今日なんか結構冷え込んでいて、ああ、富良野はきっともう雪景色だろうな・・・なんて思ったりする。

東京の冬は、思っていたより寒いように思う。
雪国ほど暖房設備は整っていないし、窓だって二重じゃない。
当然、寮の部屋にはエアコンなんてついてねえから、真冬なんかはみんな寒がって食堂のストーブにたむろってたりする。

日向と二人で夜の自主トレに出るようになって数ヶ月。
別に決めたわけじゃないけど、俺たちはほぼ毎日のように続けていた。
雨の日はやらない。体調悪くなったら意味ねえし。
微妙な時は・・・各自で判断ってとこか?
しばらく待って、来なければ一人で行けばいい。
奇跡的に、今のところ、日向がいなかったことはないけれど。

日向は特待生なら大目に見てもらえるとか悠長なことを言っていたが、停学処分にでもなったら親に合わせる顔がない・・・。
毎晩の脱走は絶対の秘密だった。
それは若島津や反町にも例外ではなく。

けど、毎夜、寮抜け出して二人で練習しているなんて知ったら、いい気分はしないだろうな・・・。
自分だけ置いていかれたような、仲間はずれにされたような。
俺ならきっとそんな風に感じてしまう。

少し、後ろめたい・・・。


今日も奴は俺を待っているだろう。
だいたい時間も決まってきて、今では合図がなくても、そろそろかなって頃に窓から下に降りるようになった。
そうすると日向が準備運動しながら、塀の下に立っているのだ。
それで必ず「よう。」って片手を上げる。

昼間は一日曇り空だったけど、雨が降るような感じもなく、俺はいつもより少し厚着をして窓から外に出た。
「・・・あれ・・・?」
(いない・・・。)
空を見上げるが、薄い雲が広がるだけで雨は落ちてきていない。
むしろ昼間よりマシになっているくらいだ。
(体調でも悪いんだろうか・・・)
風邪ひいたとか、夕飯食いすぎたとか?
あれこれ考えながら、5分ほど経過・・・
携帯に電話すれば済む事なんだろうけど、別に約束して待ち合わせているわけでもねえし。
それに、こんな時間に電話したらルームメイトに悪いような気がする。
ちなみに日向のルームメイトはサッカー部とは縁遠い奴らしく、おまけに日向のことを恐がっているので、夜遅くに窓から脱走しようが何しようが我関せず、な、「いい人」なのだそうだ。

・・・・・・・・ってゆーか、俺携帯持って出てきてねえじゃん・・・いつも・・・。

(・・・・しかたねぇな・・・。)
俺はいつもとは反対の方向に走り出した。
約束してるわけじゃねえけど、やっぱりちょっと気になる・・・。
くそう。なんかムカつくぜ・・・。連絡くらい入れやがれ。

なんか、今、俺って矛盾してるな・・・とか思いながら、寮の裏手まできた。こちら側から二階の日向の部屋の窓が見える。
雨どいに足を引っ掛ければ、すぐに塀の上に辿りつけると言っていた。
「・・・・・・・。」
窓はカーテンがひかれ、その隙間から僅かながら光が漏れている。
消灯時間、とっくに過ぎてるのに。何してんだ・・・

しばらく待ってみたが、俺は来ないと判断して一人で走り始めた。


いつもと同じ道。
でもいつもと違う道。



冬特有の冴えた空気が頬を撫でていく。
無機質な外灯の明かりと葉ずれの音をいつもより敏感に感じる。

置いていったのは俺なのに。
自分だけ置いていかれたような、仲間はずれにされたような。
・・・そんな、気分だ。

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