*「それでも雪に憧れる。」→「やっぱり雪に憧れる。」→「まだまだ雪に憧れる。」 の続きです。

なんとなく暇を持て余して食堂に行くと、滝、井沢、来生の南葛組が椅子に座り、すごい勢いで落ち込んでいた。
…何か、あったのか?いつも明るい3羽ガラスが…
いやいや、待てよ?
この時期、この季節… 冬の南葛組の行動パターンと言えば!!
「おい」
「あ… 松山」
「お前ら、またあれだろ?どうせ雪だろ?」
ここは雪が降らないだことの、北海道に降る雪を半分寄こせだことの言うんだろ?
「降らないもんは降らないんだから、いい加減諦め」
「降ったんだ…」
「え?」
「降ったんだよ!!昼前に!!ちらっと降ったんだよ!!!」
来生が必死の形相で訴えてくる。
「ああ。そうだったのか。そりゃ良か」
「でも見逃したんだあああああああああ!!!!!」
うおおおおおんっっ と叫んだのは井沢。
そうか。昼前はミーティングで、全員会議室に籠ってたんだった。
「くそうっ 俺は家にいればもっと雪を堪能できたかもしれないのに!
 せっかく市の北部に家を建てたのに!!」
そう言えば、滝は山の方に引っ越して、去年は家の近くにも雪が降って…
あいつは裏切り者だとか井沢に言われてたな。
…の割には、相変わらず仲良しだな南葛組よ。
「新田は片付け当番だったから、まんまと雪に出食わしたらしいんだ。」
すっごく神妙な顔で来生が言う。
出食わしたって;;
「あれは雪じゃなくて、氷の粒でしたよ。」
そこにたまたま通りかかった新田がすかさず答えた。
「それを雪と言うんじゃないのか?!!」
「えー。雪って、もっとふわふわしてるやつで… ですよね松山さんっ」
うわ!!なんだよ!!俺にふるなよ!!!
「そうなのか?!松山!!」
「さあ… どーだろ」
「冬のスペシャリスト様が分からないんだ!適当なことを言うな新田!!」
誰が冬のスペシャリストだ誰が!!
はあ…
この会話にはやっぱりついていけない;;

食堂のテレビでは今シーズン一番の寒さ、大寒波到来、なんて言っていて、
豪雪の地域では大人の背よりも高く積った雪を毎日除雪する様子や、
雪のせいで起きた交通事故のニュースが流れている。
さっきまで言い争っていた南葛組たちもそれを見て
「やっぱ、雪って大変そうだな…」
なんて呟いて、ため息をつきながら食堂を出て行ってしまった。
変な奴ら…

一瞬でも雪がちらついたというだけあって、今日は本当に冷える。
雪はほとんど降らないし、最低気温がマイナスになることも滅多にないというここら辺は
実は室内の話だけならよっぽど北海道の方が暖かいかもしれないと気付いた。
暖房設備も建物の構造的にも、寒さ対策があんまりされていないから。
学校の教室には暖房もストーブもないって聞いてびっくりした。
『冬の休み時間は日当たりのいい窓際に身を寄せるんだよ〜』
とか
『職員室とか校長室だけには暖房があるなんて、大人ってずるいよね』
とか、岬が言ってた。



「ただいま〜」
「おう。」
部屋に戻ると、日向がベッドに寝転がって雑誌を見ていた。
「……」
ちょっとだけ… ドキドキしている自分がいる。
前回の冬の合宿はクリスマス時期で、その時「キスしたい」って言われて…
岬に全力で邪魔されたせいで出来なかったわけだけど、
結局その後も会えたのは合宿と試合の時だけで、二人きりの時間を過ごすのは実はあれ以来初めてで。
昨日は初日でバタバタしていたけど、今日は時間にも余裕がある。
いや!!別に!!!だからって期待してるわけじゃねーけど!!!全然!!!!
「松山」
「っ/// な、なに?」
「どこか行ってたのか?」
俺が風呂行ってる間に、と日向が尋ねてきた。
「食堂」
「何しに?」
「いや。暇 だったから。なんとなく」
「そうか」
そうして、また雑誌に目線を戻す。
何だよ。何か、冷たい…
せっかく二人きりなのに。
そう言えば、同室になったのなんて結構久しぶりだったのに(三杉の仕業か?)
部屋割のプリント分けられた時も、部屋に入った時も、日向の表情は特に変わらなかったような気がする。
…浮かれてるのって、もしかして、俺だけ???
「あー と、 …昼前に、ちょっとだけ雪が降ったんだって」
「ふうん。気付かなかったな。」
「ちょうどミーティング中だったから」
「ああ」
「また南葛の奴らが騒いでた」
「懲りないな。あいつらも。」
鼻で笑ったが目線はずーーーっと雑誌を見たまま。
…なんだよ。俺と話すより、雑誌の方が気になるってか?!
俺は向かい側にある自分のベッドの上にわざとらしくドカっと腰を下ろした。
「その雑誌、そんなに面白いのか?」
「いや、特に」
「…何の雑誌?」
「ファッション誌… というのか?これは。」
ふぁ、ふぁふぁふぁふぁふぁ ファッション 誌ぃぃぃ?!!!
何なんだ!!!お前とは全くもって無関係で、興味の欠片もなさそうなやつじゃねえかあああっっ
日向のくせにっ 日向のくせにぃぃぃっっ
「反町が持ってたやつ」
「……へえ」
「ん?お前も見たいのか?」
「………」
サッカー関係の雑誌ならまだしも、俺はチャラい反町所蔵のファッション誌ごときに負けたのか…
もう、がっかりも通り越して腹が立ってきて、俺はベッドを下りるとカーテンを開け、窓を全開にしてやった。
「うぉ!!何だよ松山!!さみーだろ!!」
「あー。雪降んねえかな〜 雪雪雪雪 ゆきーーーーっっ」
「…どうしたんだよ急に。」
雪なんか腐るほど見てるだろ?と日向が言った。
「どうせ寒いなら、雪くらい降ったらいいのに。」
って、南葛の誰かが言ってたのを真似してみる。
その時は何言ってんだかと思ったけど、今はなんとなく分かるような気がする。
雪は、冬の景色を白く彩る。
身体の芯から凍えるけど、幼い頃から知っている白い景色は心を温め安らぎを与えてくれる。
ただただ寒いだけの冬はあまりにも殺風景で、なんだか寂しい。
「雪… 降らねえのかなあ…」
「松山。どうかしたのか?」
「どうもしねえ。」
「…風邪ひくぞ」
「俺バカだから、ひかねえし。」
「……」
変な奴、と小さな声が聞こえ、ふと背中に温かみを感じたと思ったら、日向がすぐ後ろに立っていた。
「何か、怒ってるのか?」
「怒ってる。日向が相手してくんねーから。」
「…何だそれは」
「そのまんまの意味だろ。」
「………」
後ろから抱きすくめられ、頬に柔らかく温かい唇が触れた。
「せっかく、冷静でいようとしてるのに」
…え?
耳元で囁かれた言葉。
それから…
「…ん///」
初めてのキスは熱くて…  寒くて。

「あ。雪…」
長いような短いようなファーストキスの後、目に飛び込んできたのは真っ白な雪。
「また南葛の奴らが騒ぎだすぞ。」
言いながら、日向は俺の体をさらに強く抱きしめてくる。
「今夜は冷えるな。」
「…うん」
さすがに寒くて、俺は日向に抱きつかれたまま手を伸ばし、窓とカーテンを閉めた。
「お前のせいで体が凍えちまった。責任とれ」
日向はわざとらしく、もっとぎゅうぎゅう抱きついてくる。
「何言ってんだよ///」
「責任とって、今夜は俺と一緒に寝るんだ。」
「っ///」
全身が一気に熱くな

「不純同性交友は禁止だと言ってるでしょーーーーーーー!!!!」

「?!!!!」
部屋のドアが開いたと同時にそう叫んだのはもちろん岬。
ずんずんと奥まで進んできて
「はいはい〜 離れた離れた〜」
俺と日向の間に割って入ってきた。
「邪魔すんな!!」
「するに決まってるでしょ。松山に変なことしたらただじゃおかないんだからね。」
じろっと岬が日向を睨みつける。
これには俺も… 何も言えまい;;;
「えっと… どうかしたのか岬?」
「雪、降ってきたよって教えに来たの。」
外に見に行こ〜〜vvvv と、俺は岬にぐいぐい腕を引っ張られ、強制的に部屋から出される。
日向がものっすごい不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。


(完)



今年の「雪に憧れる」シリーズでした☆
毎年、リアルな話を盛り込んでお届けしておりますが、
私が小学生の頃は暖房やストーブがない上、授業中も常に半袖半ズボンの体操服姿でした。
なんでだろうね…
今は着替えるのは体育の時だけみたいですが。
もちろん、今もここら辺の公立の学校は暖房もストーブも、ついでに冷房もありませぬ。
過酷だね…
先日、昼前に雪がちらほら舞ったようですが、私は見逃しました!
そして幼稚園で見た下の子が「雪じゃなくて氷の粒だった」と言い張ってました。(笑)
みぞれ?

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