なんだかひどく喉が渇いて、一階のロビーにある自販機に向かった。
今日の地元高校生との練習試合も猛暑の中。
勝利をおさめたとは言え、さすがにみんなヘトヘトだったのだろう。
いつもならまだいくつかの部屋は明かりが灯っている時間だが、今日はキレイに真っ暗だ。
寝静まった宿舎の階段を降りていく。
パコン、パコンとスリッパの音が夜の闇に響いた。

ロビーの明かりもすでに落とされている。
薄暗い中、自販機のブーンという音だけが聞こえてくる・・・
・・・はず、なのだが。
小さな音で、何か人声のようなものが聞こえてきた。
そしてロビーのリノリウムの床にパカパカと光が反射している。
なんだ?テレビ見てんのか?誰か・・・
覗き込むと、ソファに人影が見え、確かにテレビがついていた。

「おい。」
声をかけると、影の主はビクンっと大きく身体を震わせて振り返った。
「松山。」
「なんだ、若林か。びっくりした。」
「そりゃ、こっちの台詞だろう。何してるんだ?こんな時間に。」
話しながら、俺はとりあえず自販機に金を入れる。
ボタンを押すと、必要以上に缶が落ちる音が大きく響いた。
「何だ?」
「今日の試合のビデオ。」
「今見なくても、明日みんなで見るだろう?」
「大勢で見ると何だかわけわかんねえじゃん。」
勝手に巻き戻しとかできないし、と、松山は言う。
俺は奴の隣に腰を下ろし、買ったばかりのスポーツドリンクを一口飲んだ。
「飲むか?」
「うん。もらう。」
松山は俺からペットボトルを受け取ると口に運んだ。

松山のことは嫌いじゃない。
どっちかと言えば好きな部類だ。
超個性派集団の全日本ジュニアユースのメンバーの中でもまともだし、いい奴だと思う。
仲間からの信頼も厚い。個人的意見としては、こいつが一番キャプテン向きだと思っている。
ただ、ちょっと、真面目すぎる部分はある。
サッカーに関して真面目すぎる分には一向に構わないが、冗談が通じないというか、融通がきかないというか・・・。
もう少し、練習以外の時は気を抜いてもいいと思うんだが。
まあ、それも持って生まれた性格なのだろう。

松山は何度かビデオを巻き戻したりしながら、時々俺に意見を求めてきた。
「俺さあ、ここはもっとDFが積極的にいった方がいいと思うんだけど。」
「そうだな。まあ、相手が高校生でガタイもでかくて、ちょっとびびっていたのかもしれない。」
「若林が止めたから良かったけどさ。ってか、やっぱ若林ってすげーのな♪」
開けっ広げな笑顔で誉められ、さすがの俺もちょっと照れくさい・・・。
はにかんだ笑顔で返事を返すと、松山はなんだかやけに嬉しそうな顔をした。

膝を抱え、ソファの上で体育座りしているような格好の松山は、なんだか妙に子供じみて見える。
同じ中学生でも、今はちょうど成長期真っ只中。
すでに大人の身体に近いガタイの奴らと、どっちかと言えばまだ小学生に近い奴らと分かれる。
当然、俺は前者で松山は後者。
脚とかほっせーもんな。
よくもまあ、こんなんで、あれだけのボールキープができるもんだ。
それに顔も意外とかわいらしいっつーかなんつーか・・・
・・・・・・・・・かわいいな。
かわいいなっ!!おい!!!

いやー、今気付いた。俺。
松山ってかわいいんだな。
今まで岬と井沢しか見てなかったからな。
南葛以外に目を向けていなかったぜ・・・。
しかもこの気の強さとのギャップがなんかツボだな。
付け加えるなら生真面目で何も知らなさそうなところがまたいい。
なんならこの俺様が恋のイロハもABCも教えてやろうか?!俺様色に塗りつぶしてやろうか?!
・・・って、オヤジか、俺は。

俺がくだらないことを考えてほくそ笑んでいる間も、松山は真剣な眼差しでビデオを見続けていた。
「あ。」
と、突然、松山が思いついたように俺を見て言った。
「なあ。この合宿終わったら、若林んち遊びに行ってもいい?」
「・・・・・え?」
・・・な、なにぃ!!そんなもん!どーんと来いに決まってんだろっ!!!
「同じ県内なんだろ?南葛の奴らから話聞いてさ、すっげー行きたくなったんだけど。
 折角飛行機乗ってここまで来たんだし、合宿だけで帰るのもったいねーじゃん。な、いいだろ?」
夏休みは長いんだしさぁ、と、甘えた声でねだる松山。
おいしすぎるぜ!神様ありがとう。遠慮なくイタダキマス。
「ああ。もちろん。なんなら泊まっていけよ。」
「まじで?!やりーっ」
やりーっ は、こっちだっての。かわいーなー。松山vv

あまりの松山のキューティーハニーっぷりに、俺様の悪戯な下心がむずむずしてきた。
「なあ、松山。俺んちに泊まるってことは、それなりの覚悟があるってことだよな?」
「なんの覚悟?」
「こういう言葉を知っているか?アルファベットの「 I 」の前には「H」があるってな。」
「ん?」
松山は何のことやら?という顔で俺を見た。
・・・・・・・・まあ、いいや。
「ああああ!!!瞼にゴミがついてるぞ?!松山!!」
「え??」
「取ってやるから目を瞑れ。」
「あ、うん。悪ぃ。」
すごいなあ。こんな古典的な手にもひっかかるんだなあ。岬にはバレたのに。(源さん?)
大変素直に目を閉じた松山。
その長い睫毛にそっと触れた後、驚くほどにキレイに形の整った柔らかそうな唇にそっと自分の唇を重ねる。
「っ・・・・////」
ばっと松山はソファの脇に飛び退いた。
その顔は面白いくらい真っ赤になっている。
「なっ・・・わっ・・・わかば・・・///」
唇に手をやり、松山はあわあわしながら何か言おうとする。
俺は腹の中でその反応を楽しみながら、顔は「一体何を驚いているんだ?」という表情を作ってやった。
「どうした?松山。ゴミ取れたぜ?」
「え・・あ・・・」
しばらく松山は必死で何か考えているようだった。
たぶん、まさか俺がキスするなんてありえないし、手が当たったのを誤解したんだとか考えていたのだろう。
それから「ありがとう。」と、ようやく小声で口にした。

「じゃあ、俺戻るな。お前もいい加減に寝ろよ。」
「ああ。うん。おやすみ。」
「おやすみ。」

階段を昇りながら、甘いキスの感触を思い出す。

ファーストキスはレモンの味とか言うが、松山とのキスは・・・北海道だし、メロン味ってとこか?

とか、そんなことを考えてたら、思わず階段を踏み外しそうになった。

変なところで終わってますね・・・。すみません。特に意味はありません。(笑)
初源松です。いかがでしたでしょうか?(汗)
初心者なんで、許してくださいいいい・・・
とりあえず、源三ファンの方、どうもスミマセン・・・。

おまけの後日談がありますv

top        おまけ