「よう。」
「・・・・よう。」

翌日、いつもと変わらない様子で、いつもと同じように日向は準備運動をしていた。

「・・・・・・」
そんな奴の後姿を、俺はぼんやりと眺める。
昨日なんで来なかったんだ?なんて聞くのは、やっぱりおかしいんだろうか・・・。
だって、別に待っていたわけじゃねえし。
・・・・約束、してたわけじゃ、ねえし・・・。

「昨日、悪かったな。」
日向がそう言って、前屈する俺の顔を覗き込んだ。
「何が?」
「・・・・何がって。」
そうして俺は、日向の顔も見ずにそのまま走り出した。

ガキだ。俺は。
ただの拗ねた子供なんだ。

・・・・・・・バカみてえだ。こんなの。



「黒木がな、」
しばらくして、引き止めるように背後から日向が言った。
「あ、黒木ってのは、俺のルームメイトなんだが、」
ああ・・・「いい人」の、か。
「彼女にフラれたとかで、急に泣き出したりなんかしてよ・・・。
俺もその手の話はよくわからんが、とりあえず俺で良ければ話聞くが?って言ってやったら、
そりゃあもう、これまで見たこともないくらいすげー勢いで話し始めちまってさ。」
「・・・・・・」

・・・いや、俺にしちゃあ、お前が今、すげー勢いで話し始めてることが驚きなんだけど・・・。

俺の横に追いついた日向は、走りながら、いい人黒木くんの恋愛話を俺にも聞かせた。
俺は、サッカー以外の話を、それも他人事ながら恋愛話を一生懸命にする日向の横顔を、なんだかとても不思議な気持ちで見ていた。

黒木くんの恋愛話は何やら複雑で。
黒木くんが言ったのか、日向がそうしているのかよくわからないが、Aくんだの、Bちゃんだの、イニシャルトークしやがるもんだから余計ややこしい。
途中何度も「それは誰だっけ?」と聞き返してしまった。
真剣に話す奴も奴だが、真剣に聞いちゃう俺も俺・・・だよなあ。
とにかく話は長くて、気づけばもう展望公園の直前まで辿り着いていた。

そんなこんなで随分遅くまで付き合うことになってしまって、話も話なので中断することも出来ず、外に出て来れなかったのだ、と、日向は最後を締めくくった。

「なんとか連絡できれば良かったんだが・・・」
悪かったな、と俺の顔色を見るように覗き込む。
俺はと言えばすっかり話に聞き入ってしまい、すっぽかされたことを忘れそうになっていた。
「・・・別に、そんなに気にしてねえよ。約束してたわけじゃねえんだし・・・。」
 なんか、今更だな・・・とか思いながら俺がぼそぼそと言うと、日向はきょとんとした顔で俺を眺め、それから小さく笑った。

「お前が気にしなくても、俺が気にすんだよ。」



・・・・ああ、もう、本当にバカみてえだ・・・。


昨日はあんなに冷たく感じた空気も、今日はそうでもない。
外灯も葉ずれの音も心地よく思える。

「お。もうクリスマスのイルミネーションついてる。」
低いフェンス越しに望む夜景を見て日向が言った。
ここも結構な田舎だけど、駅前の繁華街だけは煌びやかだ。
あちこちで競うようにイルミネーションが施されている。
「クリスマスが近づくと、選手権大会だなあって思うな。」
「色気ねえな。」
色気なんかいらん!と、ケツに軽くケリが入る。
俺たちは笑い合って、「打倒!南葛!!」と気合を入れた。




こんな夜がずっと続けばいいのにと願いながら、
同時に、
何故だかとんでもなく簡単に終わりがくるような気がしてならなかった。


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