「じゃあ、北海道はどう?」
笑顔でそう言う恋人の言葉に、三杉の頭をあの男の顔が過った。
「…いや、よそう。」
「え?」
「いっそ、海外なんてどうかな?」
三杉の恋人、青葉弥生は長い髪を耳にかけながら小首を傾げる。
「珍しいこと言うのね。淳。海外嫌いなくせに。」
今まで海外なんて行きたがらなかったじゃない、と言う。
確かに、潔癖症な三杉はどうしても行かなくてはならない場合ーサッカーの試合などー以外は
実はほとんど海外に行ったことはなかった。
弥生が訝しがるのも無理はない。
「ま、いいけど。」
肩をすくめ、それ以上追及しないことを決めたらしき彼女は、目の前の紅茶を上品に口に運んだ。
窓の外には三杉邸の広大な庭が広がっている。
時期的に花は少なく、天気のせいも相まってかどこか淋しげに見える。


(…どうして…)
テーブルに置かれた旅行のパンフレットに目をやる。
『北海道』と赤い大きな字で書かれたそれは、澄んだ青空とラベンダー畑の写真が表紙になっていた。
彼がいる場所。
別に旅行に行ったからと言って、彼に遭遇するわけじゃないけれど…
(探してしまいそうで、コワイ。)
思わず苦笑いした。

こんなことは許されない。
だって、僕は「三杉淳」だから。
フィールドの貴公子でサッカーの天才で医大に通うセレブな三杉家の長男、なのだから。







松山がミーティング室の横を通った時、まだ電気が煌々とついていた。
多分…と思って、自動販売機で飲み物を2つ買い、帰りに思いきってミーティング室のドアを叩いてみた。
「はい。」
聞き慣れた声の返事に、松山はほっとしながらドアを開ける。
蛍光灯の白い明りの中、予想通り、そこにいたのは三杉だった。
「おつかれさま。まだやってるのか?」
「…松山…」
松山はパイプ椅子をひいて、三杉の隣に腰かけた。
「はいこれ。」
「え?」
「ほっとレモン。飲める?」
言いながら、松山は三杉にそれを差し出す。
「飲めるけど… いいのかい?」
「うん。三杉がいるんだろうな〜って思って買ってきたんだし。」
他にもいなくて良かった、と笑いながら言った。
「…悪いね。ありがとう。」
「いや」
机の上にはパソコンと膨大な資料。
相変わらず、真面目だな〜と思いながら、
松山は三杉の前に置かれたパソコンの画面を覗きこんだ。
「これ、新しいフォーメーション?って、俺の名前がないいい!!」
思わず大声で叫ぶと、三杉がすかさず「しっ」と人差指を口にあてた。
「これは1つの案だよ。他にいくつもあるんだ。」
「あ、そうなのか?」
「相手によっても替えるし、怪我したり退場になったりすることだってあるだろ?」
まあ、滅多にあっちゃ困るんだけどね、と笑いながら言った。
「…うん」
見慣れた、三杉の横顔。
の、はずなのに。
「…三杉ってさ」
「うん?」
「すげー、綺麗だよね。」
「っ…///」
目を大きくして、ばっとこちらを見た三杉の顔は真っ赤で…
滅多に見たことのない表情だったから、松山は自分の方が驚いてしまった。
「っ… え?!あ、ご、ごめんっ」
「…いや…///こっちこそ…」
「俺、なんか、変なこと言ったかな?」
「…言っただろ?」
え…変だったかな… と松山は呟いた。
やれやれ…と、三杉は小さくため息をつく。
天然で、こういうこと真顔で言うんだから困る…
というか、こういうことを軽く流せない自分も…結構、困る…
「だって、三杉、やっぱり綺麗だと思うし…。俺、お前の顔見てるの、すげー好き。」
「あのね、松山…」
「ずっと見ていたいって思う。」
「……」
どういうつもりなんだろうか、この子は…
僕が君に、どんな感情を抱いているかなんて知らないくせに。
そのせいで、僕がどれほど思い悩んでいるかなんて、知らない…くせに…
「松山」
「ん?」
「顔だけ褒めてないで、もっと中身も見て欲しいな。」
「え?!あ、ごめんっ 俺別に、そういうつもりじゃ…」
「…僕は…」
三杉の手が、松山の手を掴んだ。
徐々に近づいてくる顔。
松山は動けず、数回、目を瞬かせた。
「み すぎ?」
「僕は、君のことが…」

僕は「三杉淳」だから。
こんな、道をはずれるようなことは、許されない…

重ねられた唇。
触れるだけのキスはあまりにも優しくて甘くて…
「… 三杉」
「っ… す、すまない///」
三杉は弾かれたように松山から離れた。
「すまない、松山… どうかしていた。忘れてくれたまえ…」
「……」
俯いた三杉を、松山はその大きな黒い瞳でじっと見つめていた。
そして小さく首を横に振り
「やだ」
「…え?」
「俺、忘れたくない…」
そう言って、三杉の身体を優しく抱きしめた。


(ああ…)
胸の内が熱くなる…
三杉も心のままに松山の背に手を回す。
許されない、許しちゃいけないんだ松山…

これは、罪だ。

「松山… 好きだ…」

自分自身が作り上げた「三杉淳」が、音を立てて壊れていく…
(もう、止められない…)
そう思いながら、松山の唇に再び自分の唇を重ねた。

そう。
これは罪な恋…


(完)

haruharu様に捧ぐ、淳松でした。
なんか、重い;;
今まで松淳しか書いたことがなかったので、新鮮でしたv
もっと明るくて笑える淳松も書いてみたいな〜vv

淳様と言えば、仮●ラ●ダー ディ●イドに出てくるディ●ンドが淳様口調でナイスです。(マニアック。)


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