冷たい風がひゅうっと吹き抜けて、俺は肩をすくめた。
日向は俺の肩を抱き寄せ、耳元で言った。
「そらお前。愛する人の生まれ育った街くらい来ておかないとだろ?」
「っ… /// な、なに言ってやがる!!」
「だから明日、お前のご両親にご挨拶に行かせてく」
「お断りします。」
冗談だ、と言って日向は笑った。
「百年先も愛を誓うよ〜♪」
「大声出すな!!!酔っ払い!!!」
誰かに見られるかもしれない…と思ったけど、
俺は日向と手を繋いで歩いた。
百年先も愛を誓うよ 君は僕のすべてさ
信じている ただ信じてる 同じトキを刻む人へ…
(完)
|