*こちらは『想 −おもい−』『想 −1年後−』の続きのお話です。


「あ。」
「あ…」

日向と、二年連続誕生日デートをした。
それで、キスまで、した。
俺は…
俺は、パニくってその場から逃げ出し、大泣きして…

翌日、日向と顔を合わせたのは部室。
昨夜からずっとずーーーーっと、次日向に会ったらどんな顔をしたらいいだろうとか
何を言ったらいいだろうとか、とにかく色々と考えまくったけど、答えは出なかった。
「…おす」
「おう」
目線を合わせられないまま日向と挨拶を交わす。
奴とはロッカーが隣だ。
二人して黙って自分のロッカーを開ける。
練習着に着替え始めてしばらくしてから、日向が小さい声で俺に話しかけてきた。
「昨日… 悪かったな」
「…え」
「あんなこと するつもりなかったんだが」
「……」
「ごめん。」
そう言うとロッカーを閉め、部室を出て行ってしまった。
「………」
(あんなことするつもりなかったって…)
じゃあ、どういうつもりで、俺にキスなんかしたんだよ…
「松山」
呼ばれて振り向くと、そこには反町が立っていた。
「日向さんと話してたみたいだけど…何か言ってたの?」
「ごめんって。あんなことするつもりなかったって。」
「……そう」
反町は小さくため息をついて、苦笑いして。
それから俺の肩をぽんぽん、と叩く。
「あんまり気にするなよ。まっつんが普段通りにしてれば、日向さんも気にしなくなるよ。」
「…うん」


反町の言うとおり、俺はいつもと変わらない態度で日向に接するように心がけた。
日向にもそれが伝わったのか、これまでと変わらず接してくれる。
でも…
どこか、ぎくしゃくしている。
俺も、多分日向も。
まるで魚の小骨が喉にひっかかってるみたいに、それが気持ち悪い。

『あんなこと するつもりなかった』

時々思い出す奴の言葉に、俺の胸はチクリと痛んだ。
それは、不本意だった望んだことじゃなかったって、そういう事なんだろう。
分かってる… 分かってるけど…
「……っ」
あの時の繋がれた手のぬくもりや、重ねた唇の感触が、まだ忘れられない。



***************************************



ーーーー あれからまた1年が経った。

「まーつやまっ」
学校のテラスでぼけっとしていたら、反町が隣に座ってきた。
今日は天気がいい。
ここんとこ雨続きだったから、外の風がすごく気持ち良く感じる。
「え〜 今年も松山君のお誕生日の時期がやってまいりました〜」
「……」
思わず訝しげな視線を向けたら、反町が笑って言った。
「今年は余計な真似はしないよ。ちゃんと、普通のプレゼントあげる。何がいい?」
俺が日向に恋心を抱いているということを唯一知っているこの男は、
二年連続で俺に『日向とのデート』をプレゼントしてくれた。
正直、初めのうちは余計なお節介だと思っていたけど…
でも、おかげで俺は日向との距離がすごく縮んだし、
しかも、ついにはキスまでしてしまったわけで。
それが、良かったのか悪かったのかは分からないままだけど。
「反町」
「ん?」
「俺、ずっと考えてたんだ。」
「…?」
「自分の気持ちを知られて嫌われるのが恐かったけど、
 日向と二人で映画観たり、飯食ったり出来たの、やっぱり楽しくて、嬉しくて。
 最初の頃より、もっとずっと、あいつのこと好きになってる…
 自分でも止められないくらいに。」
日向にはもちろん、他の誰にも知られることなく、自分の中だけで終わらせようと思っていた恋。
でも今は、この『想い』を、もっと大切にしたいと思う。
大切に、しなくちゃいけないと思う。
朽ち果てるのを待つんじゃなくて、ちゃんと、花を咲かせてやりたい。
ーーー散ってしまっても 構わないから…
「だから… 言うよ。俺、日向に。」
「まっつん…」
自分の気持ちを大切にしたいだなんて、ただの自己満足なのかもしれないけど。
日向にとっては、ただの迷惑かもしれないけど。
「…松山。俺、ノリで告白しろよ、なんて言っちゃったけどさ…
 場合によっちゃ、友達ですらいられなくなるかもしれないんだよ?」
「うん」
「それでも?」
俺は大きく頷いた。
反町は視線を逸らし、しばらく考える様子を見せたが、再び俺の顔を見た。
「分かった。そこまで決めてるんだったら、頑張って告白しろよ。」
応援してるからさ、と微笑んで、反町は俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「よーーーーっしっ じゃあ、今年の誕生日プレゼントは、
 まっつんがうまくいったら祝賀会、フラれちったら激励会のカラオケにしよ〜っ」
ね!と親指を立てたので、俺も応えるように、ぐっと親指を立てる。
青空が、より眩しく輝いて見えた。






それから数日後、部活のない日の夕暮れ時、俺は学校近くの公園に来ていた。
17時のチャイムと共に小学生は家に帰ったんだろう、他には誰もいなかった。
横たわった土管みたいな遊具の上によじ昇って、そこに腰を下ろす。
一年前、俺と日向がキスをした、想い出の遊具。
あの日はスコールみたいな雨が降って、雨宿りをしにここに来て。
「……」
繋いだ手とキスの感触を思い出し、俺の心臓はまたドキドキした。
「松山」
声がした方に振り向くと、ジャージ姿の日向がこちらに向かって歩いて来るのが目に入った。
日向は軽々と土管の上に昇り、俺の横に腰を下ろす。
「おう。」
「よう。」
「…どうした?話って何だ?」
少しばかり警戒しているような、様子を窺っているような日向の声色。
そりゃそーだ。
いきなりメールで「話があるから公園に来てくれ」なんて、気味悪過ぎだろう。
もしかしたら、ある程度は気付いているのかもしれない。
「うん、あのな」
不思議なほど心は落ち着いていた。
梅雨時の湿り気のある風が吹いて、日向の長めの後ろ髪を揺らす。
俺は深呼吸して、奴の顔を見据えた。
「去年の今頃 さ… ここでお前と、キス したよな」
「っ /// おっ   ぉぅ」
日向は照れくさそうに目線を逸らした。
その反応さえも、なんだか愛おしく思えてしまう。
「あの時、俺…    すげー嬉しかった。」
「っ… 」
「お前のこと、好きだったから。すげー 嬉しかったんだ。」
「……」
「二人で、似合わないイタリアンの店で飯食ったのも、それより前に、一緒に映画観に行ったのも
 俺にとっては、大切な想い出で…」
日向が、ゆっくりと俺の方に向き直った。
俺は、その目をしっかりと見て、もう一度言った。
「俺は、お前のことが、好きだ。」
「……っ」
「好きだ。日向。」
日向の、見開かれた目が揺れている。
息を詰め、戸惑ったような表情で…
ああ… やっぱり、困らせてしまっただろうか…?
沈黙が重く圧し掛かり、俺は俯いた。

「… 何か、言えよ…」
耐えきれず、そう言ってみたが日向はまだ黙ったまま。
「……」
「? ひゅーが?  おわ?!!!」
「へ???」
もう一度顔を上げた時、俺の目に飛び込んできたのは真っ赤な…
「うわあ!!日向っ 鼻血出てる!!」
「ええ?!うわっ ホントだ!!!」
なんでか日向の右の鼻の穴から、たら〜っと赤い血がっっ
慌ててジャージのポケットの中にティッシュが入ってないかと探したがなくて。
「すまん。大丈夫だ。持ってる。」
日向は自分のジャージのポケットからティッシュを取り出し、鼻を押さえた。
鼻を押さえながら、反対の手でジャージについた血をぎゅーぎゅー拭いて。
なんでだ〜… とか言いながら、日向はふがふがしている。
「… ぷっ    あははははっっ」
思わず大爆笑しちまった。
っつか鼻血って!鼻血ってぇぇぇっっ!!!!
「なんだよっ 人が一大決心して告白したってーのにっっ 何きっかけで鼻血っ?!ぐふふふ」
「…わからん。っつか笑うな。」
「あー。オモロ…」
「おまっ お前がっ 急にとんでもねーこと言うからだろうがっ」
チっと舌打ちして、日向はそっぽを向いた。
「悪ぃ悪ぃ。ふはは」
「………俺も」
「え?」
「俺も、お前のこと、好きだった」
今、なんて…?
「正確には、だんだん、好きになっていた。」
「ひゅ… が…」
「……」
日向は俺の顔をチラっと見てまた目線を逸らし、
ティッシュで鼻を押さえたまま、「鼻血止まんね…」と呟いた。
その横顔は、明らかに照れていて。
「日向」
「ん?」
「いや… その、今言ったこと、本当 なのか?」
日向はまた、俺の顔をチラっとだけ見た。
「嘘ついてどーする」
「…悪ぃ… 俺、今、パニックだ…」
「まあ、だろうな。」
「っ///」
日向の腕が俺の肩にまわされ引き寄せられた。
それから…
「っ……///」

二度目のキスは、鼻血の味だった。


(続く?)



続くとしたらまた来年v

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