「怒ってる?」
「怒ってねえけど・・・びっくりした。」
「だよねえ。」
そう言って、ふふ、と自嘲気味に笑った。
俺と反町は顔が似てるだとか時々言われるけれど、やっぱり、そんなことないと思う。
俺、こんな表情きっとしたことない。
「酒って、怖いよねえ。」
まるで他人事な言い草。
それから小さな声で ごめんね と言う。
別に謝るようなことでも・・・あるか。結構。
何だかうまく答えられなくて、俺はしばらく黙ってしまった。
「あれって、酒のせい?」
「・・・・・・」
わずかな、間。
「違うよ。」
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今年編入してきた俺にとっては初めてだが、ここでは毎年恒例らしき忘年会兼クリスマス会。
高校の寮(しかも天下の東邦学園の)って、もっと厳しいものかと思っていたけど案外そうでもなくて、
割と自由気ままに寮生活を楽しんでいる感じだ。
それに厳しくないのが逆にいい効果なのか、変に悪いことする奴とかあんまりいない。
とは言え・・・・
「んじゃ、メリクリあーんど今年もおつかれ〜っっ 乾杯!!!」
って、ビールじゃん!!!!
いいのかなあ・・・と思いながらも(いけません。)実はこっそり酒好きな俺もありがたく頂戴する。
一体誰がどうやって買い出しに行ったんだろ??
ビール以外にも日本酒だの焼酎だのもきっちり揃っていて、
これから本格的に宴会らしい宴会になるのは予想がついた。
「お、松山もいけるクチ?」
頭上から小池の声が聞こえた。
「そんなところで飲んでて大丈夫なのか?ベッド酒浸しにするなよ。」
「まあ、俺の寝どこじゃねーし。」
ひどい奴・・・
寮の部屋はどこも同じで、向い合せに二つロフトベッドがあり、その下が机と収納になっている。
ここは反町と、あとサッカー部じゃない奴の二人部屋なんだけど、
現在は俺を含めサッカー部二年生組が10人以上ぎゅうぎゅうに詰まっている状態。
ごめん、今はどこかに避難しているであろう反町のルームメイト・・・
もちろんこの部屋だけで収まるわけもなく、隣の部屋も、その隣も、またその隣も同じような宴会中で
適宜、各自移動という体制を取っている。
何せサッカー部二年生だけで50人近くいるからな。
恐るべし、東邦学園・・・ どんだけ層厚いんだよ・・・
そろそろ酔いもまわってきて「宴もたけなわ」っていうところ。
俺はソフトさきいかをつまみに、ちょいちょい日本酒なんかにも手を出し始めていた。
と、
「おっし。そろそろ行くぞ松山。」
首根っこを掴まれた。
振り向くとそこには日向が。
「行くって?」
「着替えだ着替え。」
「着替え?」
「あれ?聞いてねえのか???」
「?」
日向に連れられるまま部屋の外に出る。
後に続いて一緒に出てきたのは若島津。
「だから、言わないでおこうってことにしたじゃないですか。日向さん。」
ため息混じりの若島津の声は、エアコンで温められた空気と人の熱気で暑いくらいだった部屋の中とは
打って変わってひんやりと静まる廊下に響いた。
「あの日、松山風邪で休んでいたでしょう?」
「そうだったか?」
「あんた、本当に記憶力の欠片もないですね・・・」
2人の会話に?マークをいっぱいとばす俺。
どこからともなく出てきた紙袋から何かの衣装らしきを取り出しながら、若島津が説明してくれた。
「余興だ。二週間くらい前にくじ引きで俺らがやることになったんだ。お前はその日風邪で休んでて。」
「ってことは、俺はくじ引いてないってことだろ?何で」
「休む奴が悪い。」
「う。」
反論できず・・・。そりゃそーだけどさ・・・
っつか、余興て。
今時結婚式ならまだしも、サラリーマンの忘年会ですらあんまりやらないような気がすんぞ・・・。
「でも、それならそれで教えてくれれば」
「教えたら松山、忘年会に姿を現さないと思って。」
「え?」
手渡された衣装は・・・・
「・・・・・これは・・・」
「A●B48だ。」
「・・・・・は?」
何?
何このフリフリ!!このミニスカ!!誰が用意したんだ?手作りか?!
っつかA●B48って何をするんだ?!しかも日向と若島津と俺って?!!!
と、人が目の前でおもくそパニクってるっつーのに、黙々と着替え始める二人。
「若島津、ウェストが入らん。」
「当たり前でしょう。隣の女子高から借りた制服なんですから。安全ピンで止めてください。」
「ん。」
若島津から安全ピンを受け取る日向。
そんな二人のやりとりを、ぼさーっと眺めていると
「松山」
「へ?」
「早くしろ。」
「あ、はい。」
・・・・・・怒られた。
文句のひとつも、拒絶の言葉も言う暇は与えられず。
というか俺よりもずっとガタイの良い二人が、がっつりお着換えタイムなのを目の前にしたら何も言えまい・・・。
言われるがままに着替えを始める。
そうか。この衣装どこかで見たことあると思ったら隣の女子高んのか。
それにこのピラピラを縫い付けてあるのか。
って。
そんなことに感心している場合ではない。
すっかり着替え終わった俺たちは、もう、なんてゆーか、ツッコミどころ満載・・・
全体的に丈が足りてないのは言うまでもなく、汗臭い(今は酒臭いか?)男にフリフリのスカートって!!
やっぱどうなんだ?!!着替え終わったけどどうなんだ?!!どうもこうもねえけど!!
っつか
「何すんだ?!これ着て!!」
「だから。A●B48だ。」
いやいやいやいやいや。
「心配することはないぞ松山。若島津は歌もダンスもばっちりだからな。適当に合わせればいい。」
「そうだ。大船に乗った気でいろ。」
むしろそんなお前が心配だぞ!!若島津!!歌もダンスもばっちりって!!!
「ひゅ、ひゅーがもばっちりなのか?」
「俺は全然だ。」
自信満々に開き直る日向に、若島津は「あんた練習する気もないでしょう。」と正しいけど間違った説教をした。
そして
わけのわからんままに、俺は二人と共に先ほどいた部屋に突入したのだった。
(続く)
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