その夜は、空から今にも雪が落ちてきそうだった。 ルームメイトのいい人黒木くんと、最近随分打ち解けた、と、日向は言う。 例の失恋話を聞いてあげてからだ。 最近では脱走時に「いってらっしゃい。」と言ってくれるまでになったらしい。（･･･変な奴･･･） 「サッカーがらみ以外の友達なんか珍しいんだから、大事にしろよ。」 「･･････」 そう言うと、日向は無言で俺を睨みつけた。 「まあ、そうだな。」 真剣な顔で答えられたもんだから、俺は思わず吹き出しそうになってしまった。 打ち解けたと言えば、俺と日向だって随分打ち解けたんじゃないだろうか？ 今までサッカーの話しかしたことなかったけど、こう毎晩二人で会っているとそれだけじゃ間がもたない。 授業中の話や先生の話なんてゆー、どうでもいいようなことから、 家族や、好きなアーティストについてとかのちょっと踏み込んだ話までするようになった。 ････モー娘で卒業生も含め誰が一番好きか、で、同じだったのには驚きだぜ･･･。 思えば、俺って日向のことあんまり知らなかったんだな･･･。 殴り合いまでした仲なのに。 自主トレはあいかわらず毎晩続いていた。 そろそろ寒さも本番になってきたし、止めにした方がいいんだろうかとか考えるんだけど、 なんとなく言い出すきっかけもなくて、日向も言い出さないから。 まあ、いいかって、今日も走り出す。 いつもと同じ道。 いつもと同じ･･･ 今日も展望公園には誰もいない。 夜景はあいかわらずキレイで、冬独特の冴えた空気によりいっそう映えて見えた。 「なんだか、雪でも降りそうだな。」 　日向が空を仰ぐ。 灰色の重たい雲が低く迫っている。確かに雪雲のようだ。 「こっちも雪積もるのか？」 「まあ、ちょっとは。」 そう言いながら、日向は指で３センチくらいを示す。 「･･･そんなもんは積もったとは言わない。」 「富良野と一緒にすんな。」 いつものように、ケンカごしのくだらない会話が始まる。 それでなんだかんだで最後には笑い合って。 ･･･一体何がきっかけだったのか、自分にもわからない。 小枝に降り積もる雪がその重みに耐え切れなくなって下に落ちるように、 ただ時が来ただけなのかもしれない。 ひゅうっと冷たい風が吹いて、辺りの落ち葉が舞い上がった。 俺も日向も同時に肩をすくめる。 ふいに落ちた沈黙。 夜景を眺める日向の横顔を、俺はしばらく眺める。 いつもと同じ日向。 ････でもいつもと違う、俺。 なんだか、胸が、苦しい。 「････冷え込む晩は、」 「うん？」 「飼ってる猫、抱きかかえて寝てたんだ。いつも。」 「･････」 突然話し始めた俺に、日向は夜景から目線を移した。 「すげー、あったけぇの。」 「･･･ふうん。」 「本当は、寒いの苦手なんだ、俺。」 「･･････」 そうか、と、日向は言った。 「猫はいねえし、部屋じゃ一人だし･･･」 「･･･松山？」 ことん、と日向の肩に頭をあずけると、俺の中の何かがぼろぼろと崩れ落ちていく気がした。 「どうした？」 日向のでかい手が、俺の髪をくしゃくしゃとなでる。 「今更ホームシックか？らしくねえな。」 「････うん」 「お前って、時々わかんねえ。」 コツン あの夏の日に聞いたのと同じ音。 コツン もう一度。 でも、俺は布団を被って聞こえないフリをする。 眠ったフリをする。 外は小雪日和。 寒い部屋に一人きり。 俺は飼い猫のことを頭に思い浮かべて、 それから、 今、窓の下にいるあいつの顔を思い浮かべた。

ようやく完結しました。あいかわらずダラダラとすみません。 ユウスケ様に捧ぐ、ちょっぴり切ないお話でした。 どどどど、どうだったのかな･･･？（汗） ハッピーエンドでないのって難しい〜っ 最後すごい何度も書き直しました･･･。修行が足りませんねえ。 迷走に迷走を重ねた結果、です。あは。 ユウスケさんに「切ないお話」と言われて、真っ先に思いついたのが カスタネッツの「冬のうた」でした。 ユウスケさんのおかげで出会えたカスタネッツですし、少しだけ歌詞をお借りしましたｖｖ