「日向さーん!大変ですよ〜っ」
「うん?」
グラウンドで一人シュート練習をしていたら、若島津に呼ばれた。
大変ですよ〜と言いながら、微妙に顔がニヤニヤしている気がするんだが?
「なんだ?」
「例のアレ。ネットですごいことになってます。」
「………」
例のアレとは、例のアレのこと、なんだろうな…

U−21日本代表のトレーニングキャンプが始まった。
だいたいいつものメンツで、黄金世代とか呼ばれている俺達は
サムライブルーと呼ばれる先輩方ほどではないが、それなりに割と世間からも注目されている。
だからこそ、世間一般の皆さま方が目にしたり耳にしたりすような場での発言には気をつけなければならない。
それが特定の人… つまり一部のサッカーファンだけが知る程度のことであったとしても、
現代のネット社会では一部だろうがなんだろうが、一気に日本国民の知るところとなるのは当然のことで。

それなのにあのバカときたら…

『Q 無人島に行くとしたら、誰を連れて行きますか?』
『A 大工、漁師、日向』

「これ、何回見ても笑えますね。」
ぶくくくく… とスマホの画面を見ながら、若島津は笑いを堪えつつ言う。
「アホだな。アイツは。」
「ヤホーニュースにも載ってるし。」
「…マジか」
「ま、2〜3日ですよ。こんなもんは。そう怒らずに。」
「いや、怒ってるわけじゃねえけど」
「え?」
「理由を知りたい。」
「あー。なるほど。」
某サッカー番組の若手選手に一問一答コーナーでの松山の回答。
その時はMCのツッコミに「なんとなく。アイツ、使えそうなんで。」とか、適当な事を言ってやがったが。
世間的にはクソ真面目な天然キャラの松山が言ったというのも面白かったらしく、
さらにビッグマウスで変人扱いの俺の名前が松山から出たのも面白かったらしい。
「俺は分かりますけど。」
「何だ?」
「だって、日向さんそこらへんの主婦より主婦力高いし。」
「おまえな」
「けど、松山はそんなこと知らないですよね?俺達東邦組が言うなら分かりますが。」
松山とは喧嘩はよくするし、実は色々あった後結構仲良くなった事実はあるんだが。
それにしたって若島津が言うように、寮で一緒に暮らしてる東邦組が言うなら分かるが
何で松山はそんな事を言ったんだろう?
「本人に聞けばいいじゃないですか。」
「え?」
「せっかくいるんだから。」
そりゃ、確かにこのトレーニングキャンプには松山も参加しているが…
「俺自身が、面と向かって聞くのか?」
「まずいですか?」
いや。別にまずかねーけど…
気付けばすっかり日も暮れていて、若島津がそこらへんに散らばっているボールを集め始めた。
「さ。夕飯食いに戻りましょ」
「おう。 ところで若島津」
「はい」
「ネット上で、松山発言については何を書かれてるんだ?」
若島津は器用にボールを蹴りあげて、籠の中に入れた。
「あー。萌え〜wとか」
「も…」
「黄●伝説でやってほしいwとか」
「ざけんな」
「二人の認知度が急激にアップしたのは確かでしょうね。
 サッカーにさほど興味のない女子たちが、主に騒いでるとかなんとか…」
「どーゆーことだ?!」
はははは〜 と、かるーく笑って受け流す若島津。
一体どういうことなのか、俺にはさっぱり分からない。



夕飯の後、松山の部屋に向かった。
「ちょっと顔貸せ、松山。」
「なんだよ。」
今回松山と同室の井沢が、「喧嘩すんなよ」という顔でこちらを見ている。
喧嘩になるかどうかは松山の回答次第だが。
宿舎の外に出て、グラウンドの片隅にあるベンチに腰掛ける。
夏も終わりに近づき、涼しい風が吹き抜けていた。
「あのよ、ひとつ聞きたいことがあるんだが。」
「? なんだ?」
「お前、テレビで妙な事口走っただろう?」
「え?」
「無人島の話だ。」
「ああ。」
そのことか、と松山は今思い出したように言った。
「それが?」
「ありゃ、どーゆー意味だ?」
「どーゆーって」
「だから。なんで、大工と漁師と、そして俺なんだ?」
松山は目線を逸らし、夜空を見上げる。
「だからー。無人島だろ?住むところと食いもんは必要だろ?」
「それは分かったよ。で。あと何で俺なんだよ?」
「暇つぶし」
「ひ…」
俺の顔を見て、正面切って言いやがった…
暇つぶし?!!暇つぶしだと?!!
「てめえ」
「だって、日向いたらサッカーできるし、喧嘩できるし、飽きなさそうだろ?」
「……」
なんだ?それは… なんか、悪くない回答で逆に困るじゃねえか…
「…そ、そうか。」
「そーだよ」
「へ、へえ」
「何」
「別に、なんでもねえよ。」
なんだかケツのあたりがムズムズするようなことを言われて、少し動揺してしまった。
ふと、俺の右手が松山の左手にほんの少し触れている事に気付いて、もっと動揺して…
「俺」
「っ…」
触れていただけの手が動いて、松山の手の平が、俺の手の甲を包み込んだ。
「無人島に一人だけ連れて行くとしたらって聞かれたら」
「え…」
「日向って、答えた。」
「…………/////」
ななななななななななっ//////
「んなわけねーだろ!バーーーーーカっ」
「いで!!!」
俺の手の甲を思いっきりぎゅうううううーーーーっと抓って、松山はダッシュで逃げだす。
って!!
「待てコラぁぁぁーーーーーー!!!!!」
「やなこった〜〜」
ふざけんな!!松山コノヤロウ!!!!
そしてまた大喧嘩が始まって、三杉に大目玉を食らう俺達だった。



(完)



うっちーの、例のアレです。
松山が「日向」って言ったんなら、きっとこんな理由ではないかと。
本当は、ちょっと好きなんだと思う。(笑)

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