『happy man? 2』3
「へえ…日向さん、そうだったんですか」
「どうやら、そうらしいね」
「?!」
練習を終えて、食事も終えて、風呂の支度をしようと部屋に戻る途中、
おれの背後でしゃべる声がした。
若島津と三杉だった。
「お前ら…人間らしく気配というものを出せ!」
「岬君が何ていうかな…というか、岬君が何をするかな…」
「…なんのことだ?」
「反町から聞きましたよ」
―あ…あの、お喋りが〜〜〜〜〜!!!
「僕がどうしたの?」
「ああ、日向が松山を好きだって…「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」
「何だって?三杉君」
「違っ!!!違えよ、あいつが勝手に勘違いしただけで…」
「小次郎?松山のこと好きなの?」
違う…おれが好きなのは…意地っ張りで、でも、堪らない目つきをする、あの…大きい松山…のハズ。
そうだ、こっちの松山のことは…純粋に、後輩として可愛いだけであって…。
「好き…じゃねえ…」
「ホントに?」
「おれは…松山のことは後輩としてしか見てねえ!!!」
そう叫ぶと、廊下の曲がり角の先でガタンと音がした。
「誰だい?」
「お…おれ…」
「松山…」
岬が驚いたように名前を呼ぶ。
そこにいたのは松山だった。
「あ、いえ、当たり前のことじゃないですか?おれは日向先輩の後輩ですよ?
今更…」
そう言う肩が震えていて…おれ達は全員、松山を傷つけてしまったことに気が付いた。
誰が見ても、松山はおれを好きで…。
疎いおれにも分かる位で…。
無自覚かもしれないけれど、そんな松山に“ただの後輩”と言ってしまった。
岬までもがさすがにすまなそうに、おれの顔を見て松山の後を追って行った。
残された若島津と三杉はやっぱり心配そうだったけど、それよりはおれを責めるような目線を向けてきた。
「…子供…ですよね、ホントに」
「…ああ、想像以上にね」
「……何が言いてえんだよ」
「それ位、自分で考えてください」
そんな2人の台詞にモヤモヤした思いだけが胸に残って…。
思わず廊下の壁を思いっきり叩いてしまったのだった。
「何だってんだよ…ちくしょう」
誰に向けるともない言葉が、思わず口を吐いてしまった。
それから数日。
松山はいつも通りに練習に参加して、いつも通りに話しかけてきて、
いつも通りに少し赤くなった顔でおれを見て…。
でも、あからさまに“おれのことを好き”っていう瞳に…。
申し訳ない気持ちと同時に、嬉しいような、くすぐったいような気持ちが沸き起こる。
慕われているのは嬉しいよな…って、言い訳をするように先輩面をする。
そうして、罪悪感は日増しに大きくなっていった。
それは、こいつに応えられないからなのか…
…それとも?
「松山?」
「日向…センパイ?」
そんなある日、午前中の練習が終わって部屋に戻ると松山が私服に着替えていた。
手に持っていたのは…黒いハチマキ。
「どうした?」
「日向先輩…おれ…」
「だから、どうしたんだよ?」
「空港に…行かないと…」
「え?」
「マネージャーが…イタリアに行ってしまうんです」
「マネージャーって…中等部のか?何でまた、急に…」
手に握られたのは、黒いはちまきに黒い糸で描かれた文字。
目を凝らさないと見えないけれど…紛れもなくそれは、愛の告白。
合宿前に松山に渡したというマネージャーは、今日転校するということで…
それで空港に行くのだと言った。
その言葉を聞いて…何故か気がついたらその手を掴んでいた。
「…離して下さい!!」
「お前は…好きなのか?下手に行って期待させるのは余計残酷だろ?」
「あなたには関係ないじゃないですか?!
それに…好きな人に気付いてもらえないのは…辛いって…おれ…」
「そんなのただの同情だろ?!」
「少なくとも…」
「え?」
「あいつはおれを好きでいてくれてる…
日向先輩とは違う!!」
―大きい松山を好きになったんじゃなくって、
大きい松山の中にある、松山の面影に魅かれたんじゃないかってことですよ。
反町の言葉が耳に響いた。
あの、大きい松山の潤んだ目も、少し頼りない表情も、おれを見る好きだって瞳も…。
何もかも…この松山と一緒だった。
そして…おれははっきりと、松山にそいつの元に行って欲しくないって…その時気が付いたんだ。
「?!」
「…行くな…」
「…せんぱ…」
「行って…欲しくねえんだ」
背中越しに抱きついたその体は小刻みに震えていて、
ずっと、最初っから潤んでいた瞳から涙が零れるのが見えた。
子供の体温なのか、少し高いその熱。
まだ、成長しきってないその体が、愛おしくって堪らなかった。
「…好きだ…」
「…うっ…」
「…ごめん、今、気が付いた」
そう言って、キスを落す。
暫くするとその手から黒いハチマキが落ちて…松山は漸く何をされてるのか気が付いたようだった。
「あああああ、あの…お…おれ?!」
「うるせー、黙ってろ!!」
今度はちゃんとしたキスをすると、苦しいのか胸を叩いて逃れようとする。
「息…」
「え?」
「鼻で、すればいい」
そう言って、もう貪るようにキスを落すと段々と力が抜けてきて…
背中に必死で手を回してきたのだった。
翌日。
「松山が…泣くよりはいいけど…」
と、非常に渋々と岬は体を震わせてそう言った。
「え?!何だよ?岬…おれは別に…!!」
「小次郎!!」
しどろもどろに弁明しようとする松山を遮って、岬はおれの名を呼んだ。
…ホントに、外見だけは可愛いんだけどな…と思ったのは松山には内緒だ。
「なんだ?」
「とにかく、松山がオトナになるまでは許さないからね!」
「な…何がだよ?」
「だから…エッチなことだよ!」
「ぶわっ…!!あ…たりめえだろ?!」
横を見ると松山は相当真っ赤になって俯いていた。
その姿があまりにも可愛くって…。
「当たり…前だろ?」
今度はかなり自信なさげになってしまった言葉が、岬の怒りに油を注いでしまって…
付け加えるならば、松山の信頼のようなものも微妙に損なってしまったようだった。
何故なら…
「三杉先輩…部屋…変えてください!!」
その夜、松山は三杉にそう嘆願したからで…。
勿論、面白がっている三杉がそんな要求は却下したのは火を見るより明らかなわけだけれど。
(完)
haruharuさん、続き!!(鬼)
みなさんも気になりますよね?!!(悪魔)
黒いハチマキっちゅーとこがまた素敵ですなあ。
ちなみに、こちらはマネ子ちゃんではなく、マネ男くんだそうですよ☆
私の脳内ではタケシのような小坊主が洗濯してるんですけどっっ(笑)
haruharuさん、お忙しい中素敵小説本当にありがとうございました〜っ
大好きだ〜〜っっ