*「例のアレ」ですが、続きではありません。

某日某所、それはあるトレーニングキャンプ中。
どこか別の部屋に遊びに行っていた松山が、コミック本片手に戻ってきた。
「なー。日向〜」
「おん?」
部屋には今回のルームメイトの日向が、
自分のベッドに寝転がってケツをボリボリ掻きながら、誰かから奪ってきたサッカー雑誌を眺めている。
「壁ドンて知ってるか?」
「あ?ドカベン?」
「ドカベンじゃねえよ!!壁ドンだよ!!かーべーどーんっ」
日向は渋々顔を上げ、ようやく松山の方を見た。
「今、女子の間で流行ってんだろ?壁ドン。」
「あー… 例のアレな。」
「そうだよ。例のアレ… って!!お前絶対知らねえだろ!!!」
「し、知ってるって。だから、例の… どかべ」
「壁ドンだっつってんだろうが!!」
ぷりぷり怒りながら、松山はドカっと日向の寝転ぶベッドに腰を下ろす。
「コレ。」
それから、持っていたコミック本のページを開く。
「…なんでお前がこんなもん…  きも…」
「俺のじゃないの!反町んの!」
「どっちにしても気持ち悪ぃ。」
それは二人には全くもって関係なさそうな、これっぽっちも興味持たなさそうな、キラキラした少女漫画で。
「反町の話だと、女子はこの壁ドンをされたらヤバイらしいぞ。」
「ヤバイって…」
「だからさ、俺もやっぱ練習しておくべきかな〜って思ってさ。」
松山は更にずいずい日向に漫画を見せつけてくる。
「こう、女の子を壁に押し付けて、手で壁をドンってやるんだよ。
 それで顔を近づけて、ちょっと強気な感じのことを言うのがいいんだって。
 この漫画だったら、『お前、俺の事好きなんだろ?この俺が、守ってやってもいいぜ?』だな。」
「ふうん」
「な。日向、練習台になって。」
「…なんで俺が」
「だって、反町に頼んだら、ずっと変顔してきて全然練習になんねーんだもん。」
あいつめ… と松山は言いながら、またさっきの反町の変顔を思い出して吹き出しそうになる始末。
日向が練習台だと身長的には逆なんだけど、まあ、そこはいいとしよう。
「日向っ」
「へーへー。やりゃあいいんだろ。やりゃあ。」
よっこらしょっ〜っと、ジジイのように起き上がり、日向は首の骨を数回鳴らした。
「ほら、来いよ。」
「ん?」
壁ドンシーンをじっくり見てセリフの練習をする松山の手首を掴んで立ち上がらせると、
日向はベッドと机がぎゅうぎゅうに詰め込まれた狭い部屋をぐるりと見渡し「ちょうどいい壁がねえな。」
と呟いた。
そして
「じゃあ、ここだな。」
「?」
松山の身体をドアに押し付け、顔のすぐ横にドンっと手をつく。
「…へ?」
何が何やら、ぽかんとする松山の顔に自分の顔を近づけて
お前、俺の事好きなんだろ?」
「っ…///」
「この俺が、守ってやってもいいぜ?」
「/////////?!!!」
なななななななななっ//////
自分よりも背が高い日向に壁ドンされて、顔を近づけてそんなセリフを言われて…
松山は、腰の力が抜けてへたりこみそうになるのを必死で堪える。
「ひゅっ… ひゅ、が  」
逆、逆… 俺が女役やっても意味ないんだ〜… と、心の中で訴えているが声に出ない。
「あ。これじゃ壁ドンじゃなくて、ドアドンだな。」
激しくどーーーでもいいことを呟いて、日向は離れるとまたベッドに寝転んでしまった。
「っ… っ…   うわああああああっっ」
「うん?どうした松山」
叫びながらドアを開けると、外に飛び出して行った松山であった。


(完)



超短編です。
ただ日向さんに「ドカベン?」って言わせたかっただけ。
ちなみに、さすがにドカベンのリアルタイムは知りません。(笑)

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