反町の彼女がなんの理由だか知らないが電話の向こうでブチ切れていて、
大慌てで奴は金だけ置いて居酒屋を出て行った。
「・・・・修羅場だな。これから。」
小さな声で若島津が呟いた。

松山は俺と若島津の顔を交互に見て、それからなんとなく残り少ない枝豆に手を伸ばす。
「松山、反町のところに泊まるつもりじゃなかったのか?」
だいぶ冷めてしまっただろう熱燗を猪口に継ぎ足しながら若島津が言った。
「うん。」
「無理・・・なんじゃないか?」
「だな。」
他人事のように返事をして、松山はまた枝豆を口に運ぶ。

「悪いが、俺のところは今先客がいるんだ。」
「そうなのか?」
さして疑うこともなく、ましてやつっこむこともなく、松山は若島津の言うことにあっさりと返事を返した。
「だから、今晩は日向さんのところに泊めてもらうといい。」
「うん。じゃあ、そうする。」

・・・・・・・・・・・・・・・って、ちょっと待て!!!

「じゃあそうするって、お前、まず俺に聞け。」
「え?なんか困る?お前んちも誰かいるの?」
「・・・・いねえけど。」
「じゃあよろしく。」
「・・・・・」
チラリと若島津を見ると、笑いをこらえながらニヤニヤしてやがる。
・・・さっきの絶対ウソだろ。だいたい先客って誰なんだよ・・・。納得する松山も松山だ。
俺はすっかりぬるくなってしまった生ビールの残りを飲み干した。




電車はガタゴトと音をたてて西へと向かう。
乗客はほとんどおらず、この車両にいたっては俺たちと、隅の座席で泥酔しているサラリーマンだけだった。

さっきまで昨日のBSで放送していた欧州サッカーの試合の話を一生懸命していたと思ったら、
松山はうつらうつらと眠り始めてしまった。
終いには俺の肩に頭をあずけて本気で寝に入る始末。
目的駅まではまだ30分以上かかるというのに。

(そんなに無防備にされると、こっちが困る・・・・)

あどけない寝顔に、初めて出会った頃のことを思い出す。
今も昔もかわらない負けん気の強さで、身体を張って本気で俺にぶつかってきやがった。
あの日俺がお前につけた傷は、まだその脚に残っているのだろうか?

(・・・・残ってるなら、一生モンの傷跡だろうな。)

「・・・・・・」
起こさないように注意を払いながらそっと肩に手を回す。

松山の硬質な髪が、俺の鼻先をくすぐった。

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