『happy man? 2』2

翌日、自慢じゃないが誰よりも早いおれよりも早く、松山はベッドを出て練習に励んでいた。

「無理…すんなよ?」
「…はい」

何故だか、罪悪感に駆られておずおずと話しかけるんだけど、
松山は返事をした後、また、地面を見つめて練習を始めた。

そうして…夕方。

「松山!」

三杉の声が響いたと思ったら、松山がグラウンドに倒れる姿が目に入ったのだった。

「睡眠不足と…空腹…ってとこかな?」
「へ?」

三杉はそう答えた。

「医務室の先生はどうしたんだよ」
「今日は午後からちょっと、出張でね」
「…お前、アテになるのか??」
「…なってるだろう?」

不審な目線を向けてみたが確かに他にどうしようもない。
納得がいかなかったけれども、応急処置位は出来るんだろう…。
そう思って視線をちょっと逸らしてみると、
その横では岬が小さな腕を組んでおれを凄い目で睨んでいた。

「な…何だよ?なんでおれを睨むんだよ?!」
「小次郎が同室なんだし、僕達よりお兄さんなんだから…
ちゃんと、松山のこと見てないとだめじゃないか!」
「う…」

岬の言うことは最もだったけど…寝てない…なんて、気がつかなかったのだ。
実は自分だって倉庫で見た松山の姿が目に焼き付いて…随分遅くまで眠れなかったんだけど。
それに、食事はいつもタケシとか岬とかの中学生組と摂ってたハズ…。

「どうやら…夜中の3時から、朝までずっと練習してたみたいだね」
「え?」
「松山が、君に話があるそうだよ?」
「…おれに?」
「ん、だから、岬君?ミーティングもあるし一緒に出よう」
「え?でも…小次郎と松山を2人には…」
「大丈夫。日向だって獣じゃなくって実はちゃんとした人間なんだから」

そう言われて、渋々…というように出ていく岬。
三杉の言葉に若干カチンと来たけれど…それよりも、松山の事が心配だった。
それに…

「おれに…話ってなんだ?」
「……」
「大体、何でそんな夜中に練習してるんだよ?
自己管理位、中学生だって出来るだろ?」
「……」
「松山!」
「悔し…かったんだ…」

松山はまるで自分に言い聞かせるようにポツポツと話し始めた。

「おれは…何年も何年も…日向先輩に追いつこうと必死だったのに。
別の世界のおれは…たった、数日一緒に居ただけで…
先輩にパスを送れて…それに…認めて…貰えて…
そう考えたら…眠れなくって、飯も食えなくって…
気が付いたら、ボールを蹴ってて…」
「松山…」

保健室のカーテンがエアコンの風にゆらゆらと揺れていた。
松山の前髪が風に揺られて、額を顕わにする。
気がつけば、繋がっていた眉毛はいつの間にか離れていて…。
少しだけ、この松山も大人に近づいていることが感じられた。
おれは…酷いコトを言ってしまったのか?

「先輩が、大きいおれを好きになっちゃったなら…
どうしたって、おれにそいつを重ねるでしょう?
おれが、どんなに必死でボールを送っても…
どんなに必死であなたに認めて貰いたくっても…」
「松山…」
「おれ…」

そう言って、涙ぐむ。
でも、こぼれ落ちるのを必死で堰き止めるように…上を向こうとする。
胸が詰まるって、こういうことかって…。
そう思った時には小さな体を抱きしめていた。
松山は一瞬驚いて、でも、目を閉じた。
その瞬間、涙が頬を伝って遂には落ちたのだった。

「おれは…お前を選んだんだよ」
「え?」
「大きい松山と…その、おれはセックスしようとしたんだ」
「?!」
「分かる…だろ?」
「でも…男同士で…」
「ん、出来るんだ…男同士でも」

松山は見る見るウチに頬を染めて、恥ずかしそうに目を逸らした。
そんな仕草に動悸が激しくなってくる自分が分かった。

「でもな」
「……」
「その時、お前がしつっこくいつも言ってる言葉が耳に付いたんだ」

―日向先輩に、最高のパスを送ること!

「日向先輩…」
「そんなことしたら、お前が悲しむんじゃないかって…
そう、思ったんだよ」

今度はおれが真っ赤になってるのを感じながら…それでも、そう告げた。

「だから、おれはあっちの松山より、お前を選んだってことだ!」
「日向先輩…」

そうして、もう一度その体を抱きしめた。
大きい松山と違って背中に手を回したりしなかったけれど、
松山はTシャツを必死で掴んで応えようとしていた。

代わりにしてしまうかもしれない。
何となくそんな罪の意識を感じながらも、その体を離すことは出来なかったのだった。

「日向さん」
「お、おお…なんだ?」
「どうしたんですか?」
「何が?」
「いや、何だかニヤニヤしてますよ?」

ニヤニヤ…?
反町までも若干ニヤニヤしながら、そう言った。

「何かいいことあったんですか?」
「べ…つに、何も…」

何も、ない…よな?
昨日、松山と仲直りした位で…。
そうどちらかというと、松山を大きい松山の代わりにしてしまいそうで、
悩んでる…という方が正しかった。

「松山…すっごい日向さんに熱い目線を向けてますね」
「…え?」

驚いて聞き返すと真剣な表情で言葉を続けた。

「もう、他人の奥さんになっちゃった人よりは、
男同士でも自分を好きになってくれるヤツのほうがいいんじゃないですか?」
「な…何を…?」
「昨日、医務室で一緒になってからですよねv襲っちゃいました?もしかして」

しどろもどろになっている姿を見て正解と判断したのか、中々の核心を衝いてきた。
恐ろしい…。
でも、もしかしたら、正確な答えをこいつなら出せるのかもしれない…。
そう思って、大きい松山のいる世界に飛んだことや、その松山を好きになってしまったこと。
こっちの松山を代わりにしてしまいそうなことを話してみた。
さすがの反町も驚いていたようだったけれど、目をじっと見て嘘ではないと判断したようだった。

「日向さんがそんなに真剣に言うなら本当なんでしょうけど」

いや、本当だけど、こんな突拍子もない話を信じるものなのか…。
信頼されてるのは知っていたけれど、ここまでだと、若干不安になってしまう。

「でも…」
「何だ?」
「その…“大きい松山”が好きって気が付いて、
小泉さんのことは恋愛じゃないって思ったんですよね?」
「…そうだ」
「で、大きい松山とやろうとした途中に、小さい松山を思い出して止めたんですよね」
「やるって…まあ、そうだ」

そう言うと、まじまじとおれの顔を見て次の瞬間プッと吹き出した。

「な…何だよ?」
「それって…おれには小さい松山を大きい松山を重ねてるんじゃなくって…
その逆のように聞こえますけど?」

・・・・・・え?

「ど…どういう…?」
「だから、大きい松山を好きになったんじゃなくって、
大きい松山の中にある、こっちの松山の面影に魅かれたんじゃないかってことですよ」

・・・・・・えええええええ?!

パニックになったおれに
「まあ、それがホントかどうか分かるのは日向さんだけですけどね」と言い残してヤツは去って行った。。

―おれが、松山を元々好き?!

「日向さん!!」
「うおおおおお!な…なんだ????」
「パス練、付き合って頂けますか?」
「お、おう…」

何だかもう…突拍子もないことばかりで動揺を隠せない。
でも、反町の言葉を思い出して…まともに松山の顔を見ることが出来なくなってしまったおれなのだった。


(続く)


松山(小)かわいすぎるやろーーーーっっ
惚れてまうやろーーーーっっ
はあはあ…
ウブな松山にドキドキしつつ、日向さんの今後の動向を見守りましょう。
頑張れ!!(?)日向さん!!



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