「日向。松山はどこへ行ったの?」
突然、三杉にそう聞かれ、俺ははっきり言って意味が分からなかった。
隣にいた若島津の顔を見たが、なんのこっちゃと肩をすくめる。
「何で俺に聞くんだ」
「君ら、仲いいだろ?」
「……」
何かにつけ喧嘩ばかりしている俺と松山を一番叱っている張本人のくせに、どういう思考回路持ってんだ。
気味の悪い事を言うな、と返すと、三杉は妙にニヤニヤして
「喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか。悪いけど、松山探してきて。」
と言い放って、俺の反応も待たずに去って行った。
「これは、あれですね。軽い嫌がらせでしょうね。」
「…マジか」
「喧嘩ばっかするから、自業自得ですよ。」
「若島津、お前も」
「嫌です。」
そう言うと、さっきの三杉のようにすごい勢いで俺の元を去っていく幼馴染。
…後で覚えとけよ、コノヤロウ…

っつか。
覚えとけよ、コノヤロウ…は、松山の方だ。
休憩時間はとっくに終わって、これから紅白試合を始めるってーのに、松山は行方不明だった。
ふざけんな!!
基礎練なんか大っ嫌いな俺は、紅白試合をものすごく楽しみにしていたんだ!!!
便所でウ●コしてようものなら、ホースで上から水ぶっかけてやるから覚悟しとけ!!!!!
怒りマックスで捜索開始したものの、グラウンドの便所にも宿舎の便所にもおらず、
それどころか奴の部屋にも食堂にもどこにもいやしねえ。
意味分からん。
あああ… 腹立つ…
とりあえず敷地内を一周していなかったらもう戻ろうと、宿舎の裏口から外に出た。

「…いい天気だ…」
思わず独り言を言っちまうくらいに今日は晴れ渡っていて、まさに五月晴れ。
宿舎の裏手には芝生が広がっていて緑が目に眩しい。
ああ。
こんなに天気が良くて風が気持ちいい日は、こんな芝生の上でのんびりと昼寝でもしてぇな…
(ん?昼寝?)
「…いた」
ふと思いついて芝生の上を歩いて行くと、木陰で寝転がる人の姿を発見。
それは俺がさっきから探しまくっていた松山だ。
同じ事を考えてしまった自分が腹立たしい…
というか、願望だけで留めていたのに、実行している松山はもっと腹立たしい!!!
あんまり腹が立つので、どうやって起こしたら嫌がるだろうかとあれこれ考えをめぐらせながら近づいて行く。
バケツで水汲んできて思いっきりぶっかけてやろうか。
アリとダンゴムシ捕まえて、顔の上に乗せてやろうか。
それとも耳元で呪いの言葉を
「……」
寝転がっている松山のそばまで来ると、思いのほかぐっすり眠っていることに気付いた。
少しだけ開いた口からは、くーくーと寝息が聞こえてくる。
っつか、すっげーーー幸せそうな顔してやがるし。
俺はなんとなく起こす事が憚られて、とりあえず横に腰を下ろした。
何なんだ…
たかが15分の休憩ごときで、なんでこんなに爆睡できるんだ。
「おい」
小さい声でそう言ってみたが、もちろん起きる気配は全くない。
仕方なく普通に起こそうと思ったら
「?」
松山の鼻の上に、いつの間にやら赤い物体が…
何かと思って少し顔を近づけてみると
(テントウムシ???)
って!!!どんなミラクルだよコレ!!
くそうっ 携帯持ってたら絶対撮影するのに!!!!
鼻の頭にテントウムシを乗せた松山は、くすぐったいのか眉間にしわを寄せる。

…松山って、意外と睫毛長ぇんだな…
俺と正反対の白い肌は相変わらずだし、ほっぺた触ったら柔らかそうだ…
っつか、鼻の頭にテントウムシ乗っけてるって、ちょっとカワイイ

「ぶへっくしょーーーーい!!!!」

ゴッチーーーーーン

「痛ぇっっ」←松山 「ぬがっっ!!」←俺

いきなり豪快なくしゃみと共に起き上がろうとした松山に頭突きを喰らい、
今度は俺の方がひっくり返った。
「いてて… なにすんだ!!!っつか誰だ!!!   お。日向?」
「痛いのはこっちだ、この石頭め…」
額をさすりながら体を起こすと、松山は「ふああああ〜」と大きなあくびをした。
「日向、こんなトコで何してんだ?」
「お前なあ…」
こんなトコにいたのはお前で、それを俺に探させて、頭突きして、顔にツバ浴びせて、しかもあろうことか…
「休憩とっくに終わってるぞ。」
「ん???」
あろうことか、ちょっと… ちょっとだけだが、唇が、だな…
ところが松山ときたら立ち上がると伸びをして
「は〜vv 良く寝た。いいお天気で気持ちがいいなあ〜」
なんて呑気な事を言いやがる。
「で、日向は呼びに来てくれたのか?」
「…まあな」
「そら、ごくろーだったな。」
ひひひ、と悪戯に笑う松山をぶん殴ってやろうかと思ったが、
すぐに「うそうそ。さんきゅーv」と笑顔を向けられて、なんつーか、ずるいぞ松山…。
「あ!!紅白試合!!」
思い出したように松山は叫んで、俺の方に振り返る。
「もう始まってる。」
「マジか!!行くぞ日向!!」
「あ!おいっ てめえふざけんじゃねえぞ!!!」
勝手過ぎるバカを追いかけて、俺も慌てて走り出す。

五月晴れの青空と、初夏の日差し、それから松山の背中。
俺の中で、新しい季節が始まったような気がした。



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「ザ・五月晴れだな。」
松山がリフティングしながらそう言った。
裏山を登ったところにある広場はいつも貸し切り状態で、俺も松山もお気に入りの場所だ。
「日向、その袋なんだ?」
「これか?弁当だ。」
「弁当?!!」
「ちゃんとお前の分もあるぞ?」
「いや、そーゆーことじゃなくて…」
松山はぐふぐふ笑いながら「遠足みて〜」とか言ってきやがる。
「…そういう事言う奴には食わせねえ」
「違う違う!遠足みたいで楽しいなってことだろ!」
遠足って、小学生か…
言っておくが、俺の弁当はそんじょそこらの主婦なんかには全然負けねえから。
俺は広場の隅にあるベンチに弁当の入った袋を置いた。
「そーいやさー。日向」
「うん?」
「俺のファーストキスも、こんな五月晴れの日だったな。」
それも、こんな感じの芝生の広場でって、俺に言われましても…
「ふーん。随分、爽やかなこったな。」
「何言ってんだよ。相手、お前だろ?」
「……?! は?!!」
「忘れたとは言わせねえぞ〜 お前にとっては何回目か知らねーけど、俺は初めてだったんだからな。」
なんか急に重い事言われて、俺は必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
「あー。あの。あれか。」
「思い出してないだろ。絶対。」
う。バレてる;;
松山は大きなため息をついて続ける。
「中2の合宿の時。俺が休憩中に寝ちゃって、起こしに来てくれただろ。」
「…あ。テントウムシの」
「テントウムシ???」
っつか、あの時、キスしたって分かってたのか松山。
それに驚きだ。
気付くと松山は俺の方に近づいてきて、じっと俺の顔を見つめていた。
「思い出したか?」
「思い出したよ。っつか、あれを数に入れてると思わないだろ?」
事故みたいなもんなんだから、というと、松山はいきなり俺に抱きついてキスをしてきた。
「なっ なんだ///」
「やり直し。ファーストキスの。」
「っ…///」
変なところでロマンチストでやんの…
松山は俺から離れると、ドリブルしながら走り去っていく。
「おい。あの時のあれは、俺にとっても一応、その、ファーストキスだったんだからな。」
「…」
何回目か知らないけど、とか言いやがってコノヤロウ。
すると松山は俺の方に振り返り、にーっと笑って言った。
「早く来いよ日向!!」
勝手過ぎる恋人を追いかけて、俺も慌てて走り出す。

五月晴れの青空と、初夏の日差し、それから松山の背中。
俺の中で、新しい季節がまた始まったような気がした。


(完)



爽やかな季節になりましたので、爽やかなお話を書きたくてv
花粉症も終わって、一番いい季節ですなあ〜

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