「すっかり秋だな〜」
「あ、今日富士山雪積もってたぜ?」
「マジで?!どーりで肌寒いと思った。」
朝からの井沢と滝の会話に、まだまだ違和感を感じる今日この頃…
「なあ、北海道はもう雪降るのか?」
相変わらずのくるくる天パ髪を揺らしながら、笑顔でそう尋ねてくるのは来生だ。
「そーだな… 11月半ばくらいには、平地でも降るかな。」
「そうか。さすが北海道だな。」
さすがって、なんだ…?
ここら辺は雪がほとんど降らないとは聞いていたけど、そんな目をキラキラさせて言うほどのことなのか???
俺が4月から南葛高校に入学して数カ月。
気候は違うけど、のんびりしている土地柄はどこか富良野に似ている気がして。
それほど苦労することなく、この街に馴染めたと思う。
思うけど…
やっぱ静岡あったか過ぎる!!!だろ!!!
これで11月って… 真冬ってどーなってんだ??
「松山ったら、まだ家ん中じゃ半袖に短パンなんだよ〜」
「別にいいだろっ」
俺の後ろにいた岬が、やけに嬉しそうに言いやがった。
そう、実は俺、南葛市に引っ越してきてから岬と一緒に住んでいるんだ。
しかも、ブラジルに旅立った翼の家に。
外国船の船長さんをしている翼の父親はほとんど家にいなくて、しかも翼の弟、大地はまだ1歳半。
母親だけじゃ不安だからって、南葛高校への入学が決まった時に翼から頼まれた。
公立の南葛高校に寮はないから、
どうにかして一人暮らしをしなければならなかった俺にとっては勿論ありがたい話だった。
その上、父親がまた急に「今度は中国へ行く」と言いだした岬も一緒に住むことになって…
「大地元気〜?」
「元気だよ。昨日も俺、風呂に入れてやったんだぜっ」
まさか翼の弟の世話をすることになるとは思ってもみなかったけど。
とにかく、1歳半の子供のかわいさったらない。
歩き始めたばっかりでポテポテしてるし、喋っても宇宙語みたいだし。
「松山が風呂に入れて、出てからは僕がパジャマを着せて、麦茶を飲ませてやるんだよ〜」
「松山と岬、すっかりお兄ちゃんだと思われてるだろうな。」
「そうなんだよね。ナツコさんもそれを心配してるんだ。
翼君が帰ってきた時『この人誰?』ってならないかって。」
岬の言う『ナツコさん』というのは翼の母親のことだ。
俺たちが最初「なんて呼んだらいいですか?」って聞いたら、そう呼んでくれって言ったから
それで、俺も岬も『ナツコさん』って呼んでる。
「じゃ、また部活でな〜」
「おー。」
南葛高校の1年生は9クラス。
まだ文系理系には分かれていないから、誰とでも同じクラスになる可能性はあるわけだけど、
さすがに9分の1の確率だと、そうそう同じクラスにはならない。
俺は同じ学年のサッカー部では井沢とだけ同じクラス。
岬と石崎は隣のクラスだから、2クラス合同の体育の時は一緒になる。
「おーい。松山〜」
席について一時間目の支度をしていると名前を呼ばれた。
「石崎」
「おっす。」
「おう。」
石崎は隣のクラスなのに、自分のクラスみたいにズカズカ入ってきた。
「これ、見たか?」
「?雑誌?」
「貸してやるよ。後で返せよ。」
別に貸してくれなんて言ってないけど…
雑誌をぐいぐい押しつけて、石崎はまた「後で返せよ〜」と言って教室を出て行った。
「……?」
表紙は、日本代表のDF、今はドイツで活躍する内田選手の写真。
そーいや、この人も静岡出身だったな。
雑誌名を見て、サッカー雑誌ではあるけど、どちらかと言うとサッカー好き女子向けの雑誌な感じがあって
俺は手に取ったことがないやつだと気付く。
サッカー雑誌っつか、ほぼファッション誌(アイドル誌?)に近い。
…石崎、分かって買ってんのかコレ…
最初の数ページはカラーで、人気のあるサッカー選手のファッションの特集とかをしていて。
その後に、ん…?これから期待の高校生サッカー選手をチェック…?
「ぶはっ」
三杉だーーーーっっ
思わず吹き出してしまった。
ファンクラブまで紹介されてる。ぷふふ…
華麗なるフィールドの貴公子!!!って!!!
インタビューもされてるってことは、ちゃんと取材受けてんだな。すげー。
次のページには…
「げっ…」
猛虎… 今時珍しい肉食系… ドキドキする野性的な魅力…
「おはよー。席つけよ〜 朝のHR始めるぞ〜」
担任が教室に入ってきて、俺は慌てて雑誌を鞄にしまった。
おぅおぅ… なんだなんだアイツめ。調子乗りやがってよぅ…
「ただいま〜」
「はいはい、おかえりなさい。キャー!ちょっとちょっと!!二人ともっ 靴下脱いでからあがってちょーだいっ」
「はーい。」
ナツコさんに言われ、俺も岬も靴下を脱いだ。
ああ… 確かに真っ黒だ… スミマセン;;
ナツコさんに洗濯をするからそのまま風呂に直行!って言われて、俺たちはとりあえず風呂に入ることにした。
勿論すでに風呂は沸いている。
朝も晩も、食べ盛りの俺たちに合わせた食事を作ってくれて、弁当もほぼ毎日作ってくれて。
洗濯も掃除もみんなやってもらって、ホント、お世話になりっぱなし…
ナツコさんは「翼がいた時と変わらないわよv」って言ってくれるけど、
二人に増えた上、実の息子じゃないんだから、変わらないはずはないと思う。
「松山、どうしたの?」
脱衣所でジャージを脱ぎながら岬が尋ねてきた。
「いや、世話になりっぱなしだな〜って、つくづく思って。」
「今更?」
岬は笑って言った。
「その分、大地のお世話もしてあげて、番犬代わりにもしっかりならなくっちゃね。」
「犬かよ…」
「クリスマスパーティーくらいは僕たちで準備しようか。」
「…いいけど。クリスマスくらい、翼も帰って来るんじゃねえの?」
「まだしばらくは帰らないって、そう言ってたよ。」
「…ふうん。」
なんつーか、ブラジルにいる翼と、ちゃんと連絡取り合ってんだなってことの方に驚いた。
岬は「先に入ってるよ〜」と言って、風呂場の戸を開け中に入った。
俺も慌てて服を脱ぎ、洗濯機に入れると後に続く。
翼んちの風呂は広くて綺麗で、高校生の俺と岬が同時に入っても大丈夫なくらい。
とは言え、さすがに湯船に二人浸かることは出来ないので、
一緒に入る時は一人が洗っている間にもう一人が湯船に浸かるスタイルをとっている。
岬が先に頭を洗っていたので、俺は軽く身体を洗って流してから湯船に浸かった。
「はあああ〜〜vvvv」
「松山、じーさんみたい。」
「いいのーー。」
練習で疲れた後の風呂って最高だ〜vvv
んで、この後の飯も最高vvv
「岬って、翼とちゃんと連絡取ってんだな。」
「取ってるよ。若林君とだって取ってるよ。」
「あ、そーなんだ。」
「松山は取ってないの?」
「連絡先とか知らねーし。」
「いや、普通にネット上でさ。」
「……ああ。なるほどね。」
岬の目が、コイツ言ってる意味分かってねえな… と言っている。
「違うぞ!別にやり方が分からないんじゃないぞ!面倒なだけだ!!」
と、思わず本音を言ったら
「別に何にも言ってないじゃん。」
冷たく返された;;;
にしても、岬も出会った時には女の子かと思うくらいひょろひょろしてたけど逞しくなったもんだぜ。
俺、実は「みさき」って苗字じゃなくて名前かと思ってて、だから本当に女子だとしばらく思い込んでいた。
その『みさきちゃん』が初恋の人だってことは、岬には恥ずかしくて教えてないけど。
「はい、交代。」
岬が言ったので、俺は立ち上がってよっこいしょーっと湯船から上がった。
「うわあ。松山の股間を間近で見ちゃった…」
「嫌そうだな」
「嫌だよ。」
なんかショック… とか思いながら、俺はシャンプーに手をかけた。
晩飯も食い終わって、岬と一緒に食器を洗って。
大地と遊んでいたらナツコさんに、
「遊んでくれるのはありがたいけど、そろそろ寝かせるから。
二人もちゃっちゃと宿題を終わらせて、早く寝なさいよ。」
と言われてしまった。
俺たちは泣きわめく大地に後ろ髪をひかれながら、階段を昇って2階に上がる。
ナツコさんと大地は1階の寝室で寝ていて、2階は俺と岬しか使わない。
岬は元々翼が使っていた部屋を使い、俺は向かい側の、将来は大地の部屋になる部屋を借りている。
どうせ使うことになるから、と、大空家の方で勉強机とベッドは買ってくれてあって、
俺はそれをありがたくお借りしていた。
自分の部屋に入って電気をつけると、放り投げたままになっていた鞄を開けた。
今日の宿題は…と。
「あ。ヤベ…」
石崎に借りた…というよりは押しつけられた雑誌、そのまま持って帰ってきちまった。
…ま、いいか。まだ読んでねーし、明日返そう。
俺は雑誌を取り出して、勉強机の上にのせた。
「……」
宿題は、やります、後で。はい。
雑誌を開き、学校で一瞬しか見れなかった、アイツのページを探す。
最後に会ったのって、いつだったっけ…
『美しき褐色の野生児 日向小次郎』
いやいや、褐色で野生児を無理矢理美しくするってどうなんだ…
アップの写真は試合中なんだろう。FKかPKの前の、ゴールを見据えている瞬間…みたいな。
サッカーしてる写真がほとんどだけど、中には学校の制服を着た写真なんかもあって。
…制服なんか、初めて見たぞ…
「ネクタイ似合わねえの」
思わず独り言を言ってしまった。
日向も、インタビューとか受けるんだな。
まあ、それは日向がというよりは、東邦学園が受けさせたってことなんだろうけど。
内容的には女子向け雑誌らしく、あまりサッカー自体のどうこうはなくて。
高校生活はどうだとか、食べ物は何が好きだとか…
もっと、こう、サッカーの技術的な秘密とか書きやがれってんだ!!何の役にも立たねえぞ。
Q:休みの日は何をしていますか?
A:サッカーです。
バカか!!!サッカーしてない時の話だろうが!!!
心の中で激しくツッコんだが、
良く考えたら俺も試合や練習がなくても公園でサッカーしてるから人の事言えない…
Q:ライバルは誰ですか?
A:大空翼です。
…なんだよ。俺って言えよ。
俺なら絶対、日向小次郎ですって言うのによ…
「なんか腹立つ…」
と、また独り言を言ったら、ドアがノックされて「松山入るよ〜」と岬の声がした。
「ねーねー。これ、まだ見てないでしょ?って、あれ??松山も買ったの?」
見れば岬の手にも同じ雑誌が。
「あ、いや、これは石崎に借りたやつで」
「ああ。そーなんだ。石崎に借りなくても僕持ってたのに。」
「お前もこういう雑誌買うんだな。」
「ううん。ほら、今回は翼君が特集されてたからさ。だからみんな買ってるんだよ。」
「ん?翼???」
「表紙にでかでかと書いてあるじゃん。松山気付かなかったの??」
慌てて表紙を見ると、確かに。
『特集:大空翼、ブラジルから愛をこめて』
って、書いてある。
…愛をこめる必要があんのかどうかよく分からないけど。
「松山、どーせ小次郎のとこしか見てなかったんでしょ。」
「っ なんでだよ!!!気持ち悪いこと言うんじゃねえっっ
まだ翼の特集のところまで辿りついてないだけだ!!!」
「どーだか。」
なんか、ちょいちょい日向のこと言ってくんだよな岬のやつ。
俺は雑誌をペラペラとめくって、真ん中あたりにあるカラーのページで手を止めた。
「おお。すげーな翼。」
三杉も日向も注目されてるんだろうけどレベルが違う。
日本代表選手と同じくらいの扱われ方だ。
「あ。岬ものってる。」
「中学の時のやつだね。」
「なあ。岬には取材来なかったのか?」
「僕ってゆーか、松山も含め南葛にも来たみたいけどね。うちは公立だから。そーゆーのは断るみたい。」
「ふーん。」
岬は俺が座ってる後ろから手を伸ばしてページをめくった。
「翼君、元気そうだね。でも、少し痩せたかな。ご飯合わないのかな…」
「真っ黒に焼けてるな。日向みてーだ。」
背後で、岬の小さなため息が聞こえた。
「本当にブラジルにいるんだね…」
「何だよ、突然。」
「だって、ブラジルだよ?地球の裏側だよ?会いに行くったって、何時間かかるんだって話じゃん。」
「…まあ、な。」
「いいな、松山は。小次郎なんて、新幹線乗って1時間ちょいで会いに行けちゃうんだから。」
高速バスだって3時間もあれば着く、って!!!
だからなんで日向にこだわるんだ!!!
「別にわざわざ会いたかねーよっっ」
「素直じゃないなぁ。松山も。近いんだから、連絡とって行けばいいのに。」
「だからー」
その日向押しは何なんだ!!ってば!!!!
もー、いい加減疲れる… とか思ってたら、ビリビリビリ…と紙を破く音が聞こえてきた。
「はい。そっちは石崎んのだから、返すんでしょ?これあげる。」
「は?!」
自分の雑誌の方の日向のページを切り取って、俺の方に差し出してくる。
「…いらねーって。」
「いいから。」
「いや、だから」
「いいのっ」
岬は勉強机の上においてある、透明のビニールのシートをべろーんとめくって
その間に切り取った日向のページを勝手に挟みやがった。
「良かったね松山」
「良かねえ」
「ホント、素直じゃないね。いい加減やめなよ。」
俺はお前の日向押しを、いい加減やめて頂きたいんだけどっっ?!!!
岬は勝手に満足して、「じゃ!」と部屋を出て行った。
机に残された、日向の切り抜き。
…ええええええ〜…
毎日これ見ながら勉強しろってか????
俺は非常に微妙な気持ちになりながら、でも捨てるのもなんだと思いとりあえず裏返してみたが、
しまった!!!裏は三杉だ!!!!
「…ううん」
三杉の顔はキレイだけど、なんか怒られてる気分になるんだよな;;;
なら日向の方がマシか…
そう思って、結局元に戻した。
富良野から東京は、遠い。
そりゃ、静岡とブラジルに比べたらよっぽど近いけど。
でも、静岡から東京は、遠くはない。
むしろ近い。
新幹線なら1時間、高速バスでも3時間…
「………」
富良野に帰るには、どちらにしろ東京まで出て飛行機に乗らなければならないわけだから。
まあ、その時に、東邦学園に寄ってやってもいい、ぞ。
考えておいてやろう。
首洗って待ってろ!!日向!!!!
(完)
いつも、松山は東邦に転校設定ばかりなので、一度やってみたかった南葛設定です。
(東邦と違って転校自体が無理のある設定ですが、そこは大人だから流そう!!
ちなみに今回は、転校ではなく、普通に一年生から入学しています)
そして一話読み切り連載もしてみたかったのです。
この調子で一話読み切り連載に出来ればいいですね…(他人事。)
岬と一緒に、翼んちで同居生活って面白いvv
CPは色々です。
マツコジのような、岬松のような、GCのような、源守のような、源岬のような…
そのうち新田×松とか、浦辺君もからませたいvv
ハッキリした恋愛というよりは、友情と恋愛の間みたいな。
基本、表です。
ダラダラと不定期で…
*弟、大地君の年齢設定は、原作通りだともう少し下になるかもしれないです。
ま、いっか〜。