*「それでも雪に憧れる。」の一年後のお話です。くだらないです…

昼飯を食い終わって午後の練習までの休憩時間。
お茶でも飲もうと食堂に行くと、井沢が一人、窓辺にたたずんでいた。
はあ… とため息をついて、窓の外の空を見上げて。
「井沢」
「……松山」
ちょっと躊躇いながらも声をかける。
振り向いた井沢は、いかにも落ち込んでいますという顔で…
うーん、そっとしておいてあげるべきだったかな;;;
しかし声をかけてしまった以上、聞かないわけにもいかないか。
「どうかしたのか?」
「また裏切られたんだ…」
「え?」
予想外の言葉を口にする井沢に、俺は驚きの色を隠せない。
「期待するだけさせておいて、やっぱり最終的には裏切るんだ。」
裏切られた???
思わず眉をひそめてしまう。
何だかよくわからないが、もしこの合宿中の話だと言うのなら副キャプテンとして聞き捨てならない。
「一体、誰に裏切られたって言うんだ?何をされたんだよ?」
井沢に近づき肩に手を置くと、はあ、と、また大きくため息をついた。
「夜には雪になるかもしれませんって言ったじゃないかああああ!!!!」
「?! は?!」
「あのなっ 天気予報では言ってたんだよ!
 夜になって気温が下がると、今降っている雨は雪に変わるかもしれませんねって!!」
え?!何?!雪がなんて?!!!
あっけにとられる俺を無視して、井沢は更に息巻いて続ける。
「なのに見ろ!!この晴天!!そしてグラウンドをびっちゃびちゃにしてくれてる水たまり!!
 全然積ってねえじゃんか!!お天道様のばっきゃろーーーーーっっ」
井沢は全力で窓の向こうの空に向かって叫んだ。
って、…いやいや、なんだそりゃ…
「雨は夜更けすぎに 雪へと変わらないんだっっ タツロウ!!」
「タツロウじゃねえっての!!何だよもー。心配して損した…」
「あ!お前雪なんか飽きるほど見慣れてるし、いっそ降らなきゃいいのにとか思ってんだろ!」
くそうっ 道民めーーーっ とか言ってくるけど、実際そうだから仕方ない。
やれやれ…
本当に心配して損した…
そう言えば、去年は合宿中にこっちでも雪が積もって、静岡の奴らは随分はしゃいでたよな。
「しかも見ろよ!滝も裏切り者なんだぜ?!」
「は?滝??」
井沢が携帯を開けて、何やら画像を探し始めた。
滝は今回、合宿には参加してないけど…
「あいつな、ちょっと前に引っ越したんだよ。山の方へ。
 山っつっても、俺んちから車で30分もかかんねーような所なんだぜ?
 ほんのちょっと山際ってだけなのに… 見ろ!!!これだ!!!」
井沢が見せた画像は、滝が嬉しそうに小さな雪だるまを片手に、超笑顔でピースしているやつで。
「くっそー!!合宿中じゃなきゃ、滝んちまでチャリ飛ばすのに!!!
 っつか、あっちで雪積もったなら、こっちでも少しくらい積ったっていいじゃねえか〜っ」
…ああ、もうついていけない。
なんでここら辺に住む人は、そうまでして雪に憧れを抱くのか。
欲しけりゃいくらだってくれてやるのに…
思わずため息をついて、給茶機に向かおうと思ったら、誰かが食堂に飛び込んできた。
「あ!!井沢!!滝からメールきたか?!」
「若林さんとこにもきましたか?!!」
「きた。くっそー… あいつめ…」
だから。若林はドイツで雪なんか見慣れてるだろって…
去年そう言ったら、地元で積るからいいんだ!って言ってたっけなあ。
なにやら、わーわー言い出した二人を尻目に、俺は紙コップを給茶機に置いてボタンを押す。
ここのお茶は給茶機でも美味い。
さすがはお茶の産地だぜ。
「あーーーーーーー!!!!!」
若林のでかい声が聞こえた。
今度はなんだ???
「見ろ!!風花が舞っている!!」
「うおあ!!マジっすね若林さんっ テンション上がりますね!」
「よしっ 外に出るぞ!」
「はい!!」
二人はまたわーわー言いながら、食堂を出て行ってしまった。
窓の外を見ると、チラチラと舞う小さな雪のようなもの。
晴れてるのに… なんだ??
「ねー。若林さんと井沢、なに騒いでたの〜?」
二人と入れ替わるように食堂に入ってきたのは来生だった。
「あー。なんか、雪が降らなかったとか怒ってて、そのうち、かざはな?が舞ってるとか…」
「うわ!本当だ!風花が舞ってるじゃんっvvv」
「風花って、この雪みたいなやつのこと?」
「そ。あれ?松山知らない?」
「初耳。」
「雪が降るトコだとあんまり使わないのかな?
 山に積もった雪が風に飛ばされてきて、こんな風に舞うことを言うんだぜ?」
俺も外出よ〜vvと、来生も行ってしまった。
なんか、ちょっとおいてけぼり食った感…とか思いながら、お茶を片手に窓辺に立つ。
窓の外を見れば、青空に舞う風花。遠くに富士山。
綺麗な景色だなあ…
熱いお茶をすすると、いい香りがふわりと鼻に抜けた。
「お。松山。」
「ん?」
聞き慣れた声に振り返れば、そこには日向が立っていた。
「何してんだ?」
「お茶飲んでる。」
「座ればいいだろ。」
「風花が舞ってるんだって。」
日向は俺に近づき、小首を傾げた。
「かざ はな?」
「お前も知らないの?俺もさっき教えてもらったんだけど」
と、さっき来生に教えてもらったことを日向に話す。
日向は、ふうん、と言って、それから…
「おっ/// なんだよっ ひゅーがっ」
「いいだろ。誰もいねーし。」
「来るかもしれないからダメだ!」
「来たら離れるって。」
後ろからそっと抱きしめられた。
思えば去年の今頃は、まだそんな関係になるだなんて思ってもいなくて。
でもまあ、日向は多分あの頃から俺のこと…
「ホント。花びらが舞ってるみたいで綺麗だな…」
耳元で日向が言った。
「うん。」

風に舞う、小さくて冷たい、白い花びら…
春はまだ、もう少し先。


(完)



今年も静岡市平野部にお住まいの皆さま方の心を代弁しました。
ええ。
天気予報なんて!タツロウなんて!!(タツロウに罪はないよ…)
東京でも雪が降りましたね。
静岡も東部は積ったみたいだし、市内のちょっと山の方は降りました。
ええ。きましたよ。ちょっと山の方に住んでる友人から写メが!!!
浮かれたミニ雪だるまの写メがね!

ところで「風花」って静岡ではよく使うんですが、他県ではあまり使わないみたいですね。
方言じゃないんですけどね〜
やはり雪に憧れすぎる静岡人だからですかね??

top