「…何だよコレ。」
「日向さんvカッコいいっしょ?」
日向は見りゃわかるっつーの。
メールがきたと思って携帯開いたら、
俺が座っている勉強机のすぐ後ろでベッドに寝転がって携帯イジってる反町からで。
そんで何かと思えば日向の写メで。
「中3の体育祭。」
「…うん。」
そりゃ、俺は高校から転入してきたから、中学のことは知らないけども。
「日向さん、応援団長だったんだよ〜♪」
「そうかよ。」
いやいや、ツッコミたいのはそこでなくて。
「そういうのやるタイプに見えないじゃん?ところがどっこいなんだよね〜。
 あの人、勝負事になると燃えるからさ。すっごい盛り上がったんだよ、その年の体育祭。」
「へえ。」
確かに、普段はクールでストイックみたいな感じを決め込んでる日向にはイメージないな。
こんな、あからさまに『応援団!』って。
学ランのズボンに上半身裸、白い手袋に赤い長いハチマキなびかせて、大声張り上げてるげな…
って。
「だから。」
「え?」
「俺が言いたいのはそこじゃなくて。」
「何だよ。」
「なんで急に、日向の写メなんか送ってくるんだってことだろ。」
「そりゃ、まっつん。もうすぐ誕生日じゃん?前祝い、的な???」
「…もっといいもん寄こせ。」
「本祝いもあるよ。」
「だーかーらー!!!」
思わず立ち上がって抗議しようと思ったところで、ノックもなしに部屋のドアが開いた。
「何か用か?」
ずかずか入ってきたのは日向。
いやいやいやいや。
何か用か?って、それはこっちの台詞じゃねえか…
ぽかんとしていると、ベッドに寝転がっていた反町が起き上がって
「あ。スミマセン。呼び出しちゃって。」
って、お前かよ…。
反町は自分の勉強机の引き出しを開けて、何やら探し始めた様子。
そのうち白い封筒みたいなのを取り出して開けた。
「これ。映画のチケットなんですけど。せっかく当たったのに、俺その日用事があって。」
「…おう」
「ちょうど部活も休みのはずなんで、良かったら二人で行って来てくれませんか?」
「二人?」
二人????
日向が怪訝な顔をすると、反町はにっこりと笑って
「日向さんと、松山で。」
え?
え???
「お、俺ぇ?!!!」
なっ何を言い出すんだ反町っっ!!!
「じょっ」
「おう。松山暇か?21日。」
冗談じゃねえええええ!!!!
と、言いかけたところで、何故か先手を打たれてしまった;;
「ひ、暇、だけ どっ」
「一時間前に寮の玄関。」
チケットの一枚を差し出されて、何だか受け取ってしまった。
っつか、っつか、いいのかよ!!お前は!!
「あ、えと」
「んじゃな。」
何も言わせてもらえないまま、日向はさっさと帰ってしまった。
「本祝いねvv」
「…反町。お前どーゆー」
「どーもこーも。奥手なまっつんのために、デートをセッティングしてあげただけじゃんvv」
「なっ///で、でででででーと?!!」
「デート。楽しんできて〜♪」
チュっと投げキスなんかしてきやがって、反町はまたベッドに潜り込んでしまった。

デートって…
なんだよ…

「……」
手渡されたばかりのチケットを見つめる。
それは今話題の、たぶん俺も日向も退屈することなく見ることができる、有名なアクション映画で。
指定された日付は、6月21日。
俺の誕生日。
日向が、そんなこと、知ってるはずもないけれど。

「…反町」
「ん?」
「お前、なんで知ってんだ?」
「何を?まっつんの誕生日?それくらい知ってるよ。」
「そうじゃ、なくて」
…俺が、日向のこと好きだってこと…
誰にも、言ってないのに。
絶対に、バレないようにしてきたのに。
「まっつん。」
反町は布団から顔を出して微笑んだ。
「毎日一緒にいたらさ。さすがにわかるよ?俺、そーゆーの鋭いし。」
「……でも、俺」
「大丈夫。誰にも言わないし、別に無理にどうこうってわけじゃない。
 ただ、まっつんがあんまり苦しそうだからさ。少しくらい、自分に素直になるのも悪くないと思って。」
「……うん。     サンキュー。」
「どういたしまして。」
胸の奥が、じんわりと、温まるような感じがした。
正しいのか、間違っているのか、俺にはきっと… ずっと分からないけど…
でも今は、素直に嬉しいと思える自分がいる。

チケットを机の引き出しにしまい、反町に断って電気を消し、俺も自分のベッドに入った。
布団の中でなるべく音をたてないように携帯を開いて、さっき送ってもらった写メを見る。
応援団長の日向は、一年前の、俺の知らない日向で。
サッカーの時以外でこんな風に真剣な目になることあるんだ、とか
応援団の格好も似合うな、とか
そんなこと考えながら、にやついてる自分に気付いてほっぺたを抓った。
「さっきの写メさー」
「え?!///」
反町の声に、焦って携帯を閉じる。
「やっぱ、カッコイイよね。男の俺からしてもカッコイイと思うもん。あ、変な意味でなくね。」
「…うん。」
「体育祭って、結構他校の生徒も見に来てたりするからさ。あの後、すごかったんだよ。
 大人気で。部活の練習見に、他校の女子がフェンスの向こうに群がってたりして。
 …モテるんだよ?あの人。まっつんはあんまり知らないと思うけど。」
「……」
「頑張ってね。」









その日は梅雨時期なのによく晴れていて、
俺は久しぶりにまともな私服を着て寮の入口の前で日向を待っていた。
デートの前って、こんな気持ちなのかな…?
わくわく嬉しいような、反面、ちょっと恐いというか、緊張するというか…
俺の私服、変じゃないのかな…
姉ちゃんが勝手に選んで送ってきた服だから、よくわかんねーんだけど。
反町がいいって言ってたから、いいと思うけど。
あ、寝ぐせとかついてねーよな?大丈夫だよな?
ちゃんと顔洗ったつもりだけど、目ヤニとかついてたら最悪
「おす。」
「うおっ」
「うおって何だよ。うおって。」
振り返ると、いつもとは違う、私服姿で笑う日向が立っていた。
「お、おす。」
「行くか。」
「…おん。」
なんだかまともに日向のことが見れないまま、俺たちは駅に向かって歩き出した。




映画館はそこそこ混んでいて、
ただでさえ目立つ容姿の日向なのに何で男と二人連れ?!みたいな視線をビシビシ浴びてたんだけど
当の本人は、全く、一切気にしない様子でコーラを買っている。
「ポップコーン食いてえな。」
コーラにポップコーンてベタ過ぎるな、とか思いながら、
「食えばいいじゃん。」
と言ったら
「あんなに大量にはいらん。半分ずつしねえ?」
って!子供かよ!!!
思わず笑いながら「いいよ」と答えたら、妙に嬉しそうな顔をしやがった。
その頃になってようやく日向のこともまともに見れるようになって。
グレーのシャツに黒いカーディガンを羽織って、下はグリーン系のミリタリーパンツ。
「お前、意外とまともな服着てんのな。」
思わず本音を言うと
「いつだったか、反町と買い物に行って選んでもらったやつだ。」
ああ、納得…
反町ってマメな奴だ。
「お前こそまともな服だな。」
「姉ちゃんが選んだやつ。」
「…ああ。」
って、俺も納得されてるし!!





映画を見た後、飯を食いに行って、スポーツショップに寄って。
日も落ちて暗くなりかけた頃、俺たちは電車に乗るために駅のホームにいた。
なんだか、本当にデートしてるみたいだ…と思う。
まだ帰りたくない。もっとこの時間が続けばいいのに…
日向は…
「……」
「?どうかしたか?」
「…いや。何でもない。」
日向は、俺がそんなこと考えてるだなんて、これっぽっちも思わないんだろう。
到着した電車は帰宅ラッシュでかなり混んでいた。
流されるままにぎゅうぎゅう電車の中に押し込まれて、
正直、満員電車というものにあまり慣れていない俺にはかなりきつくて…
「松山、大丈夫か?」
「うん… 東京の満員電車ってハンパねえのな…」
息をするのもままならない〜っ;;
これは体力的にというよりはむしろ、精神的に辛いような気もしてきた…
早く着いてくれ…
電車が大きく揺れた瞬間、ふいに日向に腕を強く引っ張られた。
俺の身体をドア側に移動して、向かい合わせに立つ。
ち、近い…///
というか、これは…もしかして… 押されないようにガードしてくれてる…???
「///」
な、なんだ?!このさりげない優しさっっ
「お、女の子じゃねえから、こんなことしてくんなくても、別に…」
一応抗議してみたけど、日向は聞こえないフリをしていた。
電車が揺れる度、日向の鎖骨の辺りが俺の顔に触れそうになる。
日向の体温と、匂い。
ドキドキして、ドキドキし過ぎて、俺はもう本当に、どうにかなってしまいそうだった…。



最寄りの駅に着いた頃には、すっかり夜になっていた。
日向と肩を並べて、星空の下を歩く。
「そーいや、松山、今日誕生日だろ。」
「え?!あ、うんっ」
まさか知ってると思っていなくて、俺は思いっきり慌てまくった。
何で知ってるんだろ…
「お前、もっとアピールしろよ。」
「おかしいだろ!俺誕生日なんだ〜 なんて言うの。」
「俺はするけどな。」
「すんのかよ。」
「何かもらえるだろ。」
「お前、やっぱセコいな…」
顔を見合わせて笑って。
そしたら日向が
「何か欲しいものあるか?」
「え…」
「今日中な。」
にやにやしながら言いやがった。
今日中なんて、そんなの、もうほとんどタイムリミットじゃねーか…

お前からもらいたいものなんて、他にない。

抱きしめて欲しい。
キスして欲しい。
俺のことを、好きになって欲しい…

「じゃあ、コンビニ寄ってアイス買ってくれ。」
「なんだ。欲がねえな。」
「ハーゲンダッツな。」
「バカか!ガリガリくんだ!」
「だからセコいってゆーんだよっっ」



いつか、こんな日もあったなぁと、懐かしむ日が来るんだろうか
いつか、あの写真を、何も思わず携帯から削除する日が来るんだろうか



「…松山?何黙ってんだ?」
「……何でも ねえよ。」




全てが想い出になるその日まで。






(完)



絵チャで「やっぱり日向さんはカッコイイだろ!」という話になり(笑)
うちの日向さんがあまりにもヘタレなんで、
ちょっとカッコイイっぽい日向さんを書いてみよう!と思いまして。
そして裏ばかり書いてるので、表も書こうと。(笑)
ほろ苦を狙ってみましたが撃沈;;

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