*表においてありますがR18です。自己責任でお読みください。
*続きですが、三杉目線で書かれています。



長い、長い、キスだった。
欲しても欲しても得ることができなかったものが、
いや、得ることを諦めていたものが… 今、手の中にある。

(松山っ… 松山っ…)

唇を重ねているだけでは物足りなくなって、僕は舌を差し入れた。
松山はそれにも応えてくれて… 
人が来るかもしれない、なんてことは頭の中から消え去るくらいに、抱き合って、濃厚なキスを交わして。

「?!!」
突然、机の上に置きっぱなしになっていた携帯が震えた。
僕たちはその音に、思わず弾かれたように身体を離した。
「…すまない。」
「……」
松山は黙ったまま、首を横に振る。
それから小さく笑って
「このままだったら、なんか俺、いつまででもずーーーーっと、こうしてたかもしれなかったし。」
と言う。
僕も「そうだね。」と返すと、松山はまた笑って「だろ?」と言った。
何気なく携帯を見れば、

   青葉 弥生

「電話、出なくていいのか?」
「メールだったから。」
「誰から?」
「…友達。」
「…ふうん。」
我ながら、嘘が下手だな、と思う。
松山だって、僕の口から「友達」なんて言葉が出るのは不自然だと思ったに違いない。
それ以上は追及されなかったけれど。
「そろそろ部屋に戻ろう。僕ももう戻るから。」
「うん。」



ーーー始まりの予感がした。
    …いや、むしろ、終わりの予感、なのだろうか…



松山は自室の前で止まると、「おやすみ。」と言って僕の頬にキスをした。
僕はこれまでにない最高の幸福感を味わいながら…
少しずつヒビが入り始めた「三杉淳」を、まるで他人のように眺めていた。







実のところ、僕と弥生は婚約者同士でありながら、性的な関係はなかった。
小中高とお嬢様女子校に通っていた弥生はそんな情報はほとんど入ってこなかっただろうし、
僕もそういうこととは遮断された環境に育ってきたから。
しかも不幸にも僕自身が作り上げたのか、それとも周りが作り上げたのか分からないが(両方か?)
勝手に『興味がなさそう』とか『怒られそう』とか言われて敬遠されてしまった…
確かに、反町や井沢あたりがこっそり持ち込んでいるエロ雑誌だのAVだの、
僕が直接見つけたら怒るだろうけど、だろうけどもだ!!!
こんな機会滅多にないんだから仲間に入れてくれたっていいじゃないかーーー!!!
…と、本当は声を大にして言いたい。
とにかくそういうわけで、僕と弥生の間には何の疑いもなく
自然と「結婚するまでは」という約束事が成立してしまったのだ。
で。
何故僕がこんな話を長々としたかと言えば…

「っ… み すぎっ… あっ///」
「… 松山 ここ、気持イイ?」
「んっ… 」
まさかそんな僕が、松山とこんな関係になるだなんて…

そう、これは、大学デビューというやつだ。
松山も基本奥手だったから… 僕も松山も、サッカーサッカーで育ってきたけど今はそーゆーお年頃で、
父親が「自由に使っていい」とマンションの1室を用意してくれたから(本来は弥生君と、ということだったと思うが)
それでお互い隠してきた想いが通じ合っちゃったときたらそりゃあもう、

 やるしかない

と、なったわけ… と、僕の口から言うのも恥ずかしいけれども。
松山と会うのは一ヶ月に一度あるかないか。
地元北海道のJリーグチームに所属する松山がアウェイの試合が関東方面である時か、
代表がらみの集まりや仕事がある時。
合宿中に初めてキスをしてから、次に会った時にはもう、僕も、多分松山も…そういうつもりでいた。
一刻も早く、そうしたいと思っていた。
それは…
心のどこかで「この恋は期限付きだ」と分かっていたからかもしれない…。


「ねえ…松山」
「んー?」
事が終わってシャワーを浴びて、裸のままベッドに横たわる松山の濡れた髪をそっと撫でる。
松山は小さく笑って、僕の手の甲に頬を摺り寄せてくる。
まるで猫みたいだな…と思う。
「もう一回したい、なんて言ったら、怒るかい?」
「怒らないよ。何で?」
「そりゃ試合があった後だからね。疲れているかと思って。」
「…いいよ。明日帰るの夕方だし。昼まで寝かせてくれる?」
その答えに、僕の頬は思わず緩んだ。
コーチの立場から言えば、本当はしっかり休ませてあげなくちゃいけないんだろうけど。
松山は、僕の前ではすごく甘えん坊になる。
それがまた、かわいくてかわいくて仕方ない。
「それで、朝昼兼用のご飯はパスタ作ってvv」
こんなにかわいい松山を、代表チームの誰が想像できるだろう?
真面目で、面倒見が良くて、みんなから慕われているしっかり者の松山が
僕の前だけは小さい子供のように、子猫のように、甘えてくれる。
そして僕にとっても、そんな松山を甘やかすのが堪らなく愛しい時間なのだ。
「いいとも。ペペロンチーノ?カルボナーラ?ミートソース?トマトとバジルとモッツァレラも好きだった?」
「んー カルボナーラ、かな」
「了解」
「っ んっ…」
深く、深く口づける。
よく子供に対して「可愛くて食べちゃいたい」と言うけれど、僕も今そんな気持ちだ。
甘い唇… 果実のようなかわいい乳首…
それから、ここも。
「あっ ///」
キャンディーでも舐めるみたいに、先端だけを口の中で転がす。
やがて滲んできた先走りをちゅっと吸って。
「美味しい」
「っ?! な、何、言ってんだっ みすぎの バカっ///」
「松山、自分で挿れてみて」
松山の身体を起こし向かい合わせに僕の上に座らせると、
僕の性器を掴んで、ゆっくりと、自分のナカに挿れていった。
「んっ… あ…」
さっきしたばかりだから、奥まで入るのにそう時間はかからなかった。
確かめるように抱き合って、またキスをして。
「松山の気持ちいいように動いて」
「っ… んっ… 」
松山は素直だ。
偽りのない彼を前にしたら、僕も不思議と飾らずにいられた。
心も体も、裸になれて。
「三杉…」

  ああ…
  君と一生一緒にいられたら、僕はどんなに、幸せなのだろう?

  他人に作られた、自分自身が作り上げた
  「三杉 淳」を
  捨ててしまえたら…

ーーーー 僕はこれが 『幻想』 だとわかっているのに

二度目のセックスを終えて、隣に寝転んでいた松山はすっかり眠ってしまっていた。
僕は松山の可愛い寝顔を見ながら、携帯に手を伸ばす。
「……」
恋人の名前を目にして急に現実に引き戻される。
松山を起こさないように静かにベッドを抜け出し、パジャマを着ると廊下に出た。
すでに深夜だったが…正直、自分の中で罪悪感もあって、僕は弥生に電話をかけることにしたのだ。
『もしもし?』
声のトーンからして寝ていたわけではないなと分かり、少しだけほっとする。
「すまない。少し立て込んでいて遅くなってしまった。」
『忙しそうね。相変わらず。』
「もうすぐ代表キャンプがあるから。」
『そう。』
いつから僕は、こんなに簡単に嘘をつけるようになってしまったんだろう?
しかも、代表キャンプがある、という真実を織り交ぜれば信じ込ませやすいだろう、なんて、
そんなことまで考えて。
「それが終われば、少し時間ができるから。ちゃんと埋め合わせするよ。」
『いいのよ。淳がサッカーに夢中になってる姿見てるの、私好きだもの。』
「…ありがとう。」
胸が、痛んだ。
弥生は、気付いていない…。きっと。何も。
『ほら、前に話した旅行の件。予約できそうだけどいいかしら?』
「……ああ。もちろん。」
『淳と海外なんて初めてね。楽しみにしてるわ。じゃあ、私もう寝るから。おやすみなさい。』
「おやすみ。」
携帯を切ると、どうしようもなく申し訳ない気持ちと、後悔でいっぱいになった…。
いっそ弥生に全てを打ち明けて、思いっきり罵られた方がどれ程マシか、何度そう思ったことだろう。
でも。

  僕にそれは、許されない。
  どれだけ嘘をついても、弥生に真実を話すことはしない。
  僕は「三杉 淳」で在り続けなければいけない。
  何があっても。
  僕が僕で在り続けるその代償に、最後に失うものは…

「……」
冷たい廊下の壁に背中を凭れ掛ける。
暗闇に続く廊下は、まるで、出口のないトンネルのように思えた。





寝室に戻ると、松山は静かに眠ったままだった。
「っ… みすぎ?」
「…すまない。起こしてしまったね。」
「体が、冷たい。」
起こさないようにそっとベッドに入ったが、あっという間に起こしてしまった。
松山は裸のまま、そっと僕を抱きしめる。
「…松山、風邪ひくよ?服着たらどうだい?」
「いい。それより… 三杉が脱いで?」
そう言って、松山は僕のパジャマのボタンに手をかける。
「裸で、抱き合って、眠りたい。」
「そんなこと言って。また僕がその気になったら責任とってくれるのかい?」
冗談まがいに言うと、松山は笑って「いいよ。」と答えた。
松山にされるがままに裸になって、直接肌と肌を合わせた。
彼はまた猫のように、僕の胸に頬を摺り寄せる。
「…松山…」
「何?」
「…もし、もしもだよ?」
「うん。」
「僕が彼女と別れて、君とずっと一緒にいたいって言ったら、どうする?」
「………」
松山はじっと僕を見つめて、それから首を小さく横に振った。
「………松山」
「できないよ。三杉。俺には… できない。」
「………うん。分かってるよ。ごめん ね。」
僕は…
二度としないだろう。この質問を。
君と別れなければならなくなる、その日まで。


  僕は「三杉 淳」で在り続けなければいけない。
  何があっても。
  僕が僕で在り続けるその代償に、最後に失うものは…




       君への 「真実の愛」






(完)

haruharu様に捧ぐ、淳松の続きでした。
淳様は悪者ぶれるけど、本当の悪者にはなれない人、ですね。
二人とも、そう遠くない未来には別れなくてはならないと分かっている、そんな切ねえ恋でござんす。
ちなみに弥生ちゃんは確実に気付いてますね。
絶対何も言わないと思うけど。
女はコワイのよ?淳様?
あ、でも淳様は弥生ちゃんのこともちゃんと好きなんですよ。

時々書くんですが、合宿で本当は僕も仲間に入りたいんだー!!と
心の中で叫んでいる淳様が好きです。(笑)


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