俺と三杉が今のような関係になったのは1年くらい前だった。
トレーニングキャンプでたまたま三杉と同室になって。
色んな話をした。
サッカーのことも、それ以外の事も、たくさんたくさん。

「三杉っていい奴だったんだな。」
思わず本音を漏らすと
「じゃ、今までは悪い奴だと思われてたわけだ。」
「あ!いや… そんなつもりは…」
困り果てていると、三杉は悪戯な表情を見せて「冗談だよ」と言った。
「そうだね。僕はコーチ兼任の時も多いから、そういうのもあって少し話しかけにくいのかもしれない。
 それに基本的に、例えチームメイトであっても、やっぱりライバルだからね。
 むやみに仲良くなるのもどうかと思っていたから。」
「…そー なの?」
三杉はくすっと笑って「そーなんだよ」と答える。
でも、なんか、寂しくないか?そんな考え方。
「俺は、三杉の事、もっと知りたいと思うけど」
「っ…///」
突然顔を真っ赤にして俯いてしまった三杉に、俺は何か悪い事を言っただろうかと慌てた。
「ご、ごめん。何か、変な事言っちまって」
「そうじゃないよ」
「…え?」
「嬉しかったんだ。松山がそんな風に思っていてくれた事が。」
「みすぎ」
小さく微笑んだ三杉は、とても可愛くて…
亜麻色の髪も、鼻筋の通った綺麗な横顔も、俺よりも少し華奢なその身体も。
俺は、三杉を好きだと思った。
そしてこれはきっと『恋』だと… そう思ったのだった。


それ以来、会えない時にはメールや電話で近況報告をしたり、
サッカーの真面目な話も、学校の話も、くだらない話もたくさんするようになって。
全国大会やトレーニングキャンプで会えた時には、
お互い少しだけでも時間をつくって二人きりで会ったりもした。
三杉は、それで良かったらしい。
でも、俺は…

「なに… するんだい?」
三杉は、驚いた顔で俺を見ていた。
「…何って…」
夜、宿舎の裏の静かな場所。もちろん誰もいない。
コンクリートの階段に座り、俺と三杉は身体を寄せて手を握り合って…
「キス… したいんだけど」
「え…?」
三杉の表情が一気に曇る。
俺はその態度に、正直ものすごく傷ついた。
「三杉…?」
「僕も松山も、男だよ?」
「分かってるよ、そんなこと」
「分かっていて、君は僕と、キスをしたいなんて思うのかい?」
「……」
じゃあ、三杉は、思わないってゆーのかよ…
っつか、今更… 本当に今更、男同士だからとか言うのか?
「俺は、したいと、思う。三杉は嫌なのか?」
「……」
「俺は、キスだけじゃなくて、もっと、その先までしたい。三杉のこと、自分だけのモノにしたい。」
思っていた事全てをぶつけると、三杉は大きなため息をついて俺から視線を逸らした。
「分からないよ松山。男同士でどうするつもりだい?
 僕は、こうして君と一緒にいるだけで、君と話をするだけでとても幸せだと思う。
 これ以上の事を求めるなんて理解できない。
 大切なのは、心のつながりだろう?」






今年度ラスト、そして高校生活ラストのトレーニングキャンプは日向と同室だった。
風呂上がり、床でストレッチをしていると、ベッドに寝転がっていた日向が声をかけてきた。
「おい、松山」
「うん?」
「お前、三杉んとこ行かなくていいのか?」
…なんでお前がそんなこと言うんだ?
不思議に思いながら尋ねてみる。
「なんで」
「なんでって…   できてんだろ?」
「…」
びっくりした。
まあ、ある程度はバレているだろうとは思っていたけど、
日向のバカはその手の事は鈍感だし、もし誰かから聞いたとしても興味を持たないだろうと思っていたから。
それにだいたい、日向のくせに、変な気まわしやがって。
「…まあ」
ここで嘘を言う必要もない気がして、俺は素直に答えた。
「みんな気付いてると思うぞ。」
「……うん」
とは言え、どうにもこうにも気まずくなって、俺はつい日向の顔色を窺ってしまった。
それに気付いたのか、奴はハっとした顔をして
「あー… 俺は、男子校だから、別にそういうことに関しては… なんつーか、慣れてるっつーか…
 特に偏見とかは持ってねえつもりだけどよ。」
他は知らねえけどな、と言う。
日向のくせに、ちょっといい事言ってくれるじゃねえかよ…
俺は普通に「ありがと」と礼を言った。
「喧嘩でもしたのか?」
「…喧嘩… とは、違うかな」
三杉のことが分からない。
…いや、そうじゃない。
本当に分からないのは、俺自身のこと。
俺は立ち上がり、日向の寝転ぶベッドの足元の方に座る。
日向が身体を起こしたので、「なあ」と言いながら更に近づいて。
「男同士って、やっぱ、ダメなのかな」
そう言うと
「…お前が言うなよ」
と、もっともな答えを返され、俺は黙るしかなく。
…三杉とは違う体温、俺よりも大きな身体。
日向は、三杉よりもずっとずっと『雄』だ。
「三杉とは、何もなかった」
「え…」
「お互い、好きって気持ちはあったと思う。
 会えなくても、メールしたり電話したりすれば楽しかった。
 けど… それ以上は、本当に、何も、なくて…」
「なくたって、別に」
「俺は、嫌だった。」
日向にこんな事を話してどうなると言うんだろう?
助けを求めているのか… それとも…
日向の腿にそっと手を置く。
鍛えられた筋肉質な太股を、俺はよく知っている。
日向の手が、俺の手の上に重ねられた。
「俺、本当に三杉の事、好きだったのかな…」
「…さあな」
「何もないからって気持ちが冷めるのは、違ったってことなのかな…」
「だから、俺に聞くな」
心のつながりって、なんだよ…
それさえあれば、身体は繋がらなくてもいいってことか?
俺は… 三杉みたいに出来た人間じゃない。
俺は…
「っ…」
突然、日向が俺の手を弾くと、すごい勢いで身体を引き寄せられた。
「見くびるなよ」
「ひゅ…」
押し倒されながら唇を塞がれる。
訳も分からず波に呑まれていくような感覚。
「刻みつけてやるよ。お前の身体に」
顔を近づけたまま、脅迫めいて日向が言う。
「っ…」
「その後、勝手に確かめるなり後悔するなりしろよ。」
「あっ…///」
首筋に噛みつかれ、上半身を弄られる。
「日向っ… やっ 」
思い描いていた幻想との落差に、不安と恐怖を感じたのは多分、最初の数分間だけで…
「……」

ゆるい抵抗も、下半身が繋がる頃にはなくなっていた。
俺も日向も… 全てを忘れて、激しくキスを交わしてお互いを求め合って。

俺は、明日の朝何を思うのだろう?
今はただ、その熱い波の中に溺れていくだけだった。



(完)



今日は飲んでません。(笑)
随分前にこれまた勢いで書き始めて、途中だった〜
だから最後まで書いてみた〜
まさかの松山目線。
こちらもギリ表で良しとする!!

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