『happy man?2』 1

そう、おれは大きい松山との甘い恋よりも、小さい松山から貰うパスの方を取ったのだ。

取ったのだ…けど…。

「日向…センパイ?」
「まままま…つやま?!」

目の前にいるのは、潤んだ目でおれを見上げてギュッとしがみついている小さい松山…。
戻った…のはいいけれど…この状況は…?と思って、よくよく見ると、
松山のシャツはちょっとよれっとしていて、足の間のそれは…半分立っていて…

―あっちのおれ…一体何してくれてんだ〜〜〜〜〜〜!!!!!

思わず目を逸らしたけど、あまりの衝撃映像に動悸がオカシイ位高鳴っていく。
それは、大きい方の松山との行為を思い出してなのか…
はたまた、目の前の尋常じゃない状態の松山を思ってなのか…
とにかく、安心したように涙を流す元の小さい松山。
その頭を撫でながら、思わず天を仰ぐしかないおれなのだった。

遠くにはカラスの鳴き声がしていて、空は夕焼け空。
絵に描いたような夕暮れの風景が、青春まっただ中…ということを表してるようだったけど…。

「…小次郎、ちょっと」
「なななな…なんだよ?!大体、何でお前先輩を呼び捨てなんだよ」
「今更何言ってるの?この間から変だ変だって思ってたけど…
僕の警告忘れたとは言わせないよ?」
「…警告?」

忘れた…というか、多分それを聞いたのは別世界のおれだ。
あっちのおれは、こっちの皆に正体をばらしてなかったんだろうか??

「松山になんかしたら、生まれてきたことを後悔させてあげるって言ったことだよ?」
「な…何かって!!!何のことだよ」
「エッチなことだよ」
「そ…そんなこと…するわけねーだろ?!」
「……どうかな?松山の様子が変だと思わない?
君をボーっと見てたり、かと思うと急に赤面したり…
君が何かして松山を誘惑したとしか…」
「し…しねえよ!!!」

と、否定してみるけど、確かにあの目は“別のおれ”を好きだって言っていた、“大きい松山”の目と同じ。

―松山は…“別のおれ”を好きになってしまったのだろうか?

だって、急にあいつがおれを好きになるなんて考えられねえし。
そう考えると、何だかムシャクシャして…
無人のゴールに思いっきりシュートを放ってしまった。
勿論、それはネットを突き破り、
フェンスに穴を空けるに十分な威力をもっていたのだった。

「思いっきり蹴るのは若林君か若島津君がいる時か、
試合の時って誓約書を書いて貰った筈だけど?」
「…すみません…」

ちょっと、怒っている小泉さんの顔を見ることも出来ず…小さく俯いてしまう。

「何か…あったの?」

いつも通り優しい声。
家族のように好きな、小泉さんの心地よい凛とした声。

「いえ…スミマセン。おれの不注意です」
「まあ、たまには思いっきり蹴りたくなるわよね。今回はいいわ。
今日は遅いから、早く寝なさい。明日もハードよ?」
「…はい、すみませんでした」

そして、部屋に帰ると…

「日向…センパイ///」

バタン…っと思わずドアを閉めてしまう。
な…何で松山が…?!まさか、同じ部屋なのか…?!
しかも、何て表情でおれを見るんだ…

「松…山?」
「あ…あの…さっきのことは…」
「い…いや、もう気にするな」
「でも…」
「忘れろ」
「でも、おれ…」
「いいから、忘れろ」
「忘れられるわけ、ありません!!!」
「?!」

初めておれに対して強く言う松山に、一体どう接していいのか…
情けないことに、今度はおれがしどろもどろになってしまったのだった。


「お前に何かしたおれは…おれじゃないんだ」
「?」

苦肉の策…というか、策も何も本当のことをそのまま言うと、
松山は文字通りきょとんとした顔をした。

「だから…別世界のおれと入れ換わってたんだ」
「日向…センパイ?」
「…ホントだぞ?」

そうして、向こうの世界で会った大きい松山とか(ついでに大きい岬とか)の話をする。
あっちの世界では同級生で、選抜メンバーに選ばれていて、
すっげえいいパスを出しているとか…。
事細かに話したら、少し黙って考え込む松山。

「日向先輩の言うことならば…おれ、信じますけど…」

…ホントに、素直だよな。
自分に手を出した人間が、“あれはここにいるおれじゃない”と言っている。
そんな逃げ口上のような言葉を、信じるこいつが可愛かった。
少しだけ胸を痛めながら、言葉を続ける。

「ごめん…な、お前、“あっちの世界のおれ”を好きになったのか?」
「え?」

目線を上げて、真っ赤に染まる顔。

「違…います。でも、日向先輩に初めていいパスを送るおれが…おれじゃなくて
“もう一人のおれ”って思ったら…何か悔しくって…」
「松山…」
「でも…どうして、そんなことを?」

小さいだけで、その目つきも顔立ちも全くあっちの松山と同じこの松山。
このままだと、おれは代わりにしてしまいそうな気がして…

「おれが…あっちのお前を好きになったから…だ」
「え?」

今度はおれが真っ赤になりながら、そう告げる。

「だから…お前があっちのおれを好きになるってことも…有るかなって…って?!松山?」

驚いたことに、松山はポロポロと涙を流し始めた。
どうした?とか、お前のことじゃないんだから、気にするな?とか、
思いつく有りっ丈のことを並べてみるのだけれど…松山は泣きやまず、

「気に…しないでください」

それだけ言ってベットに入ったのだった。
風の音がやけに耳に響いて…何だかそれがおれを責めてるような気がして…。
茫然と立ちつくした後、我に返る。
そして、一体どこに松山が泣く理由があったのか…
自分の言葉を思い返してみたけれど、ちっとも見当がつかなかったのだった。


(続く)


haruharu様より頂きました!!
あの続きです!!!しかも(小)の方ですよ!!
もおおおっっ 日向さんの鈍感ちゃん!!!(笑)
こちらのみさっくんも大好きです〜っっ

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