やけに冷えると思ったら、やっぱり降ってきやがった。
小さな窓の外は真っ暗で、白い小雪がふわふわと舞っている。
古い窓は締め切っても隙間風がどこからともなく入ってきて、俺は思わず身震いしてカーテンを閉めた。

とにかく、東邦学園の寮は古い。
ゆえに寒い・・・。
ありがたいことに、ここには若島津が持ち込んだこたつがあるからまだ耐えられるが(それゆえよく溜まり場になる。)
何も知らない新入生とか凍え死んでやしないだろうか・・・と思う。
上級生になるにつれ、一応安全面の上で禁止されている暖房器具・・・こたつ、電気ストーブ、ホットカーペット・・・
などをこっそり持ち込むわけだが、新入生はそれに気づくまで頭まで毛布にくるまっているしかないだろう。
でも、よく考えたら自分も一年の時は凍え死なずに済んだのだから、きっとどうにかなるんだろうな・・・(気合とかで。)

こたつに潜っているおかげで足は温かいが上半身は寒い。
愛用のちゃんちゃんこに身を包んだ姿はかなりマヌケなんだろうなと思いつつ、やはり手放せない。
そういえば、長らく若島津を見かけねえな。どこ行ったんだ?
どうにもやる気の起きない冬休みの宿題を目の前に、俺はこたつの上に顎を乗っけた。

一瞬気持ちよくうとうととしかけたところで携帯が鳴って飛び起きた。
着信の相手は行方知れずの相棒かと思いきや反町だった。
「もしもし」
『あ、ひゅーがさん?俺でーす。』
「おう。なんだ?」
『今、寮の部屋にいます?』
「ああ。」
『ちょっと窓の外、覗いてみてくれません?』
「・・・・・」
雪がそんなに珍しいのだろうか・・・?
ここらは積もることだってしょっちゅうなのに。
「雪だろ?さっき見た。」
『残念でしたー。もっといいものですよ〜』
やけに嬉しそうな反町の声。
雪だるま作るには早すぎる・・・
クリスマス会のコスプレかなんかしてるのか?って、どこでクリスマス会なんてやってんだ?!
などとくだらない事をつらつら考えながら、ぬくいこたつから足を出したくなくて緩慢な動きでようやく立ち上がる。
カーテンを開け、鍵をはずす。
ガラガラと大げさな音を立てる窓を開けて下を覗き込んだ。
「ひゅーがさーんっっ」
携帯と本物の声がステレオで聞こえた。
ちらちらと小雪が舞う中、傘をさした反町と、行方知れずだった若島津と、それから・・・
「・・・・松山・・・?」
「びっくりしましたー?まっつんですよー。ホンモノですよー。」
びっくりした・・・なんてもんじゃねえ・・・
俺は大急ぎでちゃんちゃんこを脱ぎ、ジャージからジーパンに履き替えダウンジャケットを着込み、
それから財布と携帯を尻ポケットに突っ込んで部屋を飛び出した。



「・・・よう。」
「・・・・・おう。」
紺色のダッフルコートにモスグリーンのマフラーをぐるぐるに巻いて立っていたのは確かに松山だった。
「親戚の法事の後、せっかくだからって一人こっちに残って午後から国立で天皇杯の準決見てったんだって。
そしたら向こうが大雪で飛行機飛ばなくなっちゃったんだそーです。ね。」
と、自分のことのように反町が喋ると松山は無言で頷いた。
「・・・で?ここに泊まるのか?」
「いや。それが。俺は別にそれでもいいと思ったんですけどね〜。健ちゃんが、」
そう言って反町はにやにや笑いながら若島津を見る。
間に挟まった松山は、何やら居心地が悪そうにうつむいた。
「はい。これ。」
いきなり若島津に小さな紙切れを渡される。
地図とどこかの住所と電話番号・・・
「・・・・なんだ?これは・・・」
「地図です。」
「だから何のだよ。」
「ホテルまでの。」
「ほっ・・・///」
ホテルぅ?!!!
「あー。日向さんてばエッチーvv」
と言った反町は、俺よりもさきに松山にぶん殴られた。
「ここに泊めてやっても良かったんですが、色々と手続きもめんどうですしね。
それにクリスマスだし、俺たちからのクリスマスプレゼントです。
っつっても金は一銭もかかってないんで気にしないで下さい。
三杉の父親の会社が持ってる研修施設兼宿泊施設を手配してもらったんで。
まあ、そこら辺のホテルなんかよりはずっと豪華みたいですけどね。」
あまりにもスラスラと言われたのと状況が未だに飲み込めないのが相まって、いまいち内容が頭に入らなかった・・・
そんな俺の表情をすぐに察したのか、若島津がため息混じりに話を続ける。
「とにかく、三杉提供の宿泊施設に二人でタダで泊まって来い、と言ってるんです。」
「あ、ルームサービスもご自由にって言ってましたよ〜。さすが三杉先生太っ腹vv」
「フロントで三杉の名前をちゃんと言うんですよ。あと三杉にお礼の電話も忘れずに。」
「日向さんの宿泊許可、勝手に取っておきましたからね〜vでも明日の練習には遅れちゃダメですよ♪」
はいこれ、と反町に傘を渡され、Wオカンはやけに陽気に寮の玄関の方へと去っていった。

残された俺と松山は・・・・ものっすごく微妙な空気・・・・
「・・・・じゃあ、行くか?」
俺が言うと、松山はちらっとだけ見て小さく頷いた。

「・・・・・元気だったか?」
「おう・・・」
校門を出て駅へと続く小さな商店街を歩く。
街はすっかりクリスマス仕様で、どの店も賑々しく電飾や飾りつけがされている。
普段ならこの時間人気もまばらになるのだが、今日はクリスマスイヴだからか土曜日だからかいつもより人出が多く
チキンやケーキを買い求める家族連れやカップルで賑わっていた。
ふと我に返ると俺たちは男二人で相合傘・・・
(もう一本傘を持ってくるんだった・・・)
なんか急に恥ずかしくなってきたぞ、この状況・・・
よく考えればあいつら(+しかも三杉)にクリスマスにホテルを準備してもらうってどうなんだ・・・
なんとなく松山の顔を覗いてみると目が合った。
「・・・・な、なんだよ。」
「いや、なんか、なんだろうなこの状況って・・・と思って。」
そう言うと松山はぷっと吹き出して笑った。
「なあ。俺もそう思ってた。」
松山の笑顔を見て、俺もようやく変な緊張が解れたようだ。
そこで心の隅に微妙にひっかかっていたことを聞くことにする。
「っつか、お前、なんで俺んとこに電話しなかったんだよ。」
「え?」
「え、じゃねーだろ。こっちに来るんだったら電話くらいしろ。」
「だって、天皇杯見てくって決めたの今日だったし、飛行機飛ばねえなんて思わねーじゃん。」
「ならなんで飛行機飛ばねえってわかった時点でまず俺じゃなくて反町に電話したんだよ。」
松山は痛いところを突かれたのか、口をへの字にして目線を逸らした。
いや、そんなに怒ってるつもりもなかったんだが、やっぱり、俺としては、こう・・・
「・・・・まあ、結果オーライだから別にいいけどな。」
どう考えても俺じゃ反町や若島津や三杉のように要領よく立ち回れなかっただろうし。
松山だって緊急事態だったから、そういうことに一番強そうな反町に電話したのだろう。
これは、ただの嫉妬、だ。
それはわかってるんだが・・・

商店街が終わって大通りに出た。
信号がちょうど赤に変わり、俺たちは立ち止まる。
これから二人でホテルに行こうっつーのにまた微妙な空気になるのもどうかと思って
俺なりにフォローを入れたつもりだったが、当の松山はまだ口をへの字にしたままで・・・
「・・・松山」
「だって・・・」
「え?」
「だって、お前だって学校とか練習とか、色々忙しいんだろうから・・・確実に会えたかどうかわかんないだろ?」
「・・・・そりゃ、そうだが・・・」
「こんなに近くまで来てて、電話までして、しかも今日クリスマスイヴで・・・。」
「・・・・・」
「それでもし会えなかったら・・・・   寂しいじゃん。」
「っ///」
信号が、青に変わった。
俺は傘を右手に持ち替え、空いた左手で松山の右手を掴むとダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。
「なっ・・・なんだよ日向っ///」
慌てた松山の声。
「人が、見てるぞっ///」
「うるせえ。関係ねえ。」
「っ・・・・・」
松山の笑った横顔が目に入る。
俺は奴を引っ張るように大股で横断歩道を渡った。


「なあ、松山。明日も飛行機飛ばなかったらどうすんだ?」
「・・・・それはそれで、いいんじゃね?」
悪戯っぽく松山が答える。

雪の降る街を、松山と二人手をつないで歩くクリスマスイヴ。
駅はもう目の前だ。


end



メリークリスマスイヴ!!
おお!!間に合った!!息子に邪魔されまくったけど間に合ったよ!!
いや〜、恥ずかしいな。こいつら。(お前だよ。)
この時期、きっと選手権大会で忙しいんだろうけど、ま、そこら辺は流して流して・・・
久しぶりに短編でマジメに(?)マツコジってみましたvv
高校生のくせにやることやってんだな、お前ら・・・っつー感じで。

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