(…部活、無断欠席しちゃった…)
俺はベッドに潜り込み、頭から掛け布団を被った。
(あの言い方じゃ、もし女の子だったらどうとかじゃなくて…)
そう… 単純に『人としてキライ』って言ったようなもんだ。
「…はあ…」
最悪…
聞こえてたよな。絶対。聞こえてないはずないもん。
「ただいま…」
扉を開ける音がして、若島津が帰ってきた。
あれから、どのくらいの時間が経ったのか…
部活が終わったってことは、2時間以上は経ってるんだろう。
ベッドの中でぐるぐると色々なことを考えていたら、あっという間に時間が過ぎていた。
「反町?」
「…おかえり」
「なんだ、起きてるのか。」
電気つけるぞ、と言って、若島津は部屋の電気をつけた。
辺りが急に明るくなって、全てを晒されたような気がして…俺は再び布団を被った。
「監督に体調悪いから休むって言っておいたぞ。」
「…うん。ありがとう。」
「…反町」
若島津が近づいてきて、俺のベッドのすぐ横に腰を下ろす。
俺は背を向け布団を被ったまま、若島津の顔を見れずにいた。
「ごめんな。」
「…え?」
思いがけない言葉に、俺は面食らった。
布団を撥ね退け起き上がると、若島津が申し訳なさそうな顔で俺を見ている。
「…なんで?」
なんで若島津が俺に謝るんだよ。謝らなくちゃならないのは、俺の方なのに…
「俺、勝手にお前は俺のことわかってくれてるんだと思ってた。
だから、あまり色々なこと言わなくてもいいんだと…
言わなきゃわからないことだって、たくさんあるはずなのにな。」
「……」
「お前は頭がいいし、察しもいいから… 言わなくても、俺のことを理解してくれているんだと」
すまない、と若島津は頭を下げる。
俺はどうしようもなく自分が情けなくなって、ベッドから這い出ると若島津の前に正座した。
「ねえ、謝るのは俺の方なんだよ?」
「しかし」
ああ。
俺はなんてことを言ってしまったんだろう…
こんなにも優しい友人を傷つけてしまうなんて。
「俺、さ。島野にあんなこと言われると思ってなくて…
ちょっとびっくりして、勢いであんな酷いこと言っちゃって…」
「反町…」
「本当にごめんっっ」
床に頭をつく勢いで謝ると、若島津は慌てて俺の肩のあたりを掴んだ。
「やめてくれっ そんな… 頭を上げろ反町」
「…いや。だって…」
「俺は本当に反省したんだ。俺はお前に甘え過ぎていたんだ。
何を考えてるかわからないって言われても仕方な」
「だから!!!違うんだよ!!逆なんだって!!」
若島津はぽかんと俺の顔を見た。
「…逆???って、何だ???」
「何考えてるかわかんないとこが、お前らしくて、俺はそーゆーとこが好」
そこまで言って、思わず口を噤んだ。
俺にとってのこの『言葉』は、若島津の思うその『言葉』同じなんだろうか?
いや、それ以前に… 若島津は、若島津は…
「…そり まち?」
「あの、さ…」
いつもの寮の部屋で、向かい合って、俺、何てこと聞くんだろ…
でも…
知りたい。
お前の気持ち。
それから
俺自身の気持ちも。
「健ちゃんて、俺のこと 好き なの?」
「////////」
ぶわっと顔が真っ赤になった。
それ… その反応はマジ反則だと思う…
「なっ だっ いやっ そ、それはっっ///」
だから〜っ その反応!!!
いつものポーカーフェイスはどこいっちゃったんだ!!
「日向さんに聞いたんだ。お前が俺のこと好きになって、結構悩んでたって…」
「ひゅ… ひゅーがしゃんっっ」
「噛んでるよ。」
「……ちょ、ちょっと、たんま。」
若島津は自分のほっぺたをむにゅむにゅやって、二回パンパンっと叩いた。
それからあらためて俺の方を見る。
その顔の真剣さときたらなくて。
逆に俺はなんだかそんな若島津が可愛く見えて、急に肩の力が抜けてしまった。
「どうしたらいいだろう?」
「…って、俺に聞くなよ。」
「いや、だって俺、全然言うつもりなんてなかったのに…。」
まさかの展開だ…と若島津はぶつぶつ言った。
「しかし、もう今更だな。」
「今更だね。」
「反町。好きだ。俺と付き合おう。」
「そうしようか。」
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!?」
寮中を、この健ちゃんの叫び声が響き渡ったに違いない。
若島津は漫画みたいに、2メートルくらい後ろに飛んで尻もちをついていた。
「おまっ… 自分で何を言ってるのかわかってるのか?!!」
「わかってるよ。いいよって返事したんじゃんvv」
「…お前の方がよっぽど、何を考えてるのかさっぱりわからん…」
だって、全部本当なんだ。
若島津のこと、可愛いって思ったのも。
気になって、ずっと目で追っていたことも。
どんなに綺麗な子から告られても、付き合う気になれなかったことも。
ずっと自分の気持ちに正面から向かい合えずに逃げていたけど…
「健ちゃん」
「お、おう?」
「キスして欲しい。」
「っ…//////」
お前は本当に何を考えてるのかわからん…とか言いながら、
若島津は俺に優しいキスをした。
(完)
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